決算が近づくと、必ずいただくご相談があります。「先生、今期は利益が出そうなので、何か節税を」。
お気持ちはよく分かります。ただ、その前に一度だけ考えていただきたいことがあります。
先生が本当に望んでいるのは「税金を減らすこと」でしょうか。それとも「手元にお金を残すこと」でしょうか。
この2つは、似ているようで正反対の結果を生むことがあります。この記事では、なぜ節税をしてもお金が増えないのかを、数字で整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 節税をすれば、お金は残るのですか。
- 残りません。むしろ減ります。経費を増やす節税は、お金を払わなければ成立しないためです。税金を払ったあとに残る現金のほうが、多くなる場合がほとんどです。
- では、節税は一切しないほうがよいのですか。
- そうではありません。
やるべきなのは、支出がもともと必要なもの(役員社宅、出張日当、来期の売上につながる投資など)を、制度に沿って正しく経費にすることです。
節税のためだけに新たな支出をつくることが問題です。 - 「節税商品」を勧められています。判断の基準はありますか。
- ひとつだけです。「節税にならなくても、その事業をやりますか」。YESなら投資として検討する価値があります。NOなら、それは節税ではなく、ただの支出です。
節税の目的は「税金を減らすこと」ではない
はじめに、言葉を整理させてください。先生が「節税したい」とおっしゃるとき、その奥にある本当のお気持ちは、おそらくこうです。
- 手元にお金を残しておきたい
- 万が一のときのために、取っておきたい
- 同じ払うなら、税金より医院のために使いたい
つまり、目的は「お金を残すこと」であって、「税金をゼロにすること」ではないはずです。
ところが実務では、この2つがいつの間にか入れ替わります。税金がゼロになった瞬間に「節税成功」と感じてしまう。
ここが、すべての出発点です。
税金の計算は、「収入 − 経費 = 利益」「利益 × 税率 = 税金」という、たった2行の式でできています。
ここから分かるとおり、節税の方法は①経費を増やす ②税率を下げるの2つしかありません。
そして①は、お金を払わなければ成立しません。
理由① 節税のために、お金を使うから
経費を増やすには、何かを買うか、サービスの提供を受けるしかありません。お金を払わずに経費だけを作る行為は、節税ではなく脱税です。
分かりやすく、数字で並べてみます。利益が1,000万円出て、同額の現金も増えた、という前提です。
| 節税した場合 | 節税しなかった場合 | |
|---|---|---|
| 利益 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 節税のための支出 | ▲1,000万円 | 0円 |
| 課税される所得 | 0円 | 1,000万円 |
| 税金 | 0円 | 約350万円 |
| 手元に残る現金 | 0円 | 約650万円 |
税金はゼロになりました。しかし手元の現金もゼロです。一方、素直に納税したほうは、350万円を払ってなお650万円が残っています。
では、この650万円を医院に投資したらどうなるでしょうか。新しい医療機器、スタッフの増員、内装の刷新、集患のための広告。
先生がいちばん詳しい領域に使うのですから、外部の見知らぬ事業に1,000万円を預けるより、期待できるリターンは高いはずです。
税率を下げる、という節税の限界
もうひとつの方法、税率のほうも見ておきます。
法人税には所得に応じた段階があり、所得800万円以下の部分には軽減された税率が適用されます。
実効税率でおよそ25%前後、800万円を超える部分はおよそ37%前後というのが、中小規模の法人のおおまかな姿です。
つまり、所得が800万円に届かない年に無理な節税をしても、効果は薄いということです。利益の4分の3は法人に残るのですから、そこは素直に納めたほうが、結果として手元は厚くなります。
理由② 最終的には、結局税金を払うから
2つめの理由です。いわゆる節税商品の多くは、数年後にお金が戻ってくる設計になっています。戻ってこなければ、ただお金を捨てたことになりますから、当然です。
しかし、戻ってきたお金はその年度の収益になり、そこで課税されます。つまり、税金が消えたわけではなく、払う時期を先に延ばしただけです。
先送りは、将来の税率が今と同じであることを前提にした賭けです。将来の税率は誰にも分かりません。もし引き上げられていれば、節税した金額以上を払うことになります。
それは節税ではなく、単なる先送りの手数料です。
理由③ 3年後・5年後は、誰にも分からないから
3つめです。医院の経営が3年後・5年後にどうなっているか、先生は断言できるでしょうか。
診療報酬の改定、近隣の開業、ご自身の健康、スタッフの入れ替わり。
コロナ禍を経験した私たちは、5年先が読めないことをよく知っているはずです。
節税商品は、法人の外にお金を預ける行為です。預けたお金は、必要になったときにすぐ引き出せるとは限りません。
手元に残した現金は、先生の判断でいつでも動かせます。
この「自分でコントロールできるかどうか」の差は、想像以上に大きいものです。
手を出してはいけない「節税商品」の見分け方
世の中には、節税を売り文句にした商品が数多くあります。
コインランドリー、太陽光・高圧電力、トランクルーム、各種のレンタル事業、航空機・船舶のオペレーティングリース、海外の中古不動産、そして節税保険。
個別に良し悪しを論じるより、ひとつの質問で足ります。
「節税にならなくても、先生はその事業をやりますか」
YESなら、それは投資です。事業として検討する価値があります。
NOなら、それは節税ではありません。よく知らない事業に、お金を預けるだけです。
節税保険は、いくら払っているのか
分かりやすいので、保険を例に計算してみます。年間500万円の保険料が全額経費になり、税率30%とすると、節税額は年150万円です。
返戻率がもっとも高くなる5年後に解約するとします。払った保険料は2,500万円、節税できた累計は750万円。
そして戻ってくるのが80%の2,000万円だとすると——差額の500万円はどこへ行ったのでしょうか。
保険会社の収益です。つまり750万円の節税をするために、500万円の手数料を払ったことになります。しかも戻ってきた2,000万円には、その年に課税されます。
さらに怖いのは、5年間ずっと利益が出続ける保証がないことです。途中で解約すれば、返戻率は大きく下がります。
資金繰りが苦しいときに、いちばん解約したくなる——これが、この商品のもっとも厄介な性質です。
紹介した税理士が、万が一の損失に責任を取ることはありません。投資を決めたのは先生だからです。
また、紹介者には販売元から手数料が支払われていることが少なくありません。
「専門家が勧めているから安心」は、判断の根拠になりません。
医療法人の場合、もう一段深い論点がある
ここまでは、一般の会社にも共通する話です。医療法人には、さらに固有の事情があります。
配当ができないぶん、内部留保が積み上がる
株式会社であれば、利益は最終的に株主への配当という出口を持ちます。しかし医療法人は、剰余金の配当が医療法で禁止されています。利益は法人の中に積み上がり続けます。
これが持分あり医療法人の場合、積み上がった内部留保はそのまま出資持分の評価額を押し上げます。つまり、きちんと納税して利益を残すほど、将来の相続税が重くなるという構造です。
では節税すべきかというと、そう単純でもありません。過度な節税は決算書を痛め、融資も分院展開も遠のきます。
ここは「節税するか、しないか」ではなく、出口をどう設計するかの問題です。持分の承継、持分なし医療法人への移行、理事長退職金の設計——それぞれ効き方が違います。
当事務所では、外部にお金を預ける節税商品のご提案は一切しておりません。
ご提案するのは、役員社宅・出張日当・退職金の準備・持分対策のように、医院の中でお金が回り、かつ制度として認められているものだけです。
まとめ:回すべきは、このループです
節税でお金は増えません。増えるのは、次のループを回したときだけです。
- 診療に力を入れて、利益を出す
- きちんと納税する
- 決算書がよくなる
- 銀行から、よい条件で借りられる
- そのお金で、医院にさらに投資する
このループを回し続けることが、いちばん確実な資産形成です。変な節税をしないことが、いちばんの節税になります。
先生の医院では、どこまでが「やるべき節税」でしょうか。
すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。
いま入っている保険や、勧められている商品が本当に必要なものかも含めて、気づいた点をお伝えします。
これから法人化を検討される先生には、医療法人化シミュレーションで数字をご覧いただけます。
無料で相談する9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。
LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。
9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。
結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。
LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る
※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。
※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。
個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。
最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。