決算が近づき、思ったより利益が出そうだ——そんなときに候補に挙がりやすいのが広告費です。

ホームページを作り直す、検索連動型の広告を出す、求人サイトに枠を取る。

広告宣伝費には交際費のような損金算入の上限規制がなく、原則として支出した全額が経費になります。使い勝手という点では、たしかに優等生です。

ただし医療法人の場合、話は税務だけで終わりません。

医療機関の広告には、医療法にもとづく広告規制という、税法とはまったく別のルールがあります。経費として問題がなくても、広告の中身が医療法上アウトということは起こり得ます。

この記事では、税務上の取扱いと、医療法人ならではの注意点を分けて整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

広告宣伝費は、どこまで経費になりますか。
原則として支出した全額が損金になります。
交際費のような損金算入の上限がないため、金額の大小で経費性が否定されることは基本的にありません。

ホームページ制作費、ネット広告、チラシ、看板、求人広告などが該当します。
交際費と間違われることはありませんか。
あります。広告宣伝費と認められる前提は、支出の相手が不特定多数であることです。

特定の紹介元や特定の患者さんだけに利益が及ぶ性質の支出は、名目が広告費でも交際費と判定されるおそれがあります。
医療法人ならではの注意点はありますか。
医療法にもとづく広告規制があります。
誇大広告、他院との比較優良広告、患者さんの体験談などは規制の対象とされており、ホームページも一定の範囲で対象になります。

税務上OKでも医療法上NGということがある——ここが医療法人の広告の難しさです。

広告宣伝費は、原則として全額が損金になる

まず税務上の位置づけからです。

広告宣伝費は、不特定多数の人に向けて自院の存在やサービスを知らせるための支出で、支出した事業年度の経費として原則そのまま損金になります。

交際費のように「一定額まで」といった上限規制がかからないのが、いちばんの特徴です。

広告宣伝費に該当する主なもの

区分具体例
デジタル ホームページの制作・リニューアル、検索連動型広告、SNS広告、予約サイトへの掲載料
紙・屋外 チラシ・パンフレットの制作と配布、地域情報誌への掲載、駅や道路沿いの看板、院内外のサイン
採用 求人サイトへの掲載料、採用パンフレット、就職説明会の出展費用
その他 診察券・封筒などに院名を入れる費用、地域向け健康講座の告知費用
支出した年に全額落ちるとは限りません

金額が大きく、効果が翌期以降にも及ぶものは、支出した年に一括で落とせない場合があります。

ホームページでも、制作の内容によってはソフトウエアとして資産計上し、減価償却の対象になることがあります。

また、期末までに支払っていても、実際の掲載が翌期であれば前払費用として繰り延べる整理になるのが原則です。

金額が張る広告ほど、契約前に取扱いを確認しておくのが安全です。

どこまでが広告宣伝費か——交際費との境界線

広告宣伝費と交際費を分ける実務上のポイントは、ほぼ一点に集約されます。その支出が、不特定多数に向けられたものかどうかです。

地域に配ったチラシは、誰の手に渡るか特定できません。だから広告宣伝費です。

一方、紹介してくれた特定の先生や、特定の取引先を対象にした接待・贈答は、名目を広告費にしても交際費です。

相手が絞られていて、その相手に個別の利益が及ぶ形になっていれば、交際費として扱われる可能性が高くなります。

判断が分かれやすい例

ケース考え方
院名入りのカレンダー・ボールペンを一般の来院者に配る 不特定多数向けで、単価も小さいものであれば広告宣伝費として整理しやすい
紹介元の医療機関へ、お中元・お歳暮を贈る 相手が特定されており、交際費として扱われるのが通常
地域のイベントに協賛し、看板やパンフレットに院名を掲載 掲示による宣伝効果が明確なら広告宣伝費。掲載の実態がなく、付き合いでの支出であれば交際費や寄附金の検討が必要
患者向けの健康セミナーを開催し、参加者に軽食を出す 広く告知して誰でも参加できる形なら広告宣伝費寄り。参加者が限られ、飲食が主目的になっていれば交際費寄り

医療法人は、一般の事業会社に比べて交際費の額そのものが大きくないケースが多いのですが、だからこそ「これは広告費でいいだろう」と流してしまいやすい面があります。

相手が特定されている支出は、いったん立ち止まって整理しておくと、あとで説明に困りません。

交際費側の考え方は医療法人の交際費の記事で整理しています。

支出の相手が不特定多数なら広告宣伝費として全額損金、特定の相手だけに利益が及ぶなら名目が広告費でも交際費と判定される。医療法人には税務とは別に医療広告規制がある。
相手が不特定多数かどうかで、広告宣伝費と交際費が分かれます。

医療法人だけの論点——医療広告規制という別のルール

ここからが、医療法人にとっていちばん大事な部分です。

医療機関の広告には、税法とは別に、医療法にもとづく広告規制があります。

厚生労働省が定める医療広告ガイドラインで、広告に載せてよい内容・載せてはいけない内容が細かく整理されています。

おおまかに言えば、誇大な表現、他院と比較して自院が優れているとする表現、患者さんの体験談、術前術後の写真の使い方などが規制の対象として挙げられています。

「日本一」「絶対に治る」といった表現がだめなのは想像がつくと思いますが、規制の範囲はもっと広く、ホームページについても一定の範囲で広告として扱われます。

かつては「患者が自ら見にいくもの」として扱いが違いましたが、現在は広告規制の対象になり得ます。

この記事では、具体的な線引きまでは示しません

医療広告規制は税務ではなく医療法の領域であり、どの表現がどこまで許されるかは、診療科・広告媒体・記載のしかたによって判断が変わります。

「限定解除」と呼ばれる仕組みを使えば広告可能な範囲が広がる場面もありますが、その要件を満たしているかどうかの判定は個別性が高く、一般論として断定できるものではありません。

広告を出す前に、必ず保健所・所管の行政庁や、医療広告に詳しい専門家に内容を確認してください。

当事務所でも、税務の観点とあわせてご相談を受け付けています。

実務で起きがちなのは、制作会社の提案どおりに作ったら、医療法上まずい表現が入っていたというパターンです。

一般企業の広告制作に慣れている会社ほど、「効果が伝わる表現」を提案してきます。

それが医療機関では使えないことがある、という前提を、発注する側が持っておく必要があります。

税務上の経費性と、医療法上の適法性は、まったく別の話です。両方をクリアして初めて、その広告は出せます。

節税だけを目的にした広告は、本末転倒になる

ここで、当事務所の基本的な考え方をお伝えしておきます。

広告費は「節税のために使うもの」ではなく、「事業を伸ばすために使った結果、経費にもなるもの」です。順序が逆になると、たいていうまくいきません。

簡単な数字で確かめてみます。仮に法人税等の税率を30%とすると(このサイトの医療法人化シミュレーションと同じ前提。

医療法人の法人税等は所得800万円以下が20%、超える部分が30%で、ここでは超える部分の30%で計算しています)、期末に300万円の広告を出した場合の税の圧縮額は、およそ90万円です。

つまり、節税だけを目的に広告を出すと、確実に手元の現金は減ります。200万円を払って100万円を取り戻す取引に、それ自体の合理性はありません。

この支出が意味を持つのは、その広告が新しい患者さんや、採用したかった人材を連れてきたときだけです。

判断に迷ったときの一つの問い

「もし節税にならないとしても、その広告は出しますか。

」——この問いに「出す」と答えられる支出なら、迷わず実行してよいと考えています。

逆に、答えが「節税になるから出す」であれば、それは広告ではなく、ただ現金を減らしているだけかもしれません。

決算前に慌てて枠を押さえるより、年度の初めに広告予算を組み、効果を見ながら使っていくほうが、結果的に法人は強くなります。

同じ発想は、集患以外にも当てはまります。

採用広告や、スタッフ教育、業務効率化のための投資も、支出した年の経費になりながら、翌期以降の法人の体力になる支出です。

目に見える売上に直結しなくても、離職が減る、業務が回るようになる、といった形で返ってきます。

「経費を使って税金を減らす」ではなく、「使うべきところに使ったら、たまたま税金も減った」という順番で考えたいところです。

実務での進め方——決める順序を間違えない

最後に、広告を検討するときの進め方を整理しておきます。順序が大事です。

検討の順序

ステップやること
1.目的を決める 集患なのか、特定の診療の認知なのか、採用なのか。目的が曖昧なまま媒体を選ばない
2.医療法上の可否を確認する 掲載したい内容が広告規制に触れないか。制作に入る前に確認するのが鉄則
3.金額と時期を決める 年度の広告予算として組む。決算対策としてではなく、事業計画として決める
4.税務上の処理を確認する 一括で経費になるのか、資産計上や前払費用になるのか。契約前に顧問税理士と共有
5.記録を残す 契約書・請求書に加え、掲載内容や実際の掲載期間がわかる資料を保存する
6.効果を見る 新患数・予約数・応募数など、追える指標で振り返り、翌年の配分を決める
注意

期末ぎりぎりに大きな広告契約を結ぶ場合、掲載が翌期にずれ込めば、その分は当期の経費になりません。

「今期の節税のつもりだったのに、経費に落ちなかった」というのは実際によくある話です。

支払った時期ではなく、役務の提供を受けた時期で判断されるのが原則だとお考えください。

広告宣伝費は、上限規制がなく、使い方しだいで法人を伸ばせる、数少ない“前向きな経費”です。

ただし医療法人の場合は、税務のフィルターと医療法のフィルター、その両方を通す必要がある。この二段構えを押さえておけば、広告は安心して攻めに使える手段になります。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。