スタッフの給料を上げたい。でも上げれば社会保険料も一緒に上がる。 医院の負担は増えるのに、スタッフの手取りは思ったほど増えない——院長先生から、この相談をよく受けます。
2026年4月に、この話に効く改正が2つ入りました。
駐車場代が月5,000円まで税金がかからなくなったことと、 食事の補助が月3,500円から7,500円に上がったことです。
どちらも「給料を上げる」のとは別のルートで、スタッフの手元に残るお金を増やせます。
この記事の結論
- 2026年4月に、何が変わったのですか。
- 3つです。①一定の条件を満たす駐車場・駐輪場の代金が、月5,000円まで通勤手当として税金がかからなくなりました。②食事の補助が、月3,500円から7,500円に上がりました。③マイカー通勤の距離の区分に片道65km以上が加わり、最高で月66,400円になりました。
- 医院にいちばん効くのはどれですか。
- 駐車場代と食事の補助です。片道65km以上を通うスタッフはまずいないので、距離の話はほとんどの医院に関係ありません。一方、スタッフ用の駐車場を借りている医院、自転車通勤の方が駐輪場代を払っている医院、お昼や当直の食事を出している医院は、そのまま使えます。
- 税金がかからないなら、社会保険料もかからないのですか。
- いいえ。ここが最大の落とし穴です。通勤手当は税金がかからなくても、社会保険料の計算には入ります。食事のほうは、本人が一定額以上を払っていれば計算から外れますが、その基準が税金(半分以上)と社会保険(3分の2以上)で違います。間違えると、片方だけしか外れません。
2026年4月に変わった3つ
| これまで | これから | |
|---|---|---|
| 駐車場・駐輪場の代金 | 全部が給料あつかい(税金がかかる) | 月5,000円まで税金がかからない |
| 食事の補助(月あたり) | 3,500円まで | 7,500円まで |
| 夜勤のときの食事代(1回) | 300円まで | 650円まで |
| マイカー通勤(片道65km以上) | 55km以上は一律38,700円 | 最高66,400円 |
食事の3,500円という数字は昭和59年から40年以上そのままでした。 駐車場代にいたっては、これまで枠そのものがありませんでした。
距離の話は、ほとんどの医院に関係ありません
ニュースで大きく出たのは「通勤手当が月66,400円まで」という部分です。 ただ、これは片道95km以上を通う人の話です。
55km未満の区分は、1円も動いていません。 クリニックのスタッフで片道65km以上を毎日通っている方は、そう多くないはずです。
この改正で医院に意味があるのは、次の駐車場代のほうです。
本命は駐車場代の5,000円。ただし自宅の駐車場はダメ
新しく入ったのが、駐車場・駐輪場の代金を通勤手当に上乗せできる仕組みです。 距離に応じた金額に、月5,000円まで足せます。
これまで、スタッフの駐車場代を医院が出すと、原則として全額が給料あつかいで税金がかかっていました。 月5,000円とはいえ、そこから外れたのは大きな変化です。
ただし、対象になる駐車場には範囲があります。
- 医院の近くにある駐車場(スタッフ用に借りているもの)
- 通勤で使う駅の近くにある駐車場
マイカー通勤のスタッフが自宅の駐車場を借りていても、その代金は対象外です。 あくまで「職場の近く」か「通勤で使う駅の近く」に限られます。
自宅の駐車場代を手当で出せば、これまでどおり全額が給料あつかいです。
もうひとつ大事なのが、駐輪場も入るという点です。 自転車やバイクで通うスタッフの駐輪場代も、同じ枠で扱えます。 駅前や繁華街のテナントに入っている医院ほど、こちらが当てはまるはずです。
複数の駐車場を使っている場合は合計で見ます(上限5,000円)。 なお片道2km未満のスタッフは対象外です。
医院が代わりに借りている場合も同じです
「スタッフに手当として渡しているのではなく、医院が駐車場を借りて払っている」というケースもあります。
これも実質は駐車場代を手当で渡しているのと変わらないとして、同じ扱いになります。
片道50kmをマイカーで通うスタッフに、通勤手当32,300円を出していて、 さらに医院が月6,000円の駐車場を借りている場合。
・距離に応じた枠:32,300円
・駐車場:5,000円(6,000円だが上限で頭打ち)
・合わせて税金がかからないのは:37,300円
→ 出している合計38,300円のうち、1,000円に税金がかかります。
なお、駐車場代を税金なしで出すために、契約書や領収書を必ず見せてもらう義務はありません。 ただ金額を計算する以上、その根拠になる書類は確認しておく必要があります。 料金が変わったときは申し出てもらう形にしておくのが安全です。
食事の補助は7,500円へ。条件は「本人が半分以上払う」
食事を出して税金がかからないようにするには、2つの条件を両方満たす必要があります。
- スタッフから受け取る額が、その食事の値段の半分以上であること
- 食事の値段から受け取った額を引いた残り(=医院の負担)が、月7,500円以下であること
| 1か月の食事の値段 | スタッフから受け取る額 | 医院の負担 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 15,000円 | 7,500円(半分) | 7,500円 | 税金かかりません(枠を使い切った形) |
| 12,000円 | 6,000円(半分) | 6,000円 | 税金かかりません |
| 12,000円 | 3,000円(4分の1) | 9,000円 | どちらの条件も満たさず、9,000円に税金 |
| 20,000円 | 10,000円(半分) | 10,000円 | 1つ目はOKだが2つ目を超え、10,000円に税金 |
ここで多いのが、「全部医院が出す」と一気に崩れるという失敗です。 スタッフの負担をゼロにすると1つ目の条件を満たさなくなり、7,500円以下でも全額に税金がかかります。
お弁当を無料で配る、という形では税金がかからなくなりません。
逆にいえば、これまで月3,500円までしか出せなかった医院は、7,500円まで増やせるということです。
あわせて、夜勤のときの食事代を現金で渡す場合も、1回300円から650円に上がりました。 当直や夜間診療のある医院では、ようやく実態に近づいた形です。
落とし穴——税金がかからなくても、社会保険料は別です
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
「税金がかからない」と「社会保険料がかからない」は、別のルールで決まります。
| 税金 | 社会保険料 | |
|---|---|---|
| 通勤手当(駐車場代を含む) | 上限までかかりません | 計算に入ります |
| 食事の補助 | 本人の負担が値段の半分以上なら、かかりません | 本人の負担が決められた金額の3分の2以上なら、計算に入りません |
通勤手当は、税金はかからなくても社会保険料の計算には入ります。 駐車場代を月5,000円上乗せすれば、そのぶん保険料のランクが上がる可能性があり、 医院もスタッフも社会保険料が増えることがあります。
「税金がかからない=負担ゼロ」ではありません。
食事のほうは、もっと注意が要ります。 社会保険では、食事は「お金以外で渡す給料」として、都道府県ごとに決められた金額で計算します。 そして本人の負担がその金額の3分の2以上なら、計算に入れません。
税金は半分以上、社会保険は3分の2以上。基準が違います。
本人の負担をちょうど半分に設定すると、税金はかからなくても、社会保険では給料として計算に入ります。 両方から外したいなら、本人の負担を3分の2以上にしておく必要があります。
食事の金額は都道府県ごとに決まっていて、年度によって変わります。 3分の2をいくらに設定すればいいかは、その年度の金額を見て決めます。
始める前に、顧問の社会保険労務士・税理士にご確認ください。
健康保険の代わりに医師国保・歯科医師国保に入っている医院では、健康保険料が決まった金額です。 給料を上げても健康保険の部分は増えないので、協会けんぽの医院より負担の増え方は小さくなります。
ご自身の医院がどちらなのかで、この記事の使いどころは変わります。 くわしくは役員報酬を賞与に寄せる社保対策もご覧ください。
給料を1万円上げるのと、何が違うか
同じ「スタッフに報いる」でも、現金で渡すのと、税金のかからない形で渡すのとでは、効率が違います。 協会けんぽの医院を前提に、ざっくり比べます。
| 月給を1万円上げる | 食事の補助を月7,500円出す | |
|---|---|---|
| 医院の負担 | 約11,500円 (社会保険料が15%ほど乗る) | 7,500円 |
| スタッフの手元 | 7,000円前後 (税金と社会保険料が引かれる) | 7,500円分の食事代が浮く |
| 差し引き | 1万円動かして、届くのは7割ほど | 出した額がそのまま届く |
税率や保険料のランクで数字は動きますが、形は変わりません。 現金の給料は、渡す側でも受け取る側でも目減りします。 税金のかからない現物は、目減りせずに届きます。
もっとも、この2つは代わりになるものではありません。 給料は生活の基礎であって、昇給の代わりにお弁当を出す、という話ではないからです。
基本給をきちんと決めたうえで、それとは別に「同じ原資でもう少し届けられる部分」として使う。 これが本来の順番です。
そして、求人票に「駐車場代の補助あり」「昼食の補助あり」と書けることの効果も無視できません。 人が来るかどうかが診療体制を左右する医院ほど、月5,000円・7,500円という数字は、 節税というより採用と定着のための費用として意味を持ちます。
始めるときに用意するもの
- 通勤手当の規程——距離ごとの金額と、駐車場代をどう扱うかを書き込む
- 駐車場・駐輪場の契約書か領収書——金額の根拠として確認しておく
- 食事の決まり——1食いくらで、スタッフからいくら受け取るかを決める。給料から引くのが確実です
- スタッフへの説明——「無料にしない」理由を先に伝えないと、受け取ること自体が不満の種になります
通勤手当の新しい上限は、2026年4月1日以後に支払われるべきものから使えます。
規程を4月にさかのぼって変えて、その差額をあとから払う場合、 支払いが4月以後でもその差額には新しい上限は使えません。 規程を変える順番とタイミングを確認してから動いてください。
出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」(令和8年4月)、 国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」(令和8年4月/所得税基本通達36-38の2)。 深夜勤務に伴う夜食に代えて支給する金銭の取扱いは、令和8年3月31日付課法12-3ほか1課共同の法令解釈通達による。 社会保険の現物給与の取扱いは日本年金機構の定めによる。いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。