学会や研究会への出席、分院がある先生なら分院への往来。
出張のたびに交通費や宿泊費を実費で精算しているかと思いますが、それとは別に「日当」という手当を出せることを、先生はご存知でしょうか。
条件を満たせば、受け取る側は非課税、法人側は全額が経費という、数少ない“両方に得”な制度です。
しかもこれは、個人のクリニックにはなく、医療法人だからこそ使える仕組みです。
この記事では、仕組みの中身と、実際に効果を得るための規程の作り方を整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 医療法人の出張日当とは何ですか。
- 交通費・宿泊費の実費とは別に支給する手当です。条件を満たせば、受け取る理事長・院長・スタッフの側は所得税・住民税・社会保険料が非課税になり、法人側は全額を経費(損金)にできます。
- 個人のクリニックでも使えますか。
- 使えません。日当は法人だからこそ成立する制度で、個人事業では、ご自身に対して日当を出すという考え方自体が成り立ちません。医療法人化を検討する材料の一つになります。
- 何に気をつければよいですか。
- 実際に出張の実態があること、金額が社会通念上妥当であること、そして旅費規程が整っていることの3つです。
形だけの規程や、理事長だけが極端に有利な金額設定は、税務調査で否認される典型的なパターンです。
出張日当とは——実費精算と何が違うのか
出張にかかった新幹線代やホテル代を実費で精算するのは、法人であれ個人であれ当たり前のことです。
日当は、それとは別枠で支給する手当です。
実費精算と違って領収書に基づく金額ではなく、旅費規程であらかじめ定めた「1日あたりいくら」という定額を支給します。
この日当には、税務上ちょっとした優遇があります。
金額が社会通念上妥当で、かつ実際に出張の実態があれば、受け取る側は所得税・住民税・社会保険料の対象外、法人側は旅費交通費として全額を経費にできます。
新幹線代・ホテル代(実費)+日当(定額)を合わせて支給しても、理事長・院長の手取りには日当の分だけ上乗せの効果があり、法人側の経費にもなる。
ただし「実際に出張した」という実態がなければ、そもそも成立しません。形だけの制度ではないという点が出発点です。
医療法人であれば、学会・研究会への出席、医師会や地域医療連携の会合、分院がある場合の巡回など、出張の機会自体は決して珍しくありません。
すでに実費精算をしているなら、日当を追加で検討する余地があるということです。
個人のクリニックにはない、医療法人だけのメリット
日当が持つメリットは、大きく3つに整理できます。
1つ目は、受け取る側が非課税になることです。同じ金額を役員報酬に上乗せして受け取っていれば、所得税・住民税に加え、社会保険料の対象にもなっていたはずです。
日当であれば、その負担がかかりません。
2つ目は、法人側が全額を経費にできることです。利益が出ている法人にとっては、そのまま法人税等の圧縮につながります。
そして3つ目、いちばん見落とされがちな点が、個人事業では成立しないということです。
個人のクリニックでは、ご自身に対して給与を支払うという考え方自体がなく、日当も同じ理由で成り立ちません。
この制度を使えること自体が、医療法人化のメリットの一つです。
日当は理事長・院長だけの制度ではありません。
看護師やスタッフが研修や分院への応援で出張する場合も、同じ考え方で支給できます。
むしろ理事長だけが極端に有利な金額にしないことが、後述する税務調査対策として重要になります。
具体例で試算——医院全体で、年間どれだけの効果か
旅費規程は、理事長だけのものではありません。常勤医・看護師・事務スタッフまで、全職種を対象にするのが基本です。医院全体で見ると、金額はまとまってきます。
日当の額を、規程で次のように定めていたとします。
- 理事長・理事:宿泊をともなう日 1日 10,000円/日帰り 1回 5,000円
- 勤務医・スタッフ:宿泊をともなう日 1日 5,000円/日帰り 1回 3,000円
学会・研究会・研修・視察で、年間これくらい動いたとします。
| 対象 | 宿泊出張 | 日帰り出張 | 年間の日当 |
|---|---|---|---|
| 理事長 | 年12回 × 3日 = 36日 | 年20回 | 460,000円 |
| 配偶者(理事) | 年6回 × 3日 = 18日 | 年10回 | 230,000円 |
| 勤務医・スタッフ | 年間で延べ40日 | 年間で延べ20回 | 260,000円 |
| 合計 | — | — | 950,000円 |
この950,000円は法人の経費になります。
法人税等の税率を 30% と仮定すると(このサイトの医療法人化シミュレーションと同じ前提。
医療法人の法人税等は所得800万円以下が20%、超える部分が30%で、ここでは超える部分の30%で計算しています)、法人税等がおよそ 285,000円 圧縮されます。
効果はそれだけではありません。
受け取る側では、この950,000円に所得税・住民税がかからず、社会保険料の対象にもなりません。
理事長ご自身の460,000円について言えば、同じ額を役員報酬に上乗せした場合、課税所得1,500万円クラスの先生なら所得税と住民税で4割強、およそ198,000円が引かれ、さらに社会保険料がかかります。
日当の金額に法的な基準はありません。上記は説明のための一例であり、当事務所が推奨する金額でもありません。
役職・出張の実態・法人の規模に照らして、社会通念上妥当といえる水準である必要があります。
理事長だけが極端に高い設定は、次章のとおり否認の典型です。
医療法人化シミュレーションでは、こうした前提を先生の数字に置き換えて試算できます。
MS法人をお持ちなら、規程はそちらにも要ります
セミナー・講演・執筆・情報発信といった活動をされている先生は、その収入をMS法人や資産管理会社で受けていることがあります。
この場合、旅費規程は法人ごとに必要です。医療法人の規程は、MS法人の出張には及びません。
分け方は出張の実態で決まります。学会・研修・医療機器の視察は医業なので医療法人。講演・セミナー・取材・出版の打ち合わせはMS法人の事業なので、そちらから日当を出します。
一度の出張について、医療法人とMS法人の双方から日当を支給する——これは認められません。
出張報告書で、どちらの法人の業務として動いたかが説明できる状態にしておいてください。
目的が重なる出張(学会に出て、そのあと講演をする等)は、日数か目的で按分するなど、根拠を残す扱いが必要です。
節税効果を実際に受けるための「旅費規程」の作り方
日当が非課税・全額経費として認められるためには、旅費規程を作り、そのとおりに運用することが前提になります。規程がないまま日当だけを支給しても、税務上は認められません。
規程に盛り込んでおきたい項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的・適用範囲 | 理事長・勤務医・看護師・事務スタッフなど、全職種を対象にするのが基本です |
| 出張の定義 | 「勤務地から片道◯km以上」など、何をもって出張とするかの基準 |
| 旅費の種類 | 交通費・宿泊費(実費精算が基本)と、日当(定額)を分けて定める |
| 日当の金額 | 役職別・日帰り/宿泊別に、社会通念上妥当な金額を設定 |
| 交通機関の利用方針 | 経済的かつ合理的な経路・手段によることを明記 |
| 申請・精算の手続き | 出張前の申請と、出張後の精算(出張報告書)の流れ |
| 出張報告書の記載事項 | 訪問先・学会名・目的・業務内容を具体的に残す |
「実費とは別に定額を支給する」という制度である以上、金額が高すぎれば否認の対象になります。
ただし、いくらが妥当かという法令上の明確な基準はなく、法人の規模・業種・出張の実態に照らして判断されます。
この点は、金額を決める前に必ず顧問税理士とすり合わせることをおすすめします。
税務調査で否認される、よくあるパターン
日当そのものは正当な制度ですが、運用のしかたによっては税務調査で否認されます。実務でよく見かけるパターンを挙げます。
出張の実態が乏しい(学会に申し込んだ記録がない、報告書がないなど)/金額が社会通念上高すぎる/規程がない、または実態と合っていない/理事長だけが極端に有利な金額設定になっている/規程はあるが実際には運用していない、といったケースです。
形式だけ整えて、実態がともなわないのがいちばん危険なパターンです。
裏を返せば、実際に出張の実態を残し、金額を妥当な範囲に収め、全職種に公平に適用していれば、日当は無理のない節税策になります。
「節税のための出張」ではなく、「もともとある出張に、正しく日当をつける」という順序を守ることが大切です。
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。