国税庁が毎年、「申告漏れの金額が大きかった業種」のランキングを出しています。 直近の集計で、ここに眼科医が2位で入りました。
1件あたり3,894万円の申告漏れ、964万円をあとから払っています。 1位のキャバクラに次ぐ数字です。
驚かせたい話ではありません。この数字には「そもそも所得が高い」という事情もあります。 ただ、医科歯科が「調べる価値のある業種」だと見られていることは、事実として受け止めておいたほうがいい。
この記事では、実際に何を見られるのかを順に整理します。
この記事の結論
- 医科歯科は、狙われやすいのですか。
- 統計上は目立つ位置にいます。眼科医が1件あたり3,894万円の申告漏れで2位。調査全体の平均が1,486万円ですから、2.6倍です。ただしこれは「調べられた人の中での1件あたり」なので、所得が高い業種ほど金額が大きく出る、という面もあります。
- いちばん見られるのはどこですか。
- 自費の売上です。保険診療は支払基金などからの振込なので、隠しようがありません。だから関心は、現金の多い自費に集まります。レセコン、予約台帳、カルテと、計上した売上が合っているかを突き合わせます。
- いま何をしておけばいいですか。
- 3つです。①窓口の日計表とレセコンの日報を、毎日残す。②期末に材料や薬の在庫を、実際に数える。③診療報酬以外の入金を漏らさず拾う(文書料、予防接種、当直など)。この3つが揃っていれば、調査で崩れることはまずありません。
数字で見ると、眼科医は全体の2.6倍
| 順位 | 業種 | 1件あたりの申告漏れ | 1件あたり払った税金 |
|---|---|---|---|
| 1 | キャバクラ | 4,164万円 | 1,474万円 |
| 2 | 眼科医 | 3,894万円 | 964万円 |
| 3 | ホステス、ホスト | 2,968万円 | 475万円 |
| — | 調査全体の平均 | 1,486万円 | 299万円 |
眼科医の3,894万円は、平均の2.6倍。 しかも前の年は上位20位にも入っていません。この1年で急に上がってきた業種です。
誤解のないように。これは「調べられた人の中での1件あたり」の金額です。 眼科医の何割が申告漏れをしている、という数字ではありません。
そもそも所得が高い業種は、同じ割合の漏れでも金額が大きく出ます。 眼科は白内障手術や多焦点レンズなど自費の比重が高く、1件の単価も大きい。その構造が数字に出ている面はあります。
とはいえ、この表に載るということは、税務署がそこに人を割いて、成果が出ているということでもあります。
もうひとつ。国税庁は同じ資料で 「選ぶときにAIを使うなどして効率的に調査した結果、追徴税額の総額は過去最高」と書いています。 調査先の選び方が変わってきているということです。
なぜ医科歯科が見られるのか
理由は、医院の収入の形にあります。
| 収入 | どう入ってくるか | 調査官から見ると |
|---|---|---|
| 保険診療 | 支払基金・国保連から振込 | 第三者の記録が残るので、隠しようがない |
| 窓口の負担金 | 現金・キャッシュレス | レセプトと連動するので、比較的追いやすい |
| 自費 | 現金が多い | 外の記録が残りにくい。ここを見る |
| 文書料・予防接種など | 現金が中心 | 計上漏れが起きやすい |
つまり保険診療がガラス張りなぶん、関心が自費に集まるという構造です。 「うちは保険診療がほとんどだから関係ない」という医院ほど、少額の自費や雑収入の管理が緩くなっていることがあります。
本丸は、自費の売上です
調査官が最初にやるのは、計上した売上と、医院に残っている記録の突き合わせです。 医院には、売上を裏づける記録が何重にもあります。
- レセコン・電子カルテの日報——実際に何をいくらでやったか
- 窓口の日計表——その日の現金の動き
- 予約台帳——誰が来て、何をする予定だったか
- カルテ——処置の内容と、使った材料
- 材料の仕入・技工の発注記録——入れた本数がそのまま残ります
とくに強いのが最後の2つです。インプラントを10本仕入れて、売上が8本分しかない。 このズレは、仕入先や技工所に問い合わせれば裏が取れます。
物の流れは、お金の流れより隠しにくいのです。
・自費の分割払い・前受金——矯正は数十万円を分割で受け取ることが多く、いつ売上にするかがずれやすい
・キャンセルと返金——売上のマイナスで済ませていると、中身を聞かれます
・ご家族や知人への値引き——値引きの理由を聞かれます
・キャッシュレスの入金——決済会社からの入金と日計表の突き合わせ
見落としやすい「診療報酬以外の入金」
悪気なく漏れるのは、たいていこちらです。診療の本流ではないので、経理の流れから外れてしまいます。
| 種類 | 例 | 漏れやすい理由 |
|---|---|---|
| 文書料 | 診断書、証明書、意見書 | 院長の手元で現金管理され、日計表に乗らない |
| 予防接種・自費健診 | インフルエンザ、各種ワクチン、企業健診 | 時期が偏り、別管理になりやすい |
| 外からの報酬 | 学校医・園医、産業医、行政の委嘱、休日当番 | 個人の口座に振り込まれ、医院の帳簿に入らない |
| ほかの病院での勤務 | 当直、スポットのアルバイト | 医療法人の場合、個人のものか法人のものか曖昧に |
| 講演・執筆・治験 | 講演料、原稿料、治験の協力費 | 「天引きされているから申告不要」という誤解 |
| 物販 | 歯ブラシ、サプリ、化粧品、コンタクト | 仕入だけ経費に残って、売上が計上されていない |
| その他 | 自販機の手数料、駐車場、業者からの謝礼 | そもそも収入だと思っていない |
物販はとくに注意です。仕入は経費に入っているのに、売上がない。 在庫と突き合わせればすぐ分かりますし、経費だけ落ちている状態なので、指摘されると痛いところです。
歯科ならではのところ
1. 技工料と発注の記録
技工物は「入れた分だけ発注されている」ものです。 発注書と自費の売上が合わないと、説明を求められます。技工所への問い合わせも比較的よく行われます。
2. 期末の在庫を数えること
これは医科歯科を通じていちばん多く指摘されるところだと思います。
期末に残っている材料・薬・技工材料は、その年の経費にはなりません。資産として残します。
ところが実際には、数えていない医院が少なくありません。 毎年同じように仕入れて同じように使っているなら影響は小さいのですが、 期末近くにまとめ買いをした年は、その分がまるごと利益に足されます。ここは必ず突かれます。
3. 撤去した金属を売ったお金
患者さんの口から外した金属や、使わなくなった金パラを業者に売ることがあります。 この売却代金は収入です。
金属の相場が高い時期は、想像以上の金額になります。 院長の個人口座に振り込んでいたり、現金で受け取って手元に置いていたりすると、まず指摘されます。
診療科ごとに、見られるところは違います
「自費」といっても、中身は診療科でまるで違います。 調査官も、その医院が何を自費でやっているかを調べたうえで来ます。
| 診療科 | 自費・雑収入の中心 | 見られやすいところ |
|---|---|---|
| 眼科 | 多焦点レンズの差額、レーシック・ICL、オルソケラトロジー、コンタクト | 単価が大きく、レンズの仕入本数と手術の記録から件数が読めます |
| 歯科 | インプラント、矯正、審美、自費クリーニング | 技工所への発注記録、期末の在庫、撤去した金属(前の章) |
| 美容皮膚科・美容外科 | ほぼ全部が自費。化粧品や内服の販売も | コース契約の前受金をいつ売上にするか。値引きの理由。現金の多さ |
| 皮膚科 | シミ取り、ピーリング、AGA、化粧品 | 同じ日に保険と自費が混ざる。物販の売上漏れ |
| 整形外科 | 自費リハビリ、装具、後遺障害・労災の診断書 | 文書料の件数が多く、院長の手元で現金管理されがち |
| 内科 | 予防接種、自費健診、企業健診、産業医 | 季節に偏る。産業医の報酬が個人口座に入っていないか |
| 小児科 | 予防接種、乳児健診 | 公費分の入金時期と計上時期のズレ |
| 精神科・心療内科 | 診断書・意見書、カウンセリングの自費 | 文書料の件数が全科でいちばん多い部類 |
| 産婦人科 | 分娩費、無痛分娩の差額、不妊治療の自費 | 出産育児一時金の入金と、妊婦さんからの差額の両方を拾えているか |
| 耳鼻咽喉科 | 補聴器、舌下免疫療法 | 補聴器は物販。仕入と売上が本数で合っているか |
| 在宅・訪問診療 | 訪問診療、居宅療養管理指導 | 車のガソリン代などの分け方と、実際の移動 |
通して見ると、指摘のパターンは3つに集まります。
- 物の数から件数が読めるもの——眼内レンズ、インプラント、矯正装置、補聴器、化粧品。仕入本数と売上が合わなければ、それだけで聞かれます
- 前受金があるもの——美容のコース契約、矯正の分割、分娩費。いつ売上にするかを決めて、毎年同じ扱いを続けることが大事です
- 1件が小さくて、件数が多いもの——文書料、予防接種、物販。院長の手元で現金管理されると、そのまま帳簿から消えます
経費で必ず聞かれる4つ
| 項目 | 聞かれること | 備え |
|---|---|---|
| 生活費が混ざっていないか | 食事、服、私的な旅行が入っていないか | プライベートは最初から分ける。SNSやホームページとの矛盾も見られます |
| ご家族への給料・役員報酬 | 本当に働いているか。金額は仕事に見合うか | 出勤の記録や仕事の中身(配偶者給与の記事) |
| 学会・研修費 | ご家族の旅費が入っていないか。観光が含まれていないか | 学会の案内・プログラム・参加証を残す |
| 車 | 台数と使い方。往診に使っているか | 使用の記録(中古資産の記事) |
交際費や領収書のない支出は、それぞれ別の記事に書いています。 いずれも「経費として正しいか」より、説明できる形で記録が残っているかのほうが、その場では効きます。
消費税と源泉所得税も、他人事ではありません
消費税
保険診療には消費税がかかりません。だから「うちは関係ない」と思われがちですが、そうではありません。
| 収入 | 消費税 |
|---|---|
| 保険診療 | かかりません |
| 自費(審美・矯正・美容・自費健診など) | かかります |
| 文書料・診断書 | かかります |
| 物販(歯ブラシ・サプリ・コンタクトなど) | かかります |
自費が増えて、消費税のかかる売上が1,000万円を超えれば、消費税を納める義務が出ます。 自費を伸ばしている医院ほど、ある年から突然、消費税の申告が必要になります。
源泉所得税
見落とされやすいのが、非常勤の先生への支払いです。 医院の指示で診療してもらっているなら、それは給料です。
外注として処理して天引きしていないと、天引き漏れに加えて、消費税の計算でも否認される可能性があります。
当日の心得と、来させないための備え
やってはいけない2つ
ひとつは、帳簿を出さない・調査に協力しないこと。 院長個人の通帳やスマホの中身は、法律上「必ず出しなさい」というものではなく、お願いベースです。 でも帳簿は別です。法律で備え付けが義務づけられているので、拒み続けると重いペナルティになります。
もうひとつが、喋りすぎること。 1つ聞かれて2つも3つも答えてしまう院長先生が、本当に多い。緊張すると、つい説明したくなるのです。
でも情報を出せば出すほど、調査官の中で点と点がつながります。 聞かれたことに、聞かれた範囲で答える。これだけで結果は変わります。
意外な盲点です。パソコンやタブレットを医院の経費で買っていれば、それは医院の持ち物。 「個人のものなので」と断る理由が作りにくくなります。
調査官は、印刷した書類ではなく元のデータやメールを見たがることがあります。
来させないための備え
調査は、来てからでは打てる手が限られます。日頃の備えのほうが、はるかに効きます。
- 窓口の日計表とレセコンの日報を、毎日残す。あとからまとめて作らない
- 期末に在庫を実際に数える。数えて、リストにして、保存する
- 診療報酬以外の入金を、医院の口座に集める。個人口座への振込をやめるだけで、大半のリスクが消えます
- 書面添付という制度を使う。顧問税理士が「ここはこう確認しました」と説明を添えておくもので、これがあると、いきなり調査ではなく、まず税理士への聞き取りから始まります
- 申告書に事情を書いておく。売上が増えたのに利益が増えなかった年は、その理由を先に書いて出す
当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 調査対策も同じで、隠す技術を磨く話ではありません。
説明できる状態を、日頃から作っておく。それだけで、調査は怖いものではなくなります。
調査の連絡が来てから終わるまでの流れは、税務調査の当日、何が起きるかにまとめました。
出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)。 業種別の順位・金額、実地調査の1件当たりの申告漏れ所得金額および追徴税額、 「選定にAIを活用」との記載は、いずれも同資料による。 本文中の税務上の取扱いは2026年9月時点のものです。
調査が来る前に、見られるところを一緒に点検しませんか。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。