学会の会場で自動販売機の飲み物を買った。取引先のご不幸に香典を包んだ。駅でICカードにチャージした。
——どれも法人のお金を使っているのに、手元に領収書が残らない支出です。
「証拠がないから、経費にはできないな」と、そのまま自腹で処理してしまっている先生は少なくありません。
ですが、領収書という紙がないことは、それ自体では経費にできない理由になりません。
税務上問われているのは、その支出が業務に必要だったかどうかと、何にいくら使ったかを客観的に説明できるかどうかです。
この記事では、その説明を残すための「出金伝票」の使い方を、医療法人の実務に沿って整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 領収書がない支出は、経費にできませんか。
- できます。領収書という紙そのものが絶対条件ではありません。出金伝票(支払いの記録メモ)を作成し、何にいくら使ったかを客観的に説明できる状態にしておけば、経費として処理できます。
- レシートしかない場合はどうですか。
- 問題ないことがほとんどです。
レシートには品目と金額が印字されているぶん、「何を買ったか」を示す資料としてはむしろ優れています。
宛名がないことを気にされる先生が多いのですが、宛名の有無だけで経費性が決まるわけではありません。 - 何を気をつければよいですか。
- 業務との関係が説明できること、金額が実際の支出と一致していること、そして後から思い出しではなく、その都度記録していることの3つです。
まとめて後日作った出金伝票は、記録としての信用度が下がります。
領収書は「絶対条件」ではない——問われているのは説明できるかどうか
経費の話になると、多くの方が「領収書がすべて」という前提で考えます。
ですが実務の感覚はもう少し柔らかく、領収書は「支払った事実を証明するための、もっとも手軽な手段のひとつ」という位置づけです。
手段である以上、それが手に入らないときには、別の方法で同じことを示せばよいわけです。
その代替手段が出金伝票です。市販の伝票用紙でも、法人の会計ソフトの入力画面でも、社内様式のメモでも構いません。
呼び方や形式ではなく、いつ・いくら・誰に・何のために支払ったのかが後から追える形で残っていることが本質です。
税務調査で見られているのは、紙の種類ではありません。
その支出が医療法人の業務に必要だったと説明できるか、そして記録が実際の支出とつじつまが合っているかです。
逆にいえば、領収書が揃っていても業務との関係を説明できない支出は、やはり否認の対象になります。
ですから「領収書をもらいそびれたから、この支出はなかったことにする」という処理は、実はもったいない対応です。
本来経費になるはずのものを落とさないことも、地味ですが確実な節税になります。
領収書が出ない支出の代表例
そもそも領収書が発行されない、あるいは「領収書をください」と言いにくい場面は、日常業務のなかに意外と多くあります。代表的なものを挙げます。
- 自動販売機での購入——学会会場や院内、移動先での飲み物代など
- 香典・祝儀などの慶弔費——性質上、先方に領収書を求めるものではありません
- 交通系ICカードへのチャージ——チャージ時の控えは残っても、何に乗ったかまでは分かりません
- 御布施・玉串料——法要や地鎮祭など、これも領収書が出ない支出の典型です
- 券売機で購入する切符——券面が回収されてしまい、手元に何も残らないケース
- 割り勘での会食負担分——領収書は幹事の手元にあり、自分の分の証憑がない
医療法人でとくに出やすい場面
医療法人の場合、次のような支出が繰り返し発生します。金額は小さくても、年間で積み上がると無視できない額になります。
ひとつは、学会や研究会に参加したときの少額の交通費です。会場最寄り駅からの路線バス、地方開催での短距離のタクシー、コインパーキングの精算機。
いずれも領収書が出ないか、出ても取り忘れやすいものばかりです。
参加した学会名と移動区間をその場でメモしておけば、出金伝票に落とし込むのは難しくありません。
もうひとつは、患者さんや取引先に関する慶弔費です。長年通ってくださった患者さんのご不幸、医薬品卸や医療機器メーカーの担当者、地域の医師会関係のお付き合い。
香典や供花は、領収書という発想自体がない支出です。
香典や祝儀は、出金伝票に加えて会葬礼状や案内状を一緒に保管しておくと、記録としての説得力が一段上がります。
捨ててしまいがちですが、支出の事実と相手先を裏づける資料になります。
あわせて、慶弔見舞金規程を整備しておくと、法人としての支給基準が明確になり、実務が安定します。
出金伝票に最低限書いておく項目
出金伝票は、書式が決まっているわけではありません。ただ、後から見返して支出の内容を再現できることが目的ですから、次の項目は押さえておきたいところです。
| 項目 | 書き方の目安 |
|---|---|
| 日付 | 実際に支払った日を書きます。まとめて後日作らず、その都度記録するのが基本です |
| 金額 | 実際に支払った金額。端数を丸めたり、概算で書いたりしないこと |
| 支払先 | 店名・会社名・氏名など。自動販売機なら設置場所(「◯◯学会会場 3F」など)でも構いません |
| 支払内容 | 「飲料代」だけで終わらせず、何のための支出かが分かる書き方にします |
| 勘定科目 | 旅費交通費・接待交際費・福利厚生費など。判断に迷うものは顧問税理士に確認を |
| 目的・相手先(慶弔費の場合) | 誰に対する香典・祝儀か、法人との関係はどうか。業務関連性を示す核心部分です |
| 作成者 | 誰が支払い、誰が伝票を起こしたか。院内での確認ルートも決めておくと安心です |
とくに差がつくのが「支払内容」の書き方です。
たとえば同じ3,000円の香典でも、「香典」とだけ書かれた伝票と、「◯◯商事 △△様ご尊父ご逝去に伴う香典(当法人の医療機器取引先)」と書かれた伝票では、説明力がまったく違います。
手間はほんの数秒です。
出金伝票は自分で作れる書類だからこそ、使いすぎれば当然に疑われます。
領収書やレシートがもらえる支出まで出金伝票で済ませていたり、金額がきれいな数字ばかり並んでいたり、決算間際にまとめて作成した形跡があったりすると、記録全体の信用度が下がります。
あくまで「領収書が出ないから、やむを得ず」という位置づけを守ってください。
ICカードのチャージは「チャージ時」ではなく「使ったとき」
交通系ICカードへの入金は、その時点ではまだ経費ではありません。単にお金の形が変わっただけだからです。
実際に乗車して使った分が、旅費交通費になります。実務では、駅の券売機などで利用履歴を印字するか、カードやアプリの履歴を定期的に出力して、そこから業務利用分を拾う方法が一般的です。
なお、私的な利用と混ざるのを避けるため、法人業務用のカードを分けておくと処理がぐっと楽になります。この一手間で、毎月の集計時間が変わります。
レシートと領収書は、何がどう違うのか
「レシートしかもらえなかったのですが、大丈夫でしょうか」という質問は、非常によくいただきます。結論から言えば、ほとんどの場面で問題ありません。
いわゆる領収書との違いは、主に宛名が入るかどうかです。
手書きの領収書には「◯◯医療法人 御中」と宛名が入りますが、レジから出るレシートには通常入りません。
この一点をもって「レシートは格下」と思われがちなのですが、実務上は逆の見方もできます。
というのも、レシートには買った品目が1点ずつ印字されているからです。
一方で手書きの領収書は、但し書きが「お品代として」で終わっていることが珍しくありません。
何を買ったかを示す資料としては、レシートのほうが情報量が多いわけです。
品目と金額、日付、店名が分かるレシートであれば、経費処理の裏づけとして十分に機能します。
感熱紙のレシートは、時間が経つと印字が消えます。半年後には真っ白、ということも実際にあります。
スキャンや撮影でデータとして残しておくのが確実です。
あわせて、会食など目的が読み取りにくい支出は、レシートの余白に相手先と目的を書き添えておくと、あとで思い出す手間が省けます。
ただし、消費税の仕入税額控除を受ける場面では、記載事項の要件が別途あります。次の章で触れます。
インボイス制度との関係——消費税では話が少し変わる
ここまでは、法人税を計算するうえで「経費になるかどうか」という話でした。
消費税の仕入税額控除については、また別の判断軸があります。原則として、登録事業者が発行した適格請求書(インボイス)の保存が必要になるからです。
とはいえ、自動販売機や券売機の切符にインボイスを求めるのは、そもそも無理があります。
そこで制度上、インボイスの保存がなくても、帳簿への記載だけで仕入税額控除が認められる取引が例外として設けられています。
代表的なものとして、3万円未満の公共交通機関の運賃や、3万円未満の自動販売機・自動サービス機による取引などが挙げられます。
特例の対象範囲・金額判定の単位(1回の取引か、1商品ごとか等)・帳簿への記載事項は、制度上こまかく定められています。
この記事の記載はあくまで概要であり、実際の適用にあたっては個別の確認が必要です。
また、医療法人は保険診療収入が非課税売上となるため、そもそも消費税の課税事業者かどうか、課税売上割合がどの程度かによって、仕入税額控除の考え方自体が変わります。
自由診療の割合が高い法人ほど、この論点は実務的に重くなります。
整理すると、「法人税では経費になるが、消費税では控除の要件を別に満たす必要がある」という二段構えになっている、ということです。
出金伝票を作れば法人税側の説明はつきますが、消費税側の処理は特例に当てはまるかどうかで変わります。
ここは自己判断せず、顧問税理士と処理方針をすり合わせておくのが安全です。
いずれにせよ、出発点は変わりません。領収書がもらえるものは、きちんともらう。もらえないものは、その場で記録を残す。
この2つを院内のルールとして定着させておけば、経費の取りこぼしも、調査での指摘も、そうそう起きるものではありません。
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。