保険診療に消費税はかかりません。患者さんから消費税をもらうこともありません。
なのに医院は、医薬品にも、材料にも、機器にも、委託費にも、消費税を払っています。
ふつうの商売なら、払った消費税は申告のときに差し引けます。 ところが医院は、それができません。 払いっぱなしです。
この払いっぱなしの消費税を、医療界では「損税」と呼んでいます。 年間で数百万円になる医院もあります。
この記事の結論
- なぜ返ってこないのですか。
- 消費税は「もらった消費税−払った消費税」を納める仕組みです。ところが保険診療は消費税をもらっていない(非課税)ので、そこにひもづく仕入の消費税は差し引けません。非課税は、免税とは違います。ここが誤解されやすいところです。
- どれくらい損しているのですか。
- ざっくり言うと、仕入や経費で払った消費税のうち、保険診療の割合の分です。保険が9割の医院なら、払った消費税の9割は戻りません。仕入が年3,000万円なら、300万円のうち約270万円が戻らない計算です。
- 減らす方法はありますか。
- 制度そのものは変えられません。できるのは、計算方法の選び方と、大きな買い物をする年の組み立てです。特に高額な医療機器を買う年は、選び方で結果が変わります。
「非課税」と「免税」は、まったく違います
まず言葉の整理からです。ここが分かれ目になります。
| 患者さんからもらう | 払った消費税 | |
|---|---|---|
| 非課税(保険診療) | もらわない | 差し引けない |
| 免税(輸出など) | もらわない | 差し引ける・戻ってくる |
| 課税(自費診療) | もらう | 差し引ける |
どちらも「患者さんから消費税をもらわない」点は同じです。 でも払った消費税を取り戻せるかどうかが、正反対です。
輸出の会社は消費税が戻ってきます。医院は戻ってきません。 同じ「もらっていない」のに、扱いが違う。ここが医療界の長年の不満です。
なぜ、払った消費税が返ってこないのか
消費税の申告は、ひとことで言えばこうです。
もらった消費税 − 払った消費税 = 納める消費税
ところが引き算できる「払った消費税」には条件があります。 消費税をもらう売上のために使ったものでなければいけません。
保険診療は消費税をもらっていません。 だから保険診療のために買った薬も、材料も、機器も、そこで払った消費税は引けない。 そういう仕組みです。
1本1本ひもづけるのは無理なので、収入に占める自費の割合でざっくり分けます。
これを課税売上割合といいます。
自費1,000万円、保険7,000万円なら、割合は12.5%。
払った消費税のうち、おおむね12.5%しか引けません。
なお、この割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下なら、払った消費税を全額引けます。 ただし医院で95%以上になるのは、ほぼ自費専門のところだけです。
実際にいくら損しているか、計算してみます
収入8,000万円(保険7,000万・自費1,000万)の医院で考えます。
| 金額 | |
|---|---|
| 1年の仕入・経費(消費税がかかるもの) | 3,000万円 |
| そこに含まれる消費税 | 300万円 |
| 自費の割合 | 12.5% |
| 差し引ける消費税 | 約37万円 |
| 戻ってこない消費税 | 約263万円 |
この263万円は、どこにも請求できません。 医院が負担して終わりです。
これが毎年続きます。10年で2,600万円。 設備投資1回分が、静かに消えているとも言えます。
国の説明では、この負担は診療報酬の点数に入っているとされています。 ただし全部の医院にぴったり合うわけではありません。 設備投資の多い医院ほど、持ち出しが大きくなります。
免税事業者のうちは、そもそも取り返せません
自費が少ない医院は、消費税の申告そのものをしていないことが多いはずです。 これを免税事業者といいます。
免税事業者は、消費税を納めません。そのかわり払った消費税を取り戻すこともできません。 引き算をする土俵に、そもそも乗っていないからです。
ここで問題になるのが、高額な医療機器を買う年です。 3,000万円の機器を買えば、消費税は300万円。 免税事業者のままだと、この300万円は1円も戻りません。
詳しくは自費が1,000万円を超えたときの話で書いています。
どこまでが非課税で、どこからが課税か
「うちは保険だけだから消費税は関係ない」と思っている先生ほど、確認してください。 意外と課税の売上が混ざっています。
| 非課税(消費税をもらわない) | 課税(消費税をもらう) |
|---|---|
| 健康保険・国保の診療 | 美容整形・審美・自由診療 |
| 労災・自賠責の診療 | 健康診断・人間ドック |
| 公費負担の医療 | 予防接種 |
| 助産 | 診断書などの文書料 |
| 介護保険の一部 | 差額ベッド代 |
| 歯ブラシ・サプリ・化粧品の販売 | |
| 自販機・駐車場・テナントの賃料 |
健診、予防接種、診断書。この3つは、どの医院にもあります。 保険診療しかしていないつもりでも、課税の売上はゼロではありません。
それでも、打てる手はあります
損税の仕組み自体は、医院の努力では変えられません。 それでも、できることが3つあります。
| できること | |
|---|---|
| ① | 計算方法を選ぶ。簡易課税と本則課税、どちらが有利かは自費の割合で変わります |
| ② | 機器を買う年を考える。その年だけ本則課税にできる場合があります |
| ③ | 自費専用のものを分けて記録する。自費のためだけに買ったものは、全額を引ける計算方法があります |
③は「個別対応方式」という計算のしかたです。 手間はかかりますが、自費がある程度ある医院では効きます。 たとえば矯正専用の機器や、自費の材料。これらは自費のためだけのものですから、 払った消費税を全額引けます。
①と②については、簡易課税と本則課税、どちらが得かで詳しく書きました。
最後にひとこと。 損税は「知らないうちに負担している税金」です。 まずは自分の医院でいくら出ているかを、一度だけ計算してみてください。 金額を知れば、機器を買うタイミングも、自費の値段の決め方も変わります。 減らせないものでも、見えていれば手は打てます。
出典:消費税法別表第二第6号、消費税法基本通達6-6-1〜6-6-3(医療の給付等の非課税の範囲)。 国税庁タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」(美容整形・差額ベッド・市販薬は非課税に当たらない)。 同 No.6401「仕入控除税額の計算方法」(課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上なら全額控除、 それ以外は個別対応方式または一括比例配分方式)。 試算は分かりやすさを優先した目安で、実際は個別対応方式か一括比例配分方式かで金額が変わります。 いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。