矯正を始めた。ホワイトニングを増やした。健診の依頼が増えた。
うまくいっている医院ほど、ある日とつぜん消費税の申告書が必要になります。 しかもそうなると決まるのは、2年前の数字です。
気づくのが遅れると、準備なしで納税だけが来ます。 先に知っておいてください。
この記事の結論
- いくらを超えると消費税を払うのですか。
- 1,000万円です。ただし数えるのは自費の売上だけ。保険診療は入りません。だから年商1億円でも、自費が少なければ払わなくていいということが起きます。
- いつから払うのですか。
- 超えた年の2年後からです。2026年の自費が1,000万円を超えたら、2028年から消費税を納めます。ただし前の年の1月〜6月だけで1,000万円を超えると、1年早まります。
- 何を準備すればいいですか。
- いちばん大事なのは簡易課税を選ぶかどうかの届出です。これはその年が始まる前の日までに出さないと間に合いません。あとから「やっぱり」は効きません。
1,000万円に、保険診療は入りません
ここがいちばんの勘違いポイントです。
消費税を納めるかどうかは、1年の売上が1,000万円を超えたかで決まります。 ただしこの売上に、保険診療は入りません。 保険診療は消費税がかからない売上(非課税)だからです。
収入9,000万円・すべて保険診療の医院 → 消費税は払いません
収入1,500万円・すべて自費の医院 → 消費税を払います
規模ではなく、自費がいくらあるかで決まります。 開業したばかりの小さな美容クリニックが払って、 大きな内科が払わない。そういうことが普通に起きます。
数えるのは、この売上です
では何を足していけばいいのか。よくある医院の売上を分けると、こうなります。
| 数えない(非課税) | 数える(課税) |
|---|---|
| 健康保険・国保の診療 | 自由診療・審美・矯正・美容 |
| 労災・自賠責の診療 | 健康診断・人間ドック |
| 公費負担の医療 | 予防接種 |
| 助産 | 診断書・文書料 |
| 差額ベッド代 | |
| 歯ブラシ・サプリ・化粧品の販売 | |
| 自販機・駐車場・テナントの賃料 | |
| 講演料・原稿料・産業医の報酬 |
右側を全部足してください。1,000万円を超えていませんか。 日本の保険に入っていない外国人の患者さんを自由診療で診た分も、ここに入ります。
「うちは保険だけ」と思っている医院でも、健診と予防接種と文書料で 思ったより積み上がっていることがあります。 特に企業健診を引き受けている医院は、一気に超えます。
個人でクリニックをやっている先生の場合、 講演料、原稿料、産業医の報酬、不動産の賃料も一緒に数えます。 医院の売上だけを見ていると、判定を間違えます。
いつから払うのか——2年後に来ます
超えたその年から払うわけではありません。2年後です。
| 年 | 何が起きるか |
|---|---|
| 2026年 | 自費が1,000万円を超えた |
| 2027年 | まだ払わない(ここで準備をします) |
| 2028年 | 消費税を納める年。申告は2029年3月末まで |
なお納める側になると、その翌年から夏に前払いの納付書が届くようになります。
2年の猶予があるように見えますが、実際にはあっという間です。 2027年末までに届出を出さないと、選べる道がひとつ減ります。 あとで書きます。
なお医療法人の場合も考え方は同じで、2期前の決算で見ます。
1年早まるケースがあります
2年前が1,000万円以下でも、前の年の上半期で超えていると、 その年から納税する側になります。
見るのは前の年の1月1日から6月30日まで。 ここの自費が1,000万円を超えていたら、対象です。
この半年の判定は、売上ではなく「その半年に払った給与の合計」で見てもよいことになっています。
どちらで判定するかは医院の自由です。
売上は1,000万円を超えたけれど給与は超えていない、という場合は、
給与で判定すれば、その年はまだ払わなくて済みます。
自費が急に伸びた年は、ここを必ず確認してください。 「まだ2年たっていないから大丈夫」と思っていると、間違えます。
超えると決まったら、まずこの届出
やることは2つです。
| 届出 | 期限 | |
|---|---|---|
| ① | 消費税課税事業者届出書 | 超えたことが分かったら、すみやかに |
| ② | 消費税簡易課税制度選択届出書 | 納税する年が始まる前の日まで |
問題は②です。期限が「始まる前の日まで」。 2028年から納税する個人の医院なら、2027年12月31日までです。
これを逃すと、2028年は自動的に本則課税になります。 医院の場合、簡易課税のほうが有利なことが多いので、 出し忘れは、そのまま損につながります。
2年前の課税売上が5,000万円以下であること。 そして一度選ぶと2年間は変えられません。
機器を買う年は、あえて払う側になる手もあります
ここまでは「払わなくて済むほうがいい」という前提で書きました。 でも逆のケースがあります。
高額な機器を買う年です。
3,000万円の機器を買えば、消費税は300万円。 免税事業者のままだと、この300万円は1円も戻りません。 くわしくは医療機器を買った年の消費税に書きました。 ところが自分から「払う側になります」と届け出ておくと、 自費の割合に応じて、一部が戻ってくることがあります。
自分から選んだ場合、2年間は元に戻れません。
さらにその間に税抜100万円以上の固定資産を買うと、3年間戻れず、簡易課税も選べません。
「1年だけ得をして、翌年から戻る」はできない仕組みになっています。
戻る金額は、自費の割合で決まります。 自費が1割しかない医院なら、300万円のうち戻るのは30万円ほど。 そのために2〜3年しばられる価値があるかは、計算しないと分かりません。 なぜ払った消費税が返ってこないのかもあわせて読んでください。
最後に。 消費税は、節税の工夫があまり効かない税金です。 できるのは期限を逃さないことと、計算方法を正しく選ぶことくらい。 逆に言えば、そこさえ押さえれば損はしません。 自費が伸びてきた先生は、今年の自費がいくらになりそうかを、 年内に一度だけ確認してください。
出典:国税庁タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」(基準期間は個人は前々年・法人は前々事業年度、 課税売上高1,000万円以下は免除、特定期間は前年1月1日から6月30日まで・法人は前事業年度開始から6か月、 特定期間は給与等支払額で判定してもよい)。 同 No.6505「簡易課税制度」(基準期間の課税売上高5,000万円以下、届出はその課税期間の初日の前日まで、 2年間の継続)。同 No.6503(調整対象固定資産は税抜100万円以上)。 非課税の範囲は消費税法別表第二第6号および消費税法基本通達6-6-1。いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。