消費税を納めることになった医院には、計算のしかたが2つあります。 簡易課税本則課税です。

どちらを選ぶかで、納める金額が数十万円変わります。 しかも選べるのは年が始まる前だけ。あとから直せません。

結論から言うと、ふつうの年は簡易課税が有利な医院が多いです。 ただし大きな機器を買う年は、きれいに逆転します。

この記事の結論

2つの違いは何ですか。
本則課税は、実際に払った消費税を1件ずつ集計して差し引きます。簡易課税は、実際にいくら払ったかを見ずに、もらった消費税の50%を差し引いたものとみなして計算します。医療は50%です。
どちらが得ですか。
ふつうの年は簡易課税です。医院は保険診療が多く、本則課税だと払った消費税のごく一部しか差し引けないためです。機器を買う年は本則課税。場合によっては還付を受けられます。
いつまでに決めるのですか。
その年が始まる前の日までです。個人の医院で2028年から簡易課税にしたいなら、2027年12月31日まで。1日でも過ぎたら、その年は本則課税になります。

簡易課税は「50%」で計算します

簡易課税は、実際の仕入を見ません。 もらった消費税に、決められた率をかけるだけです。

率は業種で決まっていて、医療は50%です。 国の分類で「医療、福祉」はサービス業の仲間に入るため、この率になります。

売上の中身差し引ける割合
自由診療・健診・予防接種・文書料など50%
歯ブラシ・サプリ・化粧品などの物販80%
テナントや駐車場の賃料40%

物販は率が高いので、分けて記録しておくと有利になります。 分けていないと、全部まとめていちばん低い率で計算されます。 ここはレジの設定と帳簿のつけ方の問題です。

ふつうの年で比べてみます

収入8,000万円(保険5,000万・自費3,000万)の歯科医院で見てみます。 1年の仕入・経費は3,000万円とします。

 簡易課税本則課税
患者さんからもらった消費税300万円300万円
差し引ける消費税300万×50%=150万円300万×37.5%=112万円
納める消費税150万円188万円

簡易課税のほうが38万円安くなりました。

理由は本則課税の「37.5%」です。 これは収入に占める自費の割合(3,000万÷8,000万)。 保険診療が多い医院ほど、この割合は下がります。 そして割合が下がるほど、本則課税では差し引ける額が減ります。

保険中心の医院ほど、簡易課税が効きます

自費の割合が50%を下回ると、本則課税では払った消費税の半分も差し引けません。 一方、簡易課税はいつでも50%。 だから自費が半分以下の医院は、簡易課税が有利になりやすいのです。

機器を買う年は、逆転します

同じ医院が、その年に3,000万円の機器を入れたとします。

 簡易課税本則課税
もらった消費税300万円300万円
払った消費税(見ません)600万円
差し引ける消費税150万円600万×37.5%=225万円
納める消費税150万円75万円

今度は本則課税のほうが75万円安い

簡易課税は、実際にいくら使ったかを見ません。 だからどれだけ大きな買い物をしても、納税額は1円も変わりません。 ここが簡易課税の弱点です。

自費専用の機器なら、還付まで届くことがあります

本則課税には、もうひとつ有利な計算方法があります。 自費のためだけに使うものは、払った消費税を全額差し引けるという方法です。

さきほどの3,000万円の機器が、矯正や審美にしか使わないものだったとします。

 金額
機器の消費税(自費専用なので全額)300万円
その他の仕入の消費税(300万×37.5%)112万円
差し引ける合計412万円
もらった消費税300万円
結果112万円が戻ってきます

納めるどころか、還付です。 ただしこれには条件があります。 その機器を保険診療にはいっさい使わないこと。 少しでも保険で使うなら、共通のものとして割合で分けます。

帳簿の付け方も問われます。買った時点で「これは自費専用」と分けて記録していないと、 あとから主張しても通りません。

選べる条件と、外せない期限

 内容
選べる医院2年前の自費などの売上が5,000万円以下
届出消費税簡易課税制度選択届出書
期限その年が始まる前の日まで
しばり一度選ぶと2年間は変えられません

期限がすべてです。 2028年から簡易課税にしたい個人の医院なら、2027年12月31日。 年が明けてから「今年は簡易課税で」はできません。

大きな買い物をすると、しばりが伸びます

税抜1,000万円以上の機器や建物を買うと、 その後3年間は簡易課税を選べません。
「機器を買う年だけ本則課税にして、翌年から簡易課税に戻る」は、 金額が大きいとできない仕組みです。

では、どう決めればいいか

判断の順番は、こうです。

 確認すること目安
これから3年で、大きな設備投資の予定があるかあるなら本則課税を検討
自費の割合が50%を超えているか超えていないなら簡易課税が有利になりやすい
その機器は自費専用か専用なら本則課税の効果が大きい
物販を分けて記録できているか分ければ80%で計算できる

①がいちばん大事です。 ユニットの入れ替え、内装、CTの導入。3年先まで思い出してください。 2年しばりがあるので、目先の1年だけで決めると損をします。

なぜそもそも医院が消費税で不利なのかは、 払った消費税が返ってこない話に書きました。 いつから納税する側になるのかは、 自費が1,000万円を超えたらをご覧ください。

最後に。 この判断は、勘でやるものではありません。 数字を入れれば、どちらが得かははっきり出ます。 3年分の設備投資の予定と、保険・自費の割合。 この2つが分かれば、答えは出ます。 届出の期限だけは戻せませんので、12月に慌てないように、秋のうちに決めておいてください。

出典:国税庁タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」(基準期間の課税売上高5,000万円以下、 届出はその課税期間の初日の前日まで、2年間の継続、みなし仕入率は第五種事業50%・第二種事業80%・第六種事業40%)。 医療が第五種事業にあたる根拠は消費税法基本通達13-2-4(日本標準産業分類の大分類「医療、福祉」)。 同 No.6401「仕入控除税額の計算方法」(個別対応方式・一括比例配分方式)。 同 No.6502「高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例」(税抜1,000万円以上)。 試算は分かりやすさを優先した目安で、実際の金額は仕入の中身によって変わります。いずれも2026年9月時点。

簡易課税と本則課税、先生の医院はどちらが得か計算します。

直近の決算書と、これから3年の設備投資の予定を教えてください。 両方で試算して、金額の差と、いつまでに何を出すかをお伝えします。 届出の期限は1日でも過ぎると効きませんので、年末より前にご相談ください。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。