この記事の結論

医療法人にしないほうがいいのは、どんな人ですか。
利益がまだ小さい方、数年内に引退や承継を考えている方、事務の手間を増やしたくない方、法人のお金を自由に使いたい方、そして相続まで見通せていない方です。
法人化のいちばんの誤解は何ですか。
「税金が下がる=手元のお金が増える」ではないことです。社会保険料が増え、事務が増え、お金の自由度が下がります。
判断はどうすればよいですか。
決算書の数字を入れて計算するしかありません。「所得1,800万円から」といった目安は、あくまで目安です。

法人化すれば得、という話ではありません

医療法人化のメリットを書いた記事は、いくらでも見つかります。ただ実務で見ていると、法人化しないほうがよかったのではないか、という先生も一定数いらっしゃいます。

いちばんの誤解はここです。「税金が下がる」と「手元のお金が増える」は、同じではありません。

法人化すると税負担は下がることが多い一方で、社会保険料が増え、事務が増え、お金の自由度が下がります。

この3つを勘定に入れないと、判断を誤ります。

以下、見送ったほうがよいと考えられるケースを5つ挙げます。

医療法人にしないほうがいいのは、利益がまだ小さい、数年内に引退・承継を考えている、事務の手間を増やしたくない、法人のお金を自由に使いたい、相続まで見通せていない、の5つのケース。税金が下がることと手元のお金が増えることは別。
この記事で取り上げる5つのケースです。1つでも当てはまれば、慎重に計算してください。

ケース1|利益がまだ小さい

よく「所得1,800万円から」と言われますが、これは目安にすぎません。

利益が小さいうちは、法人化しても税負担の差より、増える社会保険料と事務コストのほうが大きくなることがあります。

見落とされやすい点

法人になると、院長は法人から給与を受け取る立場になり、健康保険と厚生年金に加入します。

保険料は労使折半ですが、法人の負担分も実質はご自身の負担です。

国民健康保険・国民年金だったときと比べて、世帯の負担が増えることがあります。

ケース2|数年内に引退・承継を考えている

医療法人の設立には、福岡県の場合でおおむね8か月〜10か月かかります(受付回のタイミングによります)。

県の受付は年2回しかありません。設立の費用と手間をかけて、数年で解散するのでは割に合いません。

さらに解散にも都道府県の認可が必要で、手続きは設立と同等かそれ以上に煩雑です。「とりあえず作ってみる」ができる制度ではありません。

ケース3|事務の手間を増やしたくない

医療法人には、一般の会社にもない義務があります。

忘れると

上の2つは期限を過ぎると過料の対象になり得ます。一般法人しか扱っていない税理士事務所だと、ここが抜けることがあります。

ケース4|法人のお金を自由に使いたい

個人事業なら、事業のお金と生活のお金は最終的に同じ財布です。法人にすると、これが完全に分かれます。

法人のお金を院長が個人的に使えば、法人からご自身への貸付金として処理されます。返済が必要ですし、決算書に残り続けます。

相続のときに「理事長貸付金」が問題になるのは、たいていこれが積み上がった結果です。

さらに医療法人には剰余金の配当が法律で禁止されています。利益が出ても、株式会社のように配当で受け取ることはできません。

ケース5|相続まで見通せていない

これがいちばん重いケースです。

いま新しく設立する医療法人は「持分なし」になるため、出資持分の相続という論点そのものは生じません。

ただし、法人にお金を残す設計をするなら、その先の出口を決めておく必要があります。役員退職金をどう準備するのか、後継者はいるのか、いない場合はどうするのか。

すでに「持分あり」の法人をお持ちの場合は、話がもっと切実です。持分あり医療法人の相続で、実際に何が起きているかもあわせてご覧ください。

では、どう判断するのか

結局のところ、先生の決算書の数字を入れて計算するしかありません。ご家族の状況、退職金の準備方法、後継者の有無、そして今後の分院展開の予定によって、答えは変わります。

見るべきなのは、税金ではありません

税引後に、手元のお金がどれだけ増えたか。それも1年ではなく、10年、20年という単位で。私はそこだけを見て判断をお伝えしています。

当事務所では、決算書をお預かりして法人化した場合としなかった場合を並べて計算しています。

その結果「いまは法人化しないほうがいい」となることもあります。そのときは、はっきりそう申し上げます。

あわせてお読みください。→ 個人開業医の事業税医療法人の理事長と「マイクロ法人」

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。