医院を、最後にどうするか。
開業のときは誰でも考えます。でも閉じ方を考えている先生は、ほとんどいません。
出口は3つしかありません。身内に引き継ぐ、他人に引き継ぐ、自分で閉じる。 どれを選ぶかで、10年前からやることが変わります。
この記事の結論
- 出口は何がありますか。
- ①身内に引き継ぐ ②他人に引き継ぐ(譲渡・M&A) ③自分で閉じる(解散)の3つです。株式会社と違い、医療法人は「売る」形が特殊なので、持分があるかないかで、やれることが大きく変わります。
- いちばん多いのはどれですか。
- 「決められないまま、③になる」です。後継者がいない、譲る相手も探していない。そのまま診療を続けて、体力的に限界が来て閉じる。これがいちばん、お金が残りません。
- いつから考えるのですか。
- 50代からです。持分の対策も、退職金の原資も、後継者探しも、どれも数年から十数年かかります。65歳で考え始めるのは、遅い。
出口は3つしかありません
| 出口 | お金の入り方 | |
|---|---|---|
| ① | 身内に引き継ぐ | 退職金。持分は相続か贈与 |
| ② | 他人に引き継ぐ | 退職金+持分の譲渡代金 |
| ③ | 自分で閉じる | 退職金。残った財産の分配 |
どの出口でも、退職金は共通して使えます。 むしろ配当ができない医療法人にとって、 退職金がいちばん大きな受け取りの機会です。
差がつくのは、持分をどうするかです。ここが医療法人の特殊なところです。
① 身内に引き継ぐ
お子さんが医師で、継いでくれる。いちばん理想的に見える形です。
| やること | いつから | |
|---|---|---|
| ① | お子さんを理事に入れる | 早いほどよい |
| ② | 持分をどう移すか決める(相続・贈与・移行) | 10年前から |
| ③ | 理事長を交代する(都道府県への届出が要ります) | 交代のとき |
| ④ | 理事長に退職金を出す | 退任のとき |
| ⑤ | 借入の個人保証を引き継ぐ/外す | 交代の前に |
⑤を忘れる方が多いです。 借入の保証人は、理事長を退いても自動では外れません。 銀行と話し合って外すか、後継者に引き継いでもらう必要があります。
そして②が最大の宿題です。持分があると、引き継ぐだけで多額の税金がかかります。 持分あり医療法人の相続をご覧ください。
② 他人に引き継ぐ
後継者がいない医院で、いま増えているのがこれです。
| 形 | 中身 |
|---|---|
| 持分の譲渡 | 持分ありの法人なら、出資持分を買ってもらう |
| 理事長の交代 | 持分なしの法人では、実質的にこの形になります |
| 事業の譲渡 | 設備や患者さんを引き継いでもらい、法人は畳む |
買い手は、医療法人グループや、開業を考えている勤務医です。 患者さんが付いていて、スタッフが残る医院は、値が付きます。
買う側は、必ず決算書を見ます。
役員貸付金が積み上がっている、経費に私的なものが混ざっている、
数字が実態を表していない。これだと、値が下がるか、話が流れます。
売ることを考えるなら、5年前から決算書をきれいにしてください。
③ 自分で閉じる
解散です。いちばん多い出口で、いちばんお金が残りません。
| 起きること | |
|---|---|
| ① | 患者さんへの周知、スタッフの退職手続き |
| ② | 設備の処分。売れないものは、捨てるのにお金がかかります |
| ③ | テナントの原状回復。まとまった費用がかかります |
| ④ | 借入の一括返済 |
| ⑤ | 都道府県の認可を受けて解散、清算の手続き |
| ⑥ | 残った財産の扱い。持分なしの法人では、原則として国などに帰属します |
⑥が重い。持分のない医療法人を解散すると、残った財産は先生のものになりません。 国、地方公共団体、または他の医療法人などに渡ります。
だから持分なしの法人では、退職金で受け取る設計がより重要になります。 法人に財産を残したまま閉じると、そのまま出ていきます。
持分のあるなしで、まったく違います
| 持分あり | 持分なし | |
|---|---|---|
| 設立時期 | 2007年3月以前 | 2007年4月以降 |
| 相続 | 評価額に相続税 | 持分がないので、かかりません |
| 譲渡 | 持分を売れる | 売る対象がありません |
| 解散 | 残余財産を受け取れる | 受け取れません |
| 宿題 | 評価額をどう下げるか | 退職金でどう受け取るか |
先生の法人がどちらかは、定款を見れば分かります。 「出資」「持分」という言葉が出てくれば、持分ありです。
持分ありなら、持分なしへ移行するという選択肢もあります。 条件を満たして認定を受ければ、相続税の問題を解消できます。 ただし一度移行すると、戻れません。財産を受け取る権利も手放すことになります。
50代でやっておくこと
| やること | |
|---|---|
| ① | 持分があるか確かめる。あるなら、いまの評価額を出す |
| ② | 後継者がいるか、現実的に見る。「たぶん継ぐだろう」は当てにしない |
| ③ | 退職金の原資を積み始める |
| ④ | 決算書をきれいにする(役員貸付金を減らす) |
| ⑤ | 借入の返済が、退任までに終わる計画になっているか見る |
①だけでも、今日できます。いまの持分の評価額を知らない先生が、本当に多い。 「そんなに大きいのか」と驚かれることがよくあります。
②も正直に見てください。 医学部に行っているから継ぐ、とは限りません。本人に聞いていますか。
最後に。 出口の話は、縁起でもないと感じられるかもしれません。
でも出口が決まると、いまやるべきことが決まります。 売るなら決算書をきれいにする。身内に継がせるなら持分を動かす。閉じるなら退職金で受け取る。 やることが、まったく違うのです。 だから早く決める。決めなくても、方向だけは見ておいてください。
出典:剰余金の配当の禁止は医療法第54条。 持分の定めのある社団医療法人は、平成19年4月1日施行の第五次医療法改正以後は新設できず、 既存のものは経過措置型医療法人として存続する(医療法および同改正法附則)。 解散および残余財産の帰属は医療法第55条・第56条(持分の定めのない医療法人の残余財産は、 国、地方公共団体または医療法第44条第5項に規定する者に帰属する)。 定款変更・解散には都道府県知事の認可が必要(医療法第50条・第55条)。 退職所得の計算は所得税法第30条。持分の評価は財産評価基本通達による。 認定医療法人制度による持分なしへの移行は、良質な医療を提供する体制の確立を図るための 医療法等の一部を改正する法律附則による。個別の判断は事情によって異なります。 いずれも2026年9月時点。
出口から逆算して、いまやることを決めませんか。
定款と決算書があれば、持分のあるなし、いまの評価額、退職金の上限の目安まで出せます。 そのうえで、身内に継がせるのか、譲るのか、閉じるのか。方向だけでも決めておくと、 毎年の判断がぶれなくなります。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。