銀行に決算書を渡すとき、どこを見られているか考えたことはありますか。

銀行が見るのは、利益ではありません。 いえ、利益も見ますが、それより先に見ている数字があります。

決算書は、信用を数値化したものです。 どこを良くすれば借りられるのか、順番に書きます。

この記事の結論

いちばん見られるのはどこですか。
返せるかどうかです。具体的には「利益+減価償却費」が、年間の返済額を上回っているか。ここがマイナスだと、どれだけ売上があっても厳しくなります。
次に見られるのは。
純資産がプラスかどうかです。マイナスだと債務超過。新規の借入はほぼ止まります。そしてそこから役員貸付金は引かれて評価されます。
節税しすぎるとどうなりますか。
借りられなくなります。利益をゼロにすると、返済原資がないと判断されます。節税で減らした税金より、借りられなかった金額のほうが大きいことは、よくあります。

① 返せるかどうか(返済原資)

銀行の関心は、ひとつです。貸したお金が返ってくるか。

だから見るのは、1年でいくら返せる力があるかです。 計算は単純です。

 計算
返済に回せるお金税引後の利益 + 減価償却費

減価償却費を足すのは、お金が出ていかない経費だからです。 帳簿では経費でも、現金は残っています。

具体的に見ます

税引後の利益 400万円、減価償却費 600万円 → 返済に回せるのは年1,000万円。
いまの借入の年間返済額が800万円なら、200万円の余裕があります。追加で借りられる可能性があります。
逆に年間返済額が1,200万円なら、毎年200万円足りません。手元のお金が減り続けます。

まずこの引き算をしてみてください。 プラスかマイナスかで、銀行の見方がまったく変わります。

② 純資産がプラスか

次に見るのが純資産です。 資産から負債を引いた残りで、貸借対照表の右下にあります。

純資産銀行の見方
プラスで、年々増えている良い。利益を積み上げている
プラスだが、横ばいふつう
マイナス(債務超過)新規の借入はほぼ止まります

医療法人は配当ができません。 だから利益を出せば、その分は法人に積み上がります。 純資産を厚くするのに、医療法人は向いているとも言えます。

③ 役員貸付金と、怪しい資産

ここがいちばん見落とされているところです。

銀行は決算書の数字を、そのまま信じません。 「本当に価値があるのか」を確かめて、怪しいものは資産から引きます。

引かれやすいものなぜ
役員貸付金返ってこないと見られます
回収できていない未収金何年も動いていないもの
実態のない在庫期限切れの薬など
ゴルフ会員権・保険の積立時価が簿価より低ければ、その差額

役員貸付金が1,000万円あれば、純資産も1,000万円少ないものとして見られます。 純資産が800万円しかなければ、実質的には債務超過という判定になります。

ここで融資が止まる医院を、何度も見ています。 決算書を開いて、役員貸付金という科目がないか確かめてください。

医院ならではの見られ方

 銀行が見るところ
保険診療の売上。支払基金からの入金なので、取りっぱぐれがない。評価は高い
自費の割合。伸びていれば収益力があるが、変動も大きいと見られます
患者数の推移。数字に出る前の兆しとして見られます
院長の年齢と後継者。長期の借入なら、必ず聞かれます
診療圏の人口動態

①は医院の大きな強みです。 売上が国から2か月遅れで確実に入ってくる——こんな業種は多くありません。 銀行から見れば、安定した返済原資です。

④は、出口の話と直結します。 院長が60代で、15年の借入を申し込むと、「誰が返すのですか」と必ず聞かれます。

節税しすぎると、借りられません

ここがいちばん申し上げたいことです。

利益を限界まで削って、法人税をゼロにする。 税金は減ります。でも、決算書は「儲かっていない医院」になります。

 節税重視利益を残す
利益0円500万円
法人税など0円約150万円
手元に残るお金0円350万円
銀行の評価低い高い
借りられる額厳しい広がります

節税してもお金は増えません。 経費を使って税金を減らすということは、お金が外に出ていくということです。

利益500万円に150万円の税金を払っても、350万円は手元に残ります。 そして決算書が良くなり、借りられる額が増える。 「税金を払って、借りる」ほうが、お金は増えます。

もちろん、やる価値のある節税はあります

必要な機器を買うスタッフの給料を上げる決算賞与を出す
使ったお金が医院のためになるなら、それは節税ではなく投資です。 問題なのは、税金を減らすためだけに使うお金です。

決算書は、3年かけて良くするもの

銀行は3期分を見ます。1年だけ良くしても、あまり意味がありません。

 やること効果が出るまで
役員貸付金を減らすすぐ効きます
使わない資産(保険・会員権)を整理する1年
利益をきちんと出す3年
私的な経費を混ぜない3年
月次の数字を毎月出すすぐ。銀行への説明力が変わります

⑤を軽く見ないでください。 銀行が好きなのは「数字の書類」です。 決算書だけでなく、月次の試算表資金繰りの見通し、これからの計画。 これを持っていくと、話がまったく変わります。

毎月の試算表のどこを見るかもあわせてご覧ください。

最後に。 借りたいと思ったときには、決算書はもう決まっています。 直せるのは、来期以降です。

だから借りる予定がなくても、決算書は良くしておく。 そうすれば、必要になったときに借りられます。 お金が必要になってから動くのが、いちばん借りにくい。

出典:減価償却費が資金の流出を伴わない費用であること、および簡易キャッシュフロー (税引後利益+減価償却費)による返済能力の見方は、金融実務上の一般的な考え方です。 本文の銀行の審査に関する記述は、公表された基準に基づくものではなく、 筆者が実務で見聞きしている範囲での内容であり、判断は金融機関によって異なります。 剰余金の配当の禁止は医療法第54条。 法人税の軽減税率は租税特別措置法第42条の3の2、本則税率は法人税法第66条。 試算は分かりやすさを優先した目安です。いずれも2026年9月時点。

先生の決算書が、銀行からどう見えるか出します。

直近3期の決算書があれば、返済原資・純資産・引かれる資産を計算して、 いまいくらまで借りられそうかの目安が出せます。 借りる予定がなくても、一度知っておく価値があります。 弱いところが分かれば、来期から直せます。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。