決算書の右下に、純資産という欄があります。

ここがマイナスになっている状態を、債務超過といいます。 借金が、持っている財産を超えている。

医療法人でも起こります。そして、起きると3つの悪いことが同時に来ます。

この記事の結論

債務超過とは何ですか。
資産より負債のほうが多い状態です。決算書の純資産がマイナスになっています。いますぐ倒れるわけではありません。お金が回っていれば、事業は続きます。
何が困るのですか。
①借りられなくなる ②取引の条件が悪くなる ③承継・譲渡ができなくなる。この3つです。とくに①が効きます。いちばんお金が要るときに、借りられません。
すぐ分かりますか。
決算書を見れば1分で分かります。純資産の欄がマイナスかどうか。ただし数字上はプラスでも、実質的には債務超過という医院があります。ここが落とし穴です。

1分で確かめられます

決算書の貸借対照表を開いてください。右下に純資産の合計があります。

純資産状態
プラスで、年々増えている健全です
プラスだが、減り続けている注意。このままだとマイナスになります
マイナス債務超過

医療法人は配当ができません。 だから利益を出せば、その分だけ純資産は増えます。 逆に言えば、純資産が減っているのは、赤字が続いているということです。

3つの悪

 何が起きるか
借りられなくなる。新規の融資はほぼ止まります
条件が悪くなる。金利が上がる、担保や保証を求められる
承継・譲渡ができない。誰も借金つきの医院を引き受けません

①がいちばん効きます。しかも、お金が必要なときほど効きます。 債務超過になる医院は、たいてい資金繰りも苦しい。そのときに借りられない。

③は将来の話ですが、重い。 誰かに引き継いでもらうには、引き継ぐ側にメリットが要ります。 債務超過の医院を、進んで引き受ける人はいません。

ただし、すぐ倒れるわけではありません

債務超過でも、お金が回っていれば事業は続きます。 逆に、純資産がプラスでも手元のお金が尽きたら、そこで終わりです。
倒れるのは「赤字」ではなく「現金切れ」です。 だから資金繰りのほうを、先に見てください。

数字はプラスでも、実質は債務超過という医院

ここが本当の落とし穴です。

銀行は決算書の数字を、そのまま信じません。 怪しい資産を引いたうえで、純資産を計算し直します。

 金額
決算書の純資産800万円(プラス)
役員貸付金△1,200万円
何年も動いていない未収金△200万円
銀行から見た純資産△600万円(実質的に債務超過)

決算書はプラスなのに、銀行の評価はマイナス。 これで融資が止まる医院を、何度も見ています。

役員貸付金があるなら、いまの純資産から引いて計算してみてください。 それが本当の姿です。

医院が債務超過になる原因

 原因
開業時の投資が大きすぎた。機器を入れすぎた、内装にかけすぎた
赤字が数年続いた
役員貸付金が積み上がった
理事報酬を取りすぎて、法人にお金が残らなかった
患者数が減ったのに、人員・設備をそのままにした

①が多い。開業時は、勢いで投資が膨らみます。 そして返済が始まってから、重さに気づく。

④も見落とされます。 利益を全部報酬にすると、法人には何も残りません。 法人に残すか、院長に渡すかのバランスの話です。

抜け出す方法

 方法効き方
利益を出すいちばん確実。ただし時間がかかります
役員貸付金を返す院長が法人に返せば、その分だけ改善します
理事報酬を下げる法人に利益が残ります。ただし生活とのバランスを
使っていない資産を処分する保険の解約、会員権の売却
院長が法人にお金を入れる貸付か出資か、扱いが違います。相談してから

②が意外と効きます。 役員貸付金は、院長が法人に返せば消えます。 理事報酬を上げて、その増えた分で返す。これが現実的な形です。

⑤は注意してください。 「貸付」だと負債が増えるので、純資産は変わりません。 出資や、貸付金を資本に振り替える形もありますが、税務と医療法の両方が関係します。必ず相談してから。

最後に。 債務超過は、1年では作れませんし、1年では消えません。 何年もかけて積み上がり、何年もかけて解消します。

だから早く気づくことが、すべてです。 いまの決算書の純資産を見て、そこから役員貸付金を引いてみてください。 プラスなら、その状態を守る。マイナスに近づいているなら、今期から手を打つ。 それだけで、5年後がまったく違います。

出典:純資産・貸借対照表の表示は会社計算規則および医療法人会計基準による。 医療法人の剰余金の配当の禁止は医療法第54条。 銀行が資産を実態に引き直して評価するという記述は、公表された審査基準に基づくものではなく、 筆者が実務で見聞きしている範囲での内容です。融資の可否・条件は金融機関の判断によります。 役員に対する貸付金の利息の取扱いは所得税基本通達36-49および国税庁タックスアンサー No.2606。 債務の資本への振替(デット・エクイティ・スワップ)等の取扱いは、 税務・医療法の両面から個別の検討が必要です。いずれも2026年9月時点。

実質的な純資産が、いくらか計算します。

決算書があれば、銀行から見た本当の純資産を出せます。 役員貸付金や動いていない資産を引いたあとの数字です。 マイナスに近づいているなら、何年で戻せるかの計画まで一緒に作ります。 借りられなくなる前に、確かめておいてください。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。