医院で稼いだお金を、法人に残すか、理事報酬で自分に渡すか。

毎年決めていることですが、考えて決めている先生は少ないです。 「去年と同じで」になっていませんか。

どちらに置くかで、税金も、使える自由度も、将来の相続も変わります。 判断の順番を書きます。

この記事の結論

どちらが得ですか。
税率だけで見れば、法人のほうが低いです。利益800万円までなら法人税は約15%、個人は所得が増えるほど上がって最高55%。ただし、法人に残したお金は自由に使えません。
では、全部法人に残せばいいのですか。
違います。生活に必要な分は、必ず報酬で受け取ってください。足りないと法人から引き出すことになり、役員貸付金がふくらみます。これが最悪です。
判断の順番は。
①生活費 ②納税資金 ③将来の投資 ④それでも残るなら法人に。この順です。税率から考えると、間違えます。

税率だけを見れば、法人が低い

 税率
法人に残す利益800万円までは約15%、超えた部分は約23%
(住民税・事業税を入れると、実際の負担はもう少し上がります)
理事報酬で受け取る所得税+住民税で15%〜55%。所得が増えるほど上がります

理事報酬を増やすと、税率が上がるだけでなく社会保険料も増えます。 だから「税金だけを最小にする」なら、法人に残すほうが有利に見えます。

ここで判断を止めてしまうと、失敗します。

でも、法人のお金は自由に使えません

 法人に残したお金
生活費には使えません。引き出せば役員貸付金になります
配当で受け取ることもできません。医療法人は配当禁止です
受け取れるのは、退職金のときだけ(あとは毎月の報酬)
持分があると、たまった分が相続税の対象になります

②が効いてきます。株式会社なら配当という出口がありますが、医療法人にはありません。

法人に残したお金は、退職するまで動かせない。 そう考えたほうが正確です。

判断の順番は、この4つ

 確保するもの考え方
生活費足りない額にしない。引き出す羽目になります
個人の納税資金所得税・住民税・社会保険料を払える額を残す
個人でやる投資・貯蓄iDeCo・NISA・住宅など
残りを法人に設備投資と、退職金の原資に

②を忘れる方が多い。 理事報酬にかかる住民税は、翌年に来ます。 その年に使い切っていると、翌年に苦しくなります。

③も大事です。法人に置いたお金では、自宅も買えませんし、個人の投資もできません。 個人でやりたいことがあるなら、その分は報酬で受け取る必要があります。

法人に残しすぎると、こうなります

 起きること
生活費が足りず、法人から引き出す → 役員貸付金が積み上がる
持分の評価が上がる → 相続税が重くなる
個人の手元にお金がない → 家も買えない、投資もできない
退職金を出そうにも、妥当な金額に上限がある

①がいちばん多い失敗です。 節税のつもりで報酬を下げたのに、結局引き出していて、帳簿が汚れる。 銀行の評価も下がります。これでは何のための節税か分かりません。

④も知っておいてください。法人にお金があれば、いくらでも退職金にできるわけではありません。 最終の報酬月額と勤続年数から見て妥当な範囲、という基準があります。 報酬を低くしすぎると、出せる退職金も小さくなります。

個人に寄せすぎると、こうなります

逆も書いておきます。

 起きること
所得税・住民税の税率が上がる(最高で合計55%)
社会保険料が増える(法人負担分も増えます)
法人にお金が残らない。設備投資も、借入の返済も苦しくなる
決算書が痩せる → 銀行の評価が下がります

④を軽く見ないでください。 利益を全部報酬にすると、法人の利益はゼロに近くなります。 決算書だけ見た銀行は「儲かっていない医院」と判断します。

借入を考えているなら、あえて法人に利益を残すという選択もあります。 税金は増えますが、借りられる額が変わります。

目安の決め方

医院の状況寄せる先理由
これから借入をする法人に厚く決算書の利益が、借入額に効きます
設備投資の予定がある法人に厚く手元資金が要ります
退職まで10年以上ある法人にやや厚く退職金の原資を積む期間があります
持分ありで評価が高い個人に厚くこれ以上たまると相続が重くなります
個人で家を買う予定個人に厚く頭金も、ローンの審査も個人の所得で見られます
退職が近い個人に厚く退職金の上限は報酬月額で決まります

「毎年同じ」でいいことは、あまりありません。 借入をする年、設備を入れる年、家を買う年。その年ごとに答えは変わります。

理事報酬を決められるのは決算後3か月以内だけです。 そこで1年分が決まります。

最後に。 この判断に「正解の比率」はありません。先生が何をしたいかで決まります。

家を買いたいのか、機器を入れたいのか、早く引退したいのか。 先に「やりたいこと」を決めて、そこからお金の置き場所を決める。 税率から逆算すると、たいてい変な形になります。

出典:法人税の軽減税率(中小法人の年800万円以下の部分)は租税特別措置法第42条の3の2、 本則税率は法人税法第66条。 所得税の税率は所得税法第89条(5%〜45%)、住民税所得割は地方税法により原則10%。 役員給与の定期同額給与は法人税法第34条第1項第1号および同法施行令第69条、 不相当に高額な部分の損金不算入は同条第2項。 剰余金の配当の禁止は医療法第54条。退職所得の計算は所得税法第30条。 実際の負担は法人住民税・法人事業税・社会保険料を含めて変わります。 試算は目安であり、個別の判断は事情によって異なります。いずれも2026年9月時点。

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今期の着地見込み、これから3年の設備投資と借入の予定、先生のご家庭の支出。 この3つが分かれば、法人と個人にどう配分するのが有利かを数字で出せます。 決められるのは決算後3か月以内だけです。その前にご相談ください。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。