この記事の結論

持分あり医療法人の相続では、何が起きるのですか。
換金できない出資持分に、相続税だけがかかります。相続人が納税資金のために払戻しを求めると、今度は法人からお金が出ていきます。
いちばん危ないのは、どんなケースですか。
相続人のなかに、医療法人の運営に関わらない方がいる場合です。その方には法人を続ける動機がないため、払戻請求という選択が現実味を帯びます。
いま何をすればよいですか。
現在の出資持分の評価額を出すことです。金額が分からないまま対策を考えても意味がありません。

なぜ「持分あり」の医療法人が残っているのか

平成19年の医療法改正により、それ以降に新しく設立される医療法人は、すべて「持分なし」になりました。いま新規で持分ありの法人を作ることはできません。

一方で、改正より前に設立された法人は「持分あり」のまま存続しています。これを経過措置型医療法人と呼びます。長く続いている診療所ほど、この形です。

福岡県内には、この持分ありの医療法人が2,247法人ありました(平成26年3月31日時点の調査)。

県内の医療法人2,677のうち、8割以上が該当していた計算です。決して例外的な話ではありません。

出典:厚生労働省「都道府県別医療法人数」(平成26年3月31日現在)

出資持分は、換金できないのに相続税がかかる

出資持分は、社員(=医療法人の意思決定に加わる人。従業員のことではありません)が持つ財産権です。理事長に相続が起きたとき、この持分は相続財産として評価されます。

評価は、取引相場のない株式に準じた方法で行われます。長く続いた法人ほど内部留保が厚く、評価額が数億円になっていることも珍しくありません。

ここが問題です

評価額は上がる。しかし持分は売れませんし、上場株のように換金もできません。相続人は、現金を1円も受け取っていないのに、多額の相続税を納めることになります。

実際に起きているのは、こういうことです

実務で語られる典型的な構図を、2つ挙げます(特定の事案ではなく、起こり得る形を一般化したものです)。

ケース1|運営に関わらない相続人がいた

理事長が亡くなり、相続分が妻2分の1、医師である子4分の1、医療法人の運営に関わらない子4分の1となった。

妻と医師の子は法人を続けるため新たに社員になったが、運営に関わらない相続人から払戻請求を受けた。

ケース2|家族間に対立があった

理事長と絶縁状態にあった次男が、出資持分の払戻請求権を根拠に払い戻しを求めた。

共通しているのは、相続人のなかに「法人を続ける動機がない人」がいるという点です。

医院を継ぐ人にとって持分は事業の基盤ですが、継がない人にとってはただの財産です。しかも相続税だけは課される。

「では現金でください」となるのは、感情の問題ではなく構造の問題です。

持分あり医療法人の相続で起きることの構造図。理事長に相続が起きると出資持分が相続財産として評価され、医院を継がない相続人にも相続税がかかる。換金できないため払戻請求につながり、法人が現金で支払うことで資金が流出する。
継ぐ動機のない相続人にも、相続税だけはかかります。

払戻請求を受けると、法人はどうなるのか

社員が退社したり亡くなったりした場合、相続人は医療法人に対して持分相当額の支払いを請求できます。請求されれば、法人は現金で払わなければなりません。

評価額が数千万円から数億円ということは、その金額を法人が用意するということです。診療所の運転資金からは到底出せません。

借入で対応するにしても、返済は診療報酬から出すことになります。

最悪の結末

医療法人からお金が流出し、法人の存続そのものが揺らぐ。院長が一代でつくった診療所が、相続をきっかけに立ち行かなくなる——これが現実に起きています。

相続が起きてからでは、打てる手が減る

対策としては、持分なしへの移行(認定医療法人制度の活用を含む)、役員退職金の設計による評価の引き下げ後継者への計画的な移転などがあります。

ただし、どれも時間がかかります。認定医療法人制度には申請の期限があり、移行後も運営に関する要件を満たし続ける必要があります。

退職金による評価の引き下げも、支給額の妥当性を設計したうえで実行するものです。

相続が起きてから相談に来られたときには、打てる手がかなり減っています。だからこそ、まず現在の評価額を知ることから始めてください。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。