株式会社の社長は、利益が出たら配当を受け取れます。 役員報酬とは別に、株主として。

医療法人には、これがありません。 医療法に、はっきり書いてあります。

「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」 たった一行ですが、ここが医療法人と株式会社を分ける、いちばん大きな違いです。

この記事の結論

本当に配当できないのですか。
できません。医療法第54条です。持分のあるなしに関係なく、すべての医療法人が対象です。利益がどれだけ出ても、理事長に配当として渡すことはできません。
なぜ禁止されているのですか。
医療法人が営利を目的としない法人だからです。医療は公共性が高いので、儲けを出資者に分配する仕組みにしない。そのかわり、社会保険診療には事業税がかからないといった優遇があります。表と裏です。
では、利益はどうなるのですか。
法人の中にたまり続けます。これが後から効いてきます。持分のある医療法人だと、たまった利益がそのまま出資持分の評価額になり、相続のときに大きな税金になります。

医療法に、一行で書いてあります

条文は短いです。

医療法第54条「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」

例外はありません。持分のある医療法人も、持分のない医療法人も、社会医療法人も、全部同じです。

設立のときの定款にも、たいてい同じ趣旨のことが書かれています。 一度ご自身の定款を見てみてください。

株式会社の社長と、何が違うのか

 株式会社の社長医療法人の理事長
役員報酬もらえるもらえる
退職金もらえるもらえる
配当もらえるもらえません
会社を売る株式を売れる持分があれば譲渡できる場合も

株式会社の社長にとって、配当は役員報酬の弱点をおぎなう手段です。

役員報酬は、期の途中で自由に変えられません。 決算後3か月以内に決めたら、その1年は動かせない。 利益が想定より大きく出ても、報酬は増やせません。

株式会社なら、そこで配当を出せばいい。 決算が終わってから、利益を見て決められます。しかも配当には社会保険料がかかりません。

医療法人には、この逃げ道がない。 理事報酬を決めた時点で、その年の受け取り方はほぼ固定されます。

配当ができないと、何が困るのか

 困ること
利益を出しすぎると、法人税で持っていかれる。受け取る手段が報酬しかない
報酬を上げると、社会保険料も上がる。配当なら、かからなかった
利益が法人にたまり続ける。持分の評価額がふくらみます
年度の途中で「今年は儲かった」となっても、打つ手が限られる

②が地味に効きます。 理事報酬を月10万円上げると、社会保険料も上がります。 法人と個人の両方で負担します。

株式会社なら「報酬は据え置いて、配当で受け取る」ができる。 医療法人は、それができません。 賞与に寄せる方法もありますが、 医師国保の医院では効きません。

たまった利益は、どこへ行くのか

ここが、いちばん先を見ておくべきところです。

配当できないので、利益は法人の中に積み上がります。 持分のある医療法人だと、この積み上がりがそのまま出資持分の評価額になります。

時点起きること
設立時出資は数百万円。持分の評価も、そのくらい
20年後利益がたまって、評価が数億円になっていることも
相続のときその評価額に相続税がかかります

現金が手元にあるわけではありません。法人の中にあるだけです。 それなのに、相続税は現金で払うことになります。

持分あり医療法人の相続で、実際に何が起きているかに書きました。 配当禁止という一行が、20年後に効いてきます。

禁止の代わりに、優遇があります

悪いことばかりではありません。 営利を目的としない法人だからこそ、認められている優遇があります。

優遇中身
事業税社会保険診療の分は、法人でも対象外
法人事業税の税率特別法人として、通常より低い税率
消費税保険診療は非課税(ただしこれは有利とは限りません

配当を禁止するかわりに、税制で配慮する。 これが医療法人という仕組みの設計です。

「配当できないのは損だ」と考えるより、 「そういう乗り物に乗っている」と理解して、その中でやれることを組むほうが建設的です。

「実質的な配当」も、できません

最後に、ひとつ注意を。

配当という名前を使わなくても、実質的に利益を分配していると見られる行為は問題になります。

問題になりうるもの
働いていない親族に、多額の役員報酬を出す
理事長の資産を、相場より著しく高い値段で法人に売る
理事長から借りた土地に、相場より著しく高い賃料を払う
合理的な理由のない、多額の貸付をする

どれも税務上も問題になります。 働いていない親族への報酬は税務調査で必ず見られますし、 相場から離れた取引は、その差額が否認されます。

ただし、正当な取引は問題ありません

理事長の土地を法人に貸すことも、 実際に働いている配偶者に給与を出すことも、 相場の範囲なら、まったく問題ありません。
線を引いているのは「相場かどうか」です。

最後に。 配当ができないことは、変えられません。法律だからです。

だから考えるべきは、「配当の代わりに、何ができるか」です。 理事報酬の決め方、退職金の設計、そして持分をどうするか。 配当の代わりにできることに、順番に書きました。

出典:医療法第54条「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」(e-Gov法令検索で条文を確認)。 医療法人の会計年度は医療法第53条。事業報告書等の届出は同法第52条第1項。 役員給与の定期同額給与は法人税法第34条第1項第1号および同法施行令第69条。 法人の社会保険診療に係る所得の取扱いは地方税法第72条の23第2項。 消費税の非課税は消費税法別表第二第6号。 実質的な利益分配とみなされうる行為についての記述は、医療法および税法上の一般的な考え方であり、 個別の判断は事情によって異なります。いずれも2026年9月時点。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。