奥様に給与を払っている。ご両親に役員報酬を出している。 お子さんに、手伝いの分として渡している。

医院では、ごくふつうのことです。 そして税務調査で、必ず聞かれます。

聞かれるのは1つだけ。「その方は、実際に何をしていますか」 ここに答えられるかどうかで、決まります。

この記事の結論

何を見られるのですか。
実際に働いているか、そして金額が仕事に見合っているか。この2つです。名前だけで給与を払っていると、その分は経費として認められません。
いくらまでなら大丈夫ですか。
金額の上限は決まっていません。「同じ仕事を他人に頼んだら、いくら払うか」が基準です。週2日、受付と経理を手伝う奥様に月80万円——これは説明が苦しくなります。
どう備えればいいですか。
記録です。タイムカード、業務の内容を書いたもの、そして本人名義の口座への振込。この3つがあれば、ほとんどの場合は説明がつきます。

聞かれることは、いつも同じです

聞かれること何を確かめているか
週に何日、何時間いらっしゃいますか実際に働いているか
どんな仕事をされていますか仕事の中身と金額が釣り合うか
ほかにお勤めはありますか働ける時間があるか
給与はどの口座に振り込んでいますか本人が受け取っているか
金額はどうやって決めましたか根拠があるか

悪気なくつまずくのが、4つ目です。 院長の口座にまとめて入っている、現金で渡している。 これだと「本人が受け取った」と言いにくくなります。

5つ目もよくあります。「税理士がこれくらいと言ったので」。 これは説明になりません。

法人の場合——役員か、スタッフか

医療法人では、家族の立場によって扱いが変わります。

立場ルール
理事(役員)になっている毎月同じ額であること。高すぎる部分は経費になりません
スタッフとして働いているふつうの給与。ただし院長の親族は、高すぎる部分が経費になりません

ポイントは、役員でなくても「高すぎる部分は経費にならない」という決まりがあることです。 理事長の親族などには、ふつうのスタッフとは別のルールがかかります。

「役員じゃないから自由に決められる」は、成り立ちません。

理事にしている場合は、もうひとつ注意

理事報酬は、期の途中で自由に上げ下げできません。 毎月同じ額にしておく必要があります。
賞与を出したいなら、事前確定届出給与という届出が要ります。 くわしくは医療法人の配偶者給与もご覧ください。

個人の場合——届出と、金額の相当性

個人でクリニックをやっている場合は、青色事業専従者給与という仕組みを使います。

 条件
青色申告をしていること
あらかじめ届出を出していること
生計を一にする親族で、その年に6か月を超えて働いていること
金額が仕事の対価として相当であること
届け出た金額の範囲内であること

②を忘れている方がいます。届出がないと、1円も経費になりません。 金額を上げるときも、届出を出し直す必要があります。

③も見られます。ほかに常勤の仕事をしている奥様が、 医院で6か月を超えて働いているというのは、説明が難しくなります。

専従者にすると、扶養から外れます

専従者給与を払うと、その方について配偶者控除や扶養控除は使えません。 少額なら、専従者にしないほうが有利なこともあります。
扶養控除とあわせて、どちらが得かを計算してから決めてください。

否認されると、どうなるか

「高すぎる」と判断された場合、その超えた部分だけが経費から外れます。 給与そのものがなかったことになるわけではありません。

 金額
払っていた額年960万円(月80万円)
相当と判断された額年360万円(月30万円)
経費から外れる額年600万円
3年分では1,800万円

これに法人税や所得税がかかり、加算税と延滞税が乗ります。

しかもやっかいなのは、もらった側は、その分の所得税と社会保険料をすでに払っていることです。 医院では経費として認められず、個人では所得として課税されている。 いい形にはなりません。

残しておくべき3つの記録

 残すもの何を示すか
タイムカード・出勤簿実際に来ている
仕事の内容を書いたもの何をしているか
本人名義の口座への振込本人が受け取っている

①は、家族だからと免除しないでください。スタッフと同じように打ってもらう。 これがあるだけで、話がまったく変わります。

②は、大げさなものでなくてかまいません。 「レセプト請求、シフト作成、発注、入金確認、求人対応」。 箇条書き5行で十分です。

③は必ず守ってください。現金で渡すのは、いちばん弱い形です。

金額の根拠は、求人で作れます

「同じ仕事を他人に頼んだら、いくらか」を示すには、 同じ地域・同じ職種の求人を見るのがいちばん早い。
医療事務の求人票を1枚プリントして、給与の資料と一緒に保管しておく。 それだけで、根拠のある金額になります。

お子さんへの給与は、特に見られます

大学生のお子さんに、月10万円。医院ではよくある形です。

ここで見られるのは、本当に働いているかです。

状況どう見られるか
遠方の大学に通っている物理的に働けません。説明できません
週末だけ受付に入っているその時間に見合う金額なら、問題ありません
ウェブサイトの更新をしている成果物が残っていれば説明できます
名前だけ経費になりません

仕送りを給与の形にしているだけ、と見られるのがいちばん困ります。 働いていないなら、素直に仕送りにしてください。

逆に、実際に働いているなら堂々と払ってかまいません。 所得分散としては、正しいやり方です。 必要なのは、記録だけです。

最後に。 家族に給与を払うこと自体は、まったく悪いことではありません。 実際に働いてもらっているなら、正当な対価です。

問題になるのは「働いていないのに払っている」場合と「働いているのに記録がない」場合だけ。 後者は、もったいない。タイムカードを打ってもらうだけで防げます。 今日から始めてください。

出典:法人の役員給与のうち不相当に高額な部分の損金不算入は法人税法第34条第2項および 同法施行令第70条。役員と特殊の関係のある使用人に対する給与のうち不相当に高額な部分の 損金不算入は法人税法第36条および同法施行令第72条・第72条の2。 青色事業専従者給与は所得税法第57条第1項(青色申告者と生計を一にする親族で、 その年を通じて6月を超える期間その事業に専ら従事すること、届出書に記載された金額の範囲内で、 労務の対価として相当と認められる金額)。専従者について配偶者控除・扶養控除の適用がないことは 所得税法第2条第1項第33号および第83条・第84条。 加算税・延滞税は国税庁タックスアンサー No.2026、No.9205。 金額が相当かどうかは、職務の内容や同種の事業の支給状況など個別の事情により判断されます。 いずれも2026年9月時点。

いまの金額で説明がつくか、見ておきませんか。

ご家族の勤務の状況と金額をうかがえば、説明できる形になっているかを整理できます。 記録が足りない場合は、今日から残せる形をお渡しします。 個人のクリニックなら、届出が出ているかの確認もあわせて行います。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。