扶養控除は、税金の話のなかでもいちばん基本的な控除です。

それだけに「うちは関係ない」と早々に判断されがちで、実は見落としが最も多い控除でもあります

しかも見落としの理由はたいてい難しい論点ではなく、「別居している親は対象外だと思っていた」「年金をもらっているから無理だろうと思っていた」といった、思い込みによるものです。

さらに令和7年度の税制改正で、いわゆる「103万円の壁」の見直しが行われ、扶養に関わる金額の前提そのものが動きました。

19歳以上23歳未満の子を対象とする「特定親族特別控除」も新しく設けられています

この記事では、理事長ご自身の年末調整・確定申告と、医療法人のスタッフの年末調整の両方を念頭に、確認しておきたい点を整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

扶養控除は、どういう人がいると受けられますか。
生計を一にする親族で、所得が一定額以下の人がいる場合に受けられる所得控除です。

控除額は年齢によって変わり、大学生くらいの年代(特定扶養親族)と、70歳以上の親(老人扶養親族)は控除額が大きくなります。
とくに見落としやすいのは、どんなケースですか。
仕送りをしている別居の親と、年金収入だけの親です。

同居していなくても生計を一にしていれば対象になり得ますし、年金は収入そのものではなく公的年金等控除を引いたあとの所得で判定するため、思ったより要件に収まることがあります。
令和7年度の税制改正で、何が変わりましたか。
基礎控除と給与所得控除の最低保障額が引き上げられ、扶養親族の所得要件は合計所得58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)になりました

あわせて19歳以上23歳未満の親族を対象とする「特定親族特別控除」が新設され、学生の子のアルバイト収入が要件を超えても、段階的に控除を受けられる形になっています。

扶養控除の基本——「生計を一にする」と所得の要件

扶養控除は、生計を一にする親族で、所得が一定額以下の人がいる場合に受けられる所得控除です。

所得の要件は、令和7年分からは合計所得金額58万円以下(収入が給与だけなら、年収123万円以下)です。

判定は原則としてその年の12月31日時点の状況で行い、控除額はその人の年齢と同居しているかどうかで変わります。

扶養親族の区分と控除額

区分対象となる年齢など控除額
一般の控除対象扶養親族 16歳以上(下記のいずれにも当たらない人) 38万円
特定扶養親族 19歳以上23歳未満 63万円
老人扶養親族(同居老親等以外) 70歳以上で、別居している親など 48万円
老人扶養親族(同居老親等) 70歳以上の父母・祖父母などで、同居している人 58万円
「生計を一にする」=同居ではありません

ここがいちばん誤解されるところです。

生計を一にするとは、同じ財布で暮らしているかどうかという趣旨であって、同じ家に住んでいることは条件ではありません。

別居していても、生活費や療養費を継続的に仕送りしていれば該当し得ます。逆に、同居していても互いに完全に独立した家計であれば、該当しないという整理になります。

もう一つの柱が所得の要件です。

ここで判定するのは収入ではなく所得、つまり収入から必要経費や各種の控除を差し引いたあとの金額です。

給与なら給与所得控除を引いたあと、年金なら公的年金等控除を引いたあとの金額で見ます。

この「収入」と「所得」の取り違えが、見落としの多くを生んでいます。

扶養控除は一般38万円、19歳以上23歳未満の特定扶養親族63万円、70歳以上で別居の老人扶養親族48万円、同居老親等58万円の4段階。見落としが多いのは仕送りをしている別居の親と年金収入だけの親。
年齢と同居の有無で控除額が4段階に分かれます。

見落としが多い、4つの代表例

1. 別居している親

実家の親に毎月仕送りをしている、あるいは施設の費用を負担している——このケースは、扶養控除の対象になる可能性が十分にあります。

前述のとおり同居は要件ではないためです。親が70歳以上であれば老人扶養親族に当たり、控除額も大きくなります。

ただし、仕送りの事実が説明できることは必要です。手渡しではなく銀行振込にしておくなど、記録が残る形にしておくのが安全です。

2. 年金収入のみの親

「年金をもらっているから扶養には入れない」という思い込みも、非常によく見かけます。

年金は、受け取った額がそのまま所得になるわけではありません。

公的年金等控除を差し引いたあとの金額で判定するため、年金収入だけで暮らしている親であれば、要件に収まっているケースは珍しくありません。

目安としては、年金収入から公的年金等控除額(65歳以上の方は最低110万円、65歳未満の方は最低60万円)を引いた金額が所得要件(合計所得58万円以下)に収まるかどうかを見ます。

65歳以上で年金収入だけの親であれば、年金収入168万円以下が一つの目安です。

65歳以上か未満かで控除額が変わる点にご注意ください。

3. 大学生の子

19歳以上23歳未満の子は特定扶養親族に当たり、控除額が一段大きく設定されています。ちょうど大学生の年代です。

ここを一般の扶養親族として申告してしまうと、差額分をまるごと取りこぼすことになります。

年末調整の書類では、生年月日から自動的に区分されるとは限りません。

ご自身で区分を確認するつもりで見ていただくのが確実です。

4. 就職・アルバイトによる年収の変動

子どもがアルバイトを増やした年、あるいは年の途中で就職した年は、扶養から外れることがあります。

逆に、退職して収入がなくなった年は扶養に戻ることもあります。

「去年と同じ」で書類を出してしまうと、外すべき人を入れたまま、あるいは入れられる人を外したままになります。

注意

扶養から外すべき人を入れたままにしていると、あとから不足分の税額を追加で納めることになります

見落としは、取りこぼしの方向にも、納め足りない方向にも起こります。

年末調整の時期には、前年からの変化があった家族がいないかを必ず確認してください。

なお、同じ人を複数の親族が重ねて扶養に入れることはできません。ご兄弟で親を扶養に入れている場合は、どちらが適用するかをあらかじめ決めておく必要があります。

令和7年度税制改正——所得要件の見直しと「特定親族特別控除」

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。いわゆる「103万円の壁」の見直しとして、令和7年度の税制改正で扶養まわりの前提が変わりました。要点は3つです。

1つ目は、基礎控除の引き上げです。従来48万円だった基礎控除が、合計所得金額132万円以下の人は95万円に引き上げられました。

ただし一律の金額ではなく、その人の合計所得金額に応じて段階的に設定され、さらに年分によって適用される金額が変わる(令和7年分・令和8年分には時限的な上乗せがある)という、やや複雑な仕組みになっています。

2つ目は、給与所得控除の最低保障額の引き上げです。従来55万円だったものが65万円に引き上げられました。

基礎控除の引き上げとあわせることで、給与収入だけの人が課税されはじめるラインが上がった、というのが改正の趣旨です。

3つ目が、扶養親族等の所得要件の見直しです。

扶養控除の判定に使う所得要件が、合計所得金額48万円以下から58万円以下(給与収入のみなら103万円以下から123万円以下)に引き上げられました(令和7年分から適用)。

つまり、これまで所得要件をわずかに超えていたために扶養に入れられなかった家族が、改正後は入るようになっている可能性があります。

新設された「特定親族特別控除」

そのうえで、改正の目玉として新しく設けられたのが特定親族特別控除です。

対象は19歳以上23歳未満の、生計を一にする親族(配偶者や青色事業専従者等は除きます)で、合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入なら188万円以下)の人。

ちょうど特定扶養親族と同じ年代です。令和7年分から適用されています。

従来の扶養控除は、所得要件を1円でも超えると控除がゼロになる仕組みでした。

学生の子がアルバイトを少し増やしただけで、親の側の控除が丸ごと消えてしまう——これが働き控えを生んでいるという問題意識から、要件を超えた場合でも、超えた度合いに応じて段階的に控除が受けられる仕組みが用意されました。

仕組みのイメージ

子の合計所得が58万円以下(給与収入123万円以下)であれば、これまでどおり特定扶養親族として扶養控除(63万円)を受けます。

58万円を超えても、合計所得85万円以下(給与収入150万円以下)までは、特定親族特別控除で満額63万円の控除が受けられます。

そこから先は、合計所得123万円(給与収入188万円)まで、61万→51万→41万→31万→21万→11万→6万→3万円と9段階で控除額が小さくなっていきます。

「超えた瞬間にゼロ」ではなくなったというのが、いちばん大きな変化です。

この控除は、申告しなければ受けられません

特定親族特別控除を年末調整で適用するには、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を勤務先に提出する必要があります(令和7年12月以降に行う年末調整から)。

制度が新しいぶん、書類の存在自体を知らずに出し忘れるケースが起きやすいところです。

お子さんが大学生の年代にあたる先生は、ご自身の分もスタッフの分も、提出漏れがないか確認してください。

金額は必ず最新の資料でご確認ください

この記事の記載は2026年8月時点の制度に基づくものです。

基礎控除は年分によって適用される金額が変わる仕組みになっており、所得要件や控除額の具体的な数字は、年分によっても、その後の改正によっても動きます。

実際の申告・年末調整にあたっては、必ず国税庁の最新の資料か、顧問税理士にご確認ください。

理事長の目線で——スタッフの年末調整でも同じ見落としが起きる

ここまでは、理事長ご自身の年末調整・確定申告の話として読んでいただけたかと思います。

ただ医療法人の理事長という立場では、もう一つ視点が要ります。それは、法人が行うスタッフの年末調整です。

看護師、医療事務、受付。同じ見落としは、当然スタッフの側にも起きます。

そして年末調整を行うのは法人ですから、「案内していなかったために取りこぼした」という結果は、法人側の運用の問題にもなります。

とくに今年は改正の初年度が絡む時期で、書類の様式も変わっています。

例年どおりに配って回収するだけでは、拾いきれません。

案内しておきたいこと

これは、待遇改善でもあります

扶養控除の適用漏れを一つ拾えば、スタッフの手取りはその分増えます。

法人としてのコストはかからず、案内する手間だけで完結するという点で、医療機関の人材確保という文脈でも意味のある取り組みです。

年末調整の書類を配るときに、一枚メモを添えるだけでも違います。

忘れていた年があっても、5年はさかのぼれる

ここまで読んで、「去年の分は入れられたかもしれない」と思い当たった先生もいらっしゃるかと思います。ご安心ください。

納めすぎた税金を取り戻す還付申告は、原則としてその年の翌年1月1日から5年間、さかのぼって行えます。

たとえば別居の親を何年も扶養に入れそびれていたという場合、過去5年分をまとめて還付申告することで、相応の金額が戻ってくることもあります。

老人扶養親族のように控除額が大きい区分であれば、なおさらです。

必要になる資料

その年の源泉徴収票と、扶養の実態を説明できる資料(仕送りの振込記録、親の年金額がわかる書類など)が基本です。

年分ごとに申告書を作る必要がありますので、まとめて対応するなら早めに着手しておくのが無難です。

なお、扶養控除の適用漏れは住民税にも影響します。所得税の還付だけでなく、住民税の側でも精算されることになります。

扶養控除は、派手な節税策ではありません。

それでも、すでに満たしている要件を申告し忘れているだけという性質のものなので、拾えばそのまま手取りに反映されます。

見落としに気づいたら、まだ取り戻せます。

年末までに確認しておきたいことは、ほかにもあります。→ 理事長が年末までに確認したい、個人の節税チェックリスト

ご自身とスタッフの分、まとめて確認しませんか。

すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。

理事長ご自身の扶養控除の適用状況に加えて、法人の年末調整の運用が改正に対応した形になっているかも含めて、気づいた点をお伝えします。

過去にさかのぼれる分があるかどうかも、あわせて見させていただきます。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。