「法人にすると税金が減る」と、よく言われます。
なぜ減るのか、説明できますか。 いちばん大きい理由は、法人税率が低いことではありません。
給与所得控除という仕組みです。 これ一つで、年に数十万円から百万円単位で変わります。
この記事の結論
- 給与所得控除とは何ですか。
- 給料をもらう人に認められている、経費のかわりの控除です。領収書は要りません。収入に応じて自動的に引けます。上限は195万円で、収入850万円を超えると、そこで頭打ちになります。
- なぜ法人にすると使えるのですか。
- 個人でクリニックをやっていると、先生は事業主です。給料をもらっていないので、この控除は使えません。法人にして、法人から理事報酬をもらう形にすると、給料をもらう人になります。だから使えるようになります。
- いくら得になりますか。
- 195万円が、まるごと税金の計算から引けます。税率50%の先生なら、それだけで年約97万円。これが毎年です。
領収書のいらない経費です
給料をもらう人には、経費という考え方がありません。 スーツを買っても、本を買っても、原則として引けない。
そのかわりに「これくらいは使っているだろう」という金額を、自動的に引いてくれるのが給与所得控除です。
| もらう金額 | 引ける金額 |
|---|---|
| 220万円まで | 74万円 |
| 220万円超〜360万円 | 収入×30% + 8万円 |
| 360万円超〜660万円 | 収入×20% + 44万円 |
| 660万円超〜850万円 | 収入×10% + 110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
理事報酬が850万円を超えていれば、いくらもらっても195万円です。 領収書も、証明も要りません。自動的に引けます。
個人事業では使えません
ここが分かれ目です。
| 個人でクリニック | 医療法人 | |
|---|---|---|
| 先生の立場 | 事業主 | 法人から給料をもらう人 |
| 経費 | 実際にかかった分 | 法人の経費+給与所得控除 |
| 給与所得控除 | 使えません | 使えます |
同じ仕事をして、同じだけ稼いでいても、受け取る形が違うだけで控除が生まれる。
不思議に思われるかもしれません。 でも、これが制度です。法人化がなぜ効くのかの、いちばんの中身がここです。
医療法人は、理事報酬を法人の経費にできます。
そして受け取った先生は、その報酬から給与所得控除を引けます。
同じお金が、2回引かれる。ここが効いています。
いくら得になるのか
理事報酬を1,500万円にした場合で見ます。
| 金額 | |
|---|---|
| 理事報酬 | 1,500万円 |
| 給与所得控除(上限) | △195万円 |
| 税金の対象になる額 | 1,305万円 |
この195万円に、先生の税率をかけたものが効果です。
| 所得税+住民税の税率 | 1年あたりの効果 | 10年で |
|---|---|---|
| 33% | 約64万円 | 約640万円 |
| 43% | 約84万円 | 約840万円 |
| 50% | 約97万円 | 約975万円 |
何もしなくても、形を変えるだけで毎年これだけ変わります。 復興特別所得税は考えていない、ざっくりした目安です。
家族にも使えます
もうひとつ大きいのが、これです。
給与所得控除は、給料をもらう人ごとに使えます。 配偶者が理事として報酬を受け取れば、その方にも控除があります。
| 理事報酬 | 給与所得控除 | |
|---|---|---|
| 院長 | 1,500万円 | 195万円 |
| 配偶者 | 600万円 | 164万円 |
| 合計 | 2,100万円 | 359万円 |
院長ひとりで2,100万円を受け取ると、控除は195万円のまま。 2人に分けると359万円。しかも税率も下がります。
これが所得分散です。 ただし実際に働いていることが前提です。 税務調査で必ず聞かれますし、 金額の決め方にも決まりがあります。
ただし、これだけで決めないでください
給与所得控除は大きい。でも法人化の判断は、これだけではありません。
| 法人化で増えるもの | 年間 |
|---|---|
| 社会保険料(法人負担分が発生) | 大きいと数百万円 |
| 維持費(税理士・届出・登記) | 数十万円〜 |
| 赤字でも払う税金(均等割) | 7万円〜 |
とくに社会保険です。 医師国保を続けられるかどうかで、負担が大きく変わります。 ここを確かめずに法人化すると、税金が減っても手取りが減ることがあります。
個人のままなら使える小規模企業共済も、法人化すると使えなくなります。 事業税のように、法人化で軽くなるものもあります。 全部をならべて、手取りで比べてください。
最後に。 給与所得控除は、お金を使わずに効く、数少ない節税です。 経費を使うわけでも、商品を買うわけでもない。受け取る形を変えるだけです。
だから法人化を検討する価値がある先生は、早く計算したほうがいい。 1年遅れれば、その1年分の効果がまるごと消えます。 逆に、法人にしないほうがいい場合もあります。 そこも含めて、数字で見てください。
税金のほかに、もうひとつ大きな効果があります。→ 医療法人にすると、借りやすくなる
出典:給与所得控除額は国税庁タックスアンサー No.1410「給与所得控除」(令和8年4月1日現在法令等)。 令和8年分・令和9年分は、収入220万円まで74万円、220万円超360万円以下は収入×30%+8万円、 360万円超660万円以下は収入×20%+44万円、660万円超850万円以下は収入×10%+110万円、 850万円超は195万円(上限)。 役員給与の損金算入は法人税法第34条、不相当に高額な部分の損金不算入は同条第2項。 試算は所得税・住民税の税率からの目安で、復興特別所得税は考えていません。 いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。