法人化のメリットは、よく語られます。 維持費の話は、あまり出てきません。
医療法人は、作ったら毎年お金がかかります。 赤字でも出ていくものがあります。
ざっくり年150万円前後。 これを超える効果があるかどうかが、法人化の分かれ目です。
この記事の結論
- 毎年いくらかかりますか。
- 年130〜200万円くらいです。内訳は税理士の顧問料(年50〜100万円)、社会保険の法人負担分、赤字でも払う税金(年7万円〜)、そのほかの手続き費用。社会保険の負担がいちばん大きいことが多いです。
- 赤字でもかかりますか。
- かかります。法人住民税の均等割は、利益がゼロでも払います。福岡市の医療法人なら年7万円ほどが最低ライン。顧問料と社会保険も、当然かかります。
- それでも法人にする価値はありますか。
- 所得の大きさ次第です。給与所得控除だけで年100万円近く効く先生なら、維持費を上回ります。所得がそれほどでもないなら、しないほうがいいことも。
毎年かかるもの
| 年額の目安 | |
|---|---|
| 税理士の顧問料・決算料 | 50〜100万円 |
| 社会保険の法人負担分 | 数十万円〜数百万円 |
| 法人住民税の均等割(赤字でも) | 7万円〜 |
| 資産の総額の変更登記 | 数万円(司法書士に頼む場合) |
| 会計ソフトの利用料 | 3〜7万円 |
| 合計の目安 | 年130〜200万円+社会保険 |
この表で注意していただきたいのは、社会保険だけ桁が違うことです。 ほかは合計しても年100万円ちょっと。社会保険は、条件しだいで一気に跳ねます。
いちばん大きいのは、社会保険です
法人になると、社会保険は強制加入です。 そして保険料の半分を、法人が負担します。
| 個人でクリニック | 医療法人 | |
|---|---|---|
| 院長の健康保険 | 医師国保など | 医師国保を続けられる場合あり |
| 院長の年金 | 国民年金 | 厚生年金。法人が半分負担 |
| スタッフ | 常時5人以上で加入義務 | 人数に関係なく加入 |
厚生年金の法人負担が、いちばん重い。 理事報酬が高いほど増えます。
ただし医師国保・歯科医師国保は、法人化後も続けられる場合があります。 手続きが要ります。ここを知らずに協会けんぽに入ると、負担が大きく変わります。 法人化の前に、必ず確認してください。
厚生年金は、払った分だけ将来の年金が増えます。
国民年金だけの場合より、受け取る額は多くなります。
だから純粋なコストではなく、半分は積み立てという見方もできます。
ただし手元のお金は、いま出ていきます。
赤字でも払う税金があります
個人事業なら、赤字の年は所得税も住民税もゼロです。
法人は違います。利益がゼロでも、法人住民税の均等割がかかります。
| 赤字の年 | |
|---|---|
| 法人税 | 0円 |
| 法人事業税 | 0円 |
| 法人住民税の均等割 | 年7万円〜(規模により増えます) |
金額としては小さい。でも「赤字でも出ていく」ということ自体を知っておいてください。
一方で、法人の赤字は10年繰り越せます。個人事業は3年です。 ここは法人が有利なところです。
お金以外のコストもあります
| 手間 | 期限 | |
|---|---|---|
| ① | 事業報告書等・監事の監査報告書を都道府県へ届け出る | 会計年度終了後3か月以内 |
| ② | 資産の総額の変更登記 | 事業年度の末日から3か月以内 |
| ③ | 社員総会・理事会の開催と議事録 | その都度 |
| ④ | 理事・監事の改選(任期は原則2年) | 任期ごと |
| ⑤ | 理事報酬を決める(毎月同じ額で1年固定) | 決算後3か月以内 |
①と②は、税務署とは関係ありません。医療法人だけの手続きです。 顧問契約の範囲に入っているかを確かめてください。 入っていないと、自分でやるか、別料金になります。
⑤も自由が減るところです。 お金の出し入れが、個人事業のように自由にはできなくなります。 法人のお金と院長のお金は、完全に別になります。
作るときの費用
| 目安 | |
|---|---|
| 設立の手続き(行政書士・税理士) | 数十万円〜100万円程度 |
| 設立の登記(司法書士) | 数万円〜 |
| 個人から法人への資産の移転 | 資産の内容による |
| 各種の届出・変更手続き | 保健所・厚生局・銀行・リース会社など |
それと、時間もかかります。 医療法人の設立は、都道府県の認可が要ります。 申請の時期が年に数回に決まっている地域が多く、思い立ってすぐ、とはいきません。
福岡県なら、認可の申請から設立まで半年程度を見ておく必要があります。
それでも見合うかどうか
維持費を年150万円として、それを超える効果があるかどうかです。
| 法人化で減るもの | 年間の目安 |
|---|---|
| 給与所得控除 | 所得が高いと 60〜100万円 |
| 家族への所得分散 | 実際に働いていれば 数十万円〜 |
| 個人事業税がなくなる | 自費が多い医院で 数十万円 |
| 退職金が使えるようになる | 出口で大きく効きます |
| 赤字の繰越が3年→10年 | 年によって |
所得が大きいほど、効果は維持費を大きく上回ります。 逆に、所得がそれほどでもないうちは、維持費のほうが重くなります。
よく「所得1,500万円が目安」と言われますが、医院によって答えは違います。 自費の割合、家族が働いているか、医師国保を続けられるか。ここで大きく変わります。
最後に。 維持費を理由に法人化をためらう必要はありません。 効果が上回るなら、払う価値のあるコストです。
ただし「知らなかった」で始めるのは、よくない。 毎年150万円前後が出ていくこと、手続きが増えること、お金の出し入れが不自由になること。 これを分かったうえで決めてください。 医療法人にしないほうがいい人もあわせてご覧ください。
出典:法人住民税の均等割は地方税法第52条・第312条および各自治体の条例により、 資本金等の額と従業者数の区分に応じて課される(赤字でも課税)。 医療法人は健康保険法第3条第3項および厚生年金保険法第6条により強制適用事業所となる。 欠損金の繰越控除は法人税法第57条(10年)、個人の純損失の繰越しは所得税法第70条(3年)。 事業報告書等の届出は医療法第52条第1項、資産の総額の変更登記は組合等登記令第3条第3項。 役員の任期は医療法第46条の5第9項(2年を超えることはできない)。 医療法人の設立認可は医療法第44条。 金額はいずれも目安であり、医院の規模・所在地・報酬額により変わります。 いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。