個人でクリニックをやっていると、8月に県から封筒が届きます。 個人事業税の納税通知書です。

金額を見て「こんなに?」と思った先生も、「0円だった」という先生もいるはずです。 この差は、自費診療がどれくらいあるかで決まります。

医師と歯科医師には、ほかの商売にはない大きな優遇があります。 保険診療で稼いだ分には、事業税がかからないのです。

この記事の結論

事業税とは何ですか。
都道府県に払う税金です。個人でお店や事業をやっている人にかかります。医業・歯科医業の税率は5%です。所得税や住民税とは別に、これがかかります。
保険診療にもかかりますか。
かかりません。社会保険診療で受け取った分の利益は、事業税の対象から外されています。だから保険診療だけの医院なら、事業税は0円です。
では、誰が払うのですか。
自費診療の多い医院です。美容、審美、矯正、インプラント、自由診療の内科。自費の割合が高いほど、事業税は重くなります。自費が中心の医院だと、年間で数十万円になることもあります。

保険診療には、事業税がかかりません

まず、いちばん大事なところから。

社会保険診療で受け取ったお金にかかる利益は、事業税の対象になりません。 医師、歯科医師、薬剤師、あん摩・マッサージ・はり・きゅう・柔道整復。 これらの方だけに認められている扱いです。

国民に医療を届けるという公共性があるから、というのが理由です。 飲食店にも、美容室にも、こんな扱いはありません。

つまり、こういうことです

保険診療だけでやっている医院は、どれだけ利益が出ても事業税は0円
自費が増えるほど、その分だけ事業税が出てくる。

「うちは今まで0円だったのに、今年から来るようになった」という場合、 たいてい自費が伸びています。矯正を始めた、自費のホワイトニングを増やした、 健診や予防接種が増えた——そういうときです。

計算のしかたは、3ステップです

 やること
1年の利益のうち、自費の分がいくらかを出す
そこから290万円を引く(事業主控除といいます)
残った金額に5%をかける

①の「自費の分」は、ふつう収入の割合で分けます。 収入全体のうち自費が2割なら、利益の2割が事業税の対象、という考え方です。

②の290万円は、誰でも引ける金額です。 だから自費の分の利益が290万円以下なら、事業税は0円になります。

税率が3%になる方もいます

あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復を営む方は、3%です。 医業・歯科医業は5%です。

自費の割合で、これだけ変わります

同じ「収入8,000万円の医院」で比べてみます。

 Aさん(保険中心)Bさん(自費中心)
収入の内訳保険7,000万/自費1,000万保険3,000万/自費5,000万
1年の利益2,000万円2,500万円
自費の割合12.5%62.5%
事業税の対象250万円1,562万円
290万円を引くと0円(マイナスなので)1,272万円
事業税0円約63万円

Aさんは利益が2,000万円あるのに、事業税は0円です。 Bさんは約63万円。この差が、毎年続きます。

ここで申し上げたいのは「自費を減らしましょう」ということではありません。 自費を伸ばすと、見えないところで税金が増える。 それを知ったうえで値段を決めてください、という話です。

青色申告の65万円は、ここでは引けません

ここ、間違えやすいところです。

青色申告をしていると、所得税では65万円を引いてもらえます。 ところが事業税の計算では、この65万円は引けません。

つまり事業税は、65万円を引く前の利益から計算します。 所得税の申告書に出ている数字と、事業税の対象になる数字はずれます。 「確定申告書と金額が合わない」と驚かれるのは、たいていこれが原因です。

一方で、専従者の給与や、前の年の赤字の繰越しは、事業税でも引けます。

払うのは8月と11月。払った分は経費になります

事業税は年2回、8月と11月に払います。 自分で申告する必要は、基本的にありません。 確定申告の内容をもとに、県から納税通知書が届きます。

ただし福岡県では、医業・歯科医業の先生に事業報告書の提出を求めています。 保険診療と自費を分けるために必要な書類です。忘れずに出してください。

払った事業税は、経費になります

所得税や住民税は、払っても経費になりません。 でも事業税は経費になります。 ここを落としている申告を、けっこう見かけます。 8月と11月に払った分は、その年の経費に入れてください。

やめた翌年にも、請求は来ます

診療所を閉じても、事業税は終わりません。 やめた年の分が、翌年の8月と11月に来ます。

閉院した年は収入がありませんから、ここで資金繰りが苦しくなることがあります。

対策はあります。廃業する年の申告で、あとから来る事業税を見込みで経費に入れることが認められています。 閉院や法人化を考えている先生は、この処理を忘れないでください。

法人にすると、この5%はなくなります

個人事業税は、その名のとおり個人にかかる税金です。 医療法人にすると、なくなります。

代わりに法人の事業税がかかりますが、こちらにも同じ優遇があります。 社会保険診療の分は、法人でも対象外です。 しかも医療法人の税率は、利益400万円以下なら3.5%、それを超える部分でも4.9%。 個人の5%より低く抑えられています。

法人化を考える、ひとつの目安

自費が多くて事業税が毎年数十万円出ている医院は、 それだけで法人化を検討する理由になります。 法人化の損得は所得税と社会保険で語られがちですが、 この5%も、地味に効いてきます。

もっとも、事業税だけで決めるものではありません。 医療法人にしないほうがいい人もいますし、 法人にすると小規模企業共済のように使えなくなる制度もあります。 全部をならべて比べてください。

最後に、いつもの話を。 事業税を減らしたいから自費をやめる、というのは本末転倒です。 自費は医院の柱になりますし、患者さんのためになる治療も多い。 税金は、増えたら増えたで払えばいい。 大事なのはいくら出るかを先に知っておくことです。 8月に驚かないために、この記事があります。

出典:福岡県「個人の事業税」(法定業種と税率、事業主控除290万円、青色申告特別控除の不適用、 社会保険診療報酬に係る所得の非課税、納期8月・11月、医業・歯科医業の事業報告書)。 法人の税率は福岡県「法人の事業税」の特別法人の所得割(年400万円以下3.5%/年400万円超4.9%、 軽減税率適用法人の場合)。法人の社会保険診療の取扱いは地方税法第72条の23第2項。 廃業後の事業税を見込みで必要経費にできる取扱いは所得税法第63条。 試算は収入の割合で按分した場合の目安で、実際の計算は県の様式によります。いずれも2026年9月時点。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。