法人の口座から、院長個人の口座にお金を移す。 あるいは、個人の買い物を法人のカードで払う。
「どうせ自分の医院だから」——この感覚が、いちばん危ない。
帳簿では役員貸付金として残ります。 そしてこれが残っていると、銀行は融資を渋ります。 税務調査でも見られます。地味ですが、効いてくる地雷です。
この記事の結論
- 役員貸付金とは何ですか。
- 法人が院長にお金を貸している、という状態です。生活費を引き出した、個人の買い物を法人で払った、使途のはっきりしない出金があった。説明のつかないお金の出は、全部これになります。
- 何が問題ですか。
- 3つあります。①銀行がいちばん嫌う ②利息を取らないと課税される ③相続のとき、財産として課税される。放っておくと消えません。ふくらむだけです。
- どうすればいいですか。
- まず増やさないこと。そのうえで、理事報酬から少しずつ返す、退職金と相殺する、といった方法で減らします。何年もかけて減らすものです。
どうやってできるのか
| よくある原因 |
|---|
| 生活費が足りず、法人の口座から引き出した |
| 個人の買い物を、法人のカードで払った |
| 使途の説明がつかない出金が、経費にできなかった |
| 家族の生活費を、法人から出した |
| 理事報酬を低く設定しすぎて、足りない分を引き出している |
最後がいちばん多い。 節税のつもりで理事報酬を低くして、足りない分を法人から引き出す。 これでは意味がありません。税金が減ったぶん、貸付金が積み上がるだけです。
個人でクリニックをやっている間は、事業のお金と生活のお金は最終的に同じ財布です。
引き出しても「事業主貸」になるだけで、あとに残りません。
法人にすると、これが完全に分かれます。ここの切り替えができていない医院が多いのです。
銀行がいちばん嫌う勘定科目です
決算書に役員貸付金があると、銀行の見方が変わります。
| 銀行がどう見るか | |
|---|---|
| ① | 公私混同している。お金の管理ができていない |
| ② | 返ってこない資産。実質的に、その分だけ財産が少ない |
| ③ | 貸したお金が、院長の生活費に消えるかもしれない |
②が大きい。銀行は決算書を見るとき、役員貸付金を資産から引いて評価します。 1,000万円の貸付金があれば、財産が1,000万円少ないものとして見られます。
場合によっては債務超過と判定されることもあります。 債務超過になると、新規の借入はほぼ止まります。
そして理事長の個人保証を外すときの条件にも、 「法人と経営者のお金が区分・分離されていること」が入っています。 貸付金があると、ここで引っかかります。
利息を取らないと、課税されます
法人が院長にお金を貸している以上、利息を取るのが原則です。
無利息や、著しく低い利率で貸していると、 本来受け取るべきだった利息の分が、院長への給与とみなされます。 その分の所得税がかかります。
法人が金融機関から借りたお金をそのまま貸しているなら、その借入の利率。
それ以外の場合は、国が毎年決めている利率を使います。
つまり利息を取っていれば、それ以上の問題にはなりません。まず利息の設定を確かめてください。
なお、利息を取れば法人に収益が立ちます。 法人税がかかります。つまり貸付金を放置していると、 お金は動いていないのに、法人でも個人でも税金が出るという状態になります。
相続のときにも、財産になります
これを見落とす方が多い。
院長が亡くなったとき、役員貸付金は「法人が持っている債権」です。 そして院長側から見れば「法人に返す義務」です。
相続人は、この返済義務を引き継ぎます。 法人に返さなければなりません。
しかも持分のある医療法人だと、 この債権は法人の財産なので、持分の評価額を押し上げます。 返す義務を負いながら、その債権の分の相続税も払う——という形になります。
減らし方は4つ
| 方法 | 注意 | |
|---|---|---|
| ① | 理事報酬を上げて、増えた分で返す | いちばん素直。ただし税金と社会保険料が増えます |
| ② | 退職金と相殺する | やめるときに一気に消せます。原資が要ります |
| ③ | 院長個人の資産を法人に売る | 相場の価格で。不動産なら要検討 |
| ④ | 法人が債権を放棄する | 放棄した額が院長の所得になります。最終手段 |
現実には①と②の組み合わせが多いです。 毎年少しずつ返して、最後に退職金で消す。
④は、一見すると楽に見えますが、放棄された額に所得税がかかります。 しかも金額が大きいと、税負担も大きい。安易に使えるものではありません。
そもそも、財布を分けること
減らす話より、作らない話のほうが大事です。
| やること | |
|---|---|
| ① | 理事報酬を、生活に足りる額にする。低くしすぎない |
| ② | 法人のカードで、個人の買い物をしない。カードを分ける |
| ③ | 法人の口座から現金を引き出さない |
| ④ | 使途の分からない出金を、月末に必ず消し込む |
| ⑤ | 個人の資金が足りないときは、借りたことを明確にして、返す |
①がいちばん効きます。 理事報酬を下げすぎると、必ず引き出すことになります。 理事報酬は、生活費から逆算して決めてください。
②も簡単で効果的です。カードを物理的に分けるだけで、混ざらなくなります。
最後に。 役員貸付金は、1年では作れないし、1年では消せません。 毎年少しずつ積み上がって、気づいたら数千万円になっている。
そしてお金を借りたいときに、いちばん邪魔をします。 決算書を一度見てください。役員貸付金という科目がありませんか。 あるなら、今期から増やさないところから始めてください。
出典:役員に対する金銭の貸付けに係る利息の取扱いは、所得税基本通達36-49および 国税庁タックスアンサー No.2606「金銭を低い利息で貸し付けたとき」 (会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、その他の場合は国税庁が定める 平均調達金利などの合理的な利率による)。 債務免除益が給与等となる取扱いは所得税法第28条および同法基本通達。 経営者保証に関するガイドライン(平成25年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会)の 3要件のひとつに「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」がある。 持分の評価は財産評価基本通達による。 個別の判断は事情によって異なります。いずれも2026年9月時点。
決算書に「役員貸付金」はありませんか。
あるなら、いくら残っていて、何年で消せるかの計画を一緒に作ります。 理事報酬の見直しと、退職金の設計をセットで考えるのが現実的です。 融資を受ける予定があるなら、その前に手をつけたほうがいい項目です。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。