医院で借入をすると、ほぼ必ず理事長が個人保証をします。
「法人の借入だから、個人には関係ない」——法律上はそうです。 でも保証をすれば、法人が返せなくなったとき、先生の個人資産で返すことになります。
この保証、外せます。条件はありますが、国が方針を示していて、銀行もそれに沿って動いています。
この記事の結論
- 本当に外せるのですか。
- 外せます。「経営者保証に関するガイドライン」という共通のルールがあります。法律ではありませんが、金融機関が自発的に守るものとされていて、実際に外れている例はたくさんあります。
- 条件は何ですか。
- 3つです。①法人と院長のお金がきちんと分かれている ②法人だけの資産や収益力で返せる ③銀行にきちんと数字を出している。①でつまずく医院が、いちばん多い。
- どう切り出せばいいですか。
- 借換えや、新しく借りるときが切り出しどきです。何もないときに「外してください」と言っても動きません。「ガイドラインに沿って、保証なしで検討いただけますか」と聞いてください。
個人保証とは、何を引き受けているのか
法人が借りたお金を、法人が返せなくなったら、先生が代わりに返すという約束です。
| 起きること | |
|---|---|
| 法人が返済できる間 | 何も起きません。存在を忘れているくらいです |
| 法人が返せなくなったとき | 先生の預金・自宅・個人資産が返済に充てられます |
| 法人をたたんでも | 保証は残ります。個人として返し続けます |
「法人にすればリスクが切り離せる」というのは、保証がなければの話です。 保証をしている以上、法人と院長は運命共同体になります。
そして理事長を退いても、保証は自動では外れません。 ここを知らずに引退される方がいます。
外すための3つの条件
ガイドラインには、保証を求めない可能性を検討する条件として、次の3つが挙げられています。
| 条件 | 言い換えると | |
|---|---|---|
| ① | 法人と経営者との関係の明確な区分・分離 | 法人のお金と院長のお金が、混ざっていない |
| ② | 財務基盤の強化 | 法人だけの資産と稼ぐ力で、返せる |
| ③ | 財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示 | 銀行に、数字をきちんと出している |
3つそろわないと外れない、というものではありません。 どれだけ近づけているかで、銀行が判断します。
① お金が分かれていること
ここでつまずく医院が、いちばん多い。
| 引っかかるもの | どうするか |
|---|---|
| 役員貸付金がある | 減らす。これが最大の障害です |
| 法人のカードで、個人の買い物をしている | カードを分ける |
| 院長の自宅が、法人名義になっている | 賃貸借の契約と相場の家賃を整える |
| 医院の土地・建物が院長個人のもので、契約書がない | 賃貸借契約を作る |
役員貸付金があると、銀行は「法人のお金が個人に流れている」と見ます。 これがある状態で「保証を外してください」と言っても、通りません。
逆に言えば、役員貸付金を減らすことが、保証を外す第一歩です。 減らし方は役員貸付金という地雷に書きました。
これ自体は問題ありません。ただし契約書があって、相場の家賃をやりとりしていることが必要です。
無償で貸している、契約書がない、金額が相場から離れている。
これだと「区分・分離されていない」と見られます。
②③ 返せること、数字を出していること
②は法人の力だけで返せるかです。
| 見られるところ |
|---|
| 純資産がプラスか(債務超過でない) |
| 「税引後の利益+減価償却費」が、年間の返済額を上回っているか |
| 現預金が、一定程度あるか |
銀行が決算書のどこを見ているかと同じ話です。 決算書を良くすることが、そのまま保証を外す道になります。
③は、意外と簡単に効きます。
| やること | |
|---|---|
| ① | 決算書を、聞かれる前に持っていく |
| ② | 月次の試算表を、定期的に渡す(半年に1回でも) |
| ③ | 悪い数字も、隠さずに説明する |
| ④ | 設備投資や採用の予定を、事前に伝える |
③がいちばん効きます。 悪いときに何も言わず、良いときだけ顔を出す。これでは信用されません。 「今期は患者数が落ちています。理由はこうで、こう手を打っています」 これが言える医院は、強い。
いつ、どう切り出すか
| タイミング | 切り出しやすさ |
|---|---|
| 新しく借りるとき | いちばん切り出しやすい |
| 借換えのとき | 同じく。条件を組み直す場面です |
| 理事長を交代するとき | 後継者に引き継がせるか、外すかを決める場面 |
| 何もないとき | 動きにくい。ただし「次は外したい」と伝えておく価値はあります |
言い方は、シンプルでかまいません。
「経営者保証に関するガイドラインに沿って、保証なしでご検討いただけますか」
これだけで、銀行は分かります。 断られたときは、「どの条件が足りないか教えてください」と聞いてください。 ここが本番です。足りないところが分かれば、そこを直せば次は通ります。
保証をつけない代わりに、金利や信用保証協会の保証料が上がることがあります。
国の制度でも、保証を外すかわりに保証料を上乗せする形のものがあります。
どちらが得かは、金額を出して比べてください。
年0.2%の上乗せで、自宅を守れるなら安い、という判断もあります。
承継のときは、特に大事です
いちばん問題になるのが、理事長を交代するときです。
| よくある形 | 問題 |
|---|---|
| 前の理事長の保証が、そのまま残っている | 引退しても責任が続きます |
| 新旧の理事長が、二重に保証している | 前の理事長の負担が消えていません |
| 後継者が保証を嫌がって、承継が進まない | これで話が止まることがあります |
ガイドラインには、事業を承継するときの特則もあります。 新旧の理事長から二重に保証を取ることは、原則として求めない。 そして前の理事長の保証は、解除を検討する——という考え方が示されています。
交代の前に、銀行と話してください。 交代してからでは、動きにくくなります。 医療法人の出口もあわせてご覧ください。
最後に。 個人保証を外すことは、決算書を良くすることと、ほぼ同じ作業です。
役員貸付金を減らす。利益を出す。数字を出す。 これをやっていれば、保証は自然に外れる方向に向かいます。 借りやすくもなります。一石二鳥どころではありません。 まず決算書を開いて、役員貸付金があるかどうかを見てください。そこからです。
自分の医院ではなく、知り合いの会社の保証を頼まれたときは、話がまったく違います。→ 知り合いの会社の役員になるとき
出典:経営者保証に関するガイドライン(平成25年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会。 日本商工会議所と全国銀行協会が事務局)。 経営者保証を求めない可能性を検討する要件として、法人と経営者との関係の明確な区分・分離、 財務基盤の強化、財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示が示されている。 法的な拘束力はないが、関係者が自発的に尊重し遵守することが期待されるものとされる。 事業承継時の取扱いは「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」 (令和元年12月)。 経営者保証改革プログラム(令和4年12月23日公表、金融庁・経済産業省・財務省)。 保証の有無や条件は金融機関の判断によります。いずれも2026年9月時点。
保証を外せる状態か、決算書で確かめます。
直近3期の決算書があれば、3つの条件のどこが足りないかが分かります。 役員貸付金があるなら、何年で消せるかの計画も一緒に作ります。 借換えや新規の借入の前が、いちばん動かしやすいタイミングです。その前にご相談ください。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。