「先生、うちの会社の役員に名前を貸してもらえませんか」

患者さん、同級生、知り合いの経営者。医師は、こういう話を持ちかけられやすい。 社会的な信用があるからです。

断ってください。 理由を書きます。名前を貸すだけ、では済みません。

この記事の結論

名前だけなら大丈夫では。
だめです。登記された役員には、法律上の責任がついてきます。「名前だけのつもりだった」は通りません。会社が誰かに損害を与えたとき、役員として責任を問われることがあります。
いちばん怖いのは何ですか。
個人保証です。役員になると、借入の保証人を求められることがあります。会社が返せなくなったら、先生の自宅と預金で返すことになります。
どう断ればいいですか。
「顧問税理士に止められている」で十分です。角も立ちません。実際、そのとおりです。本当に応援したいなら、役員ではなく、出資か寄附で、失っていい金額だけにしてください。

なぜ医師が狙われるのか

 理由
社会的な信用がある。役員名簿に医師の名前があると、見栄えがします
資産がある。保証人として、銀行が納得します
忙しくて、細かく見る時間がない
お金の話に、慣れていないことが多い
人に頼まれると、断りにくい

②が本音です。相手が本当にほしいのは、名前ではなく「保証人としての先生」であることがあります。

悪意がない人も多い。本当に「箔をつけたい」だけのこともあります。 それでも、リスクは同じです。

役員になると、何を背負うのか

 責任
会社に対する責任。任務を怠って会社に損害を与えたら、賠償する義務があります
第三者に対する責任。悪意や重大な過失があれば、取引先などへの責任も
ほかの役員を監視する義務。「知らなかった」が免責になるとは限りません
会社が税金を滞納したとき、責任を問われる場合があります

③が怖い。「経営に関与していなかった」は、必ずしも言い訳になりません。 役員である以上、ほかの役員の行動を見ている義務がある、という考え方があります。

登記されていれば、外から見れば役員です。 「名ばかりだった」という内部の事情は、相手には関係ありません。

いちばん怖いのは、個人保証

現実に、いちばん大きな被害が出るのがここです。

流れ
役員になる
会社が銀行から借りる。役員として保証を求められる
「形式的なものですから」と言われて、判を押す
会社が返せなくなる
先生の預金・自宅が、返済に充てられます

③がすべてです。「形式的」な保証はありません。 判を押した瞬間から、先生の個人資産がその会社の借金とつながります。

そして役員を辞めても、保証は自動では外れません。 銀行と交渉して外してもらう必要があります。 自分の医院の個人保証ですら外すのが大変なのに、 他人の会社なら、なおさらです。

医療法人の理事長としての問題もあります

税務や法律の責任だけではありません。

 起きうること
先生の信用情報に影響します。その会社が事故を起こすと、医院の借入にも響きます
銀行が嫌がります。「よその会社の保証をしている理事長」は、評価が下がります
報酬をもらうと、医院の仕事との関係を整理する必要が出ます
医療法人の役員と兼ねる場合、取引の内容によっては制限や報告の対象になることがあります

②が現実的に痛い。 医院が借りるときに、先生の保証債務も見られます。 他社の保証が数千万円あれば、それだけで借りられる額が減ります。

④は、その会社が医院と取引する場合です。 医療法人の役員と取引先の役員を兼ねると、制限や報告が関係することがあります。 「知り合いの会社に、医院の仕事を発注する」という形になるなら、事前に確認してください。

断り方

角を立てずに断る言い方を、いくつか書いておきます。

言い方
「顧問税理士に、他社の役員は受けないよう言われていまして」
「医療法人の理事長なので、ほかの法人の役員になると銀行の評価に響くんです」
「保証人はどなたにもお受けしないと決めています」
「妻に反対されまして」

いちばん上を使ってください。第三者のせいにするのが、いちばん角が立ちません。 そして実際、それは嘘ではありません。

それで気を悪くする相手なら、そもそも関わらないほうがいいと思います。

それでも関わりたいなら

本当に応援したい相手なら、役員以外の形にしてください。

 リスク
出資する(株主になる)出したお金が消えるだけ。それ以上は負いません
個人的に貸す返ってこない可能性があります。契約書を作ってください
患者さん・知人を紹介するお金は出ません
役員になる/保証人になる負担に上限がありません

①と④の差は、決定的です。

出資なら、失うのは出した金額まで。 保証なら、会社の借金の全部です。上限がありません。

応援するなら、失っていい金額を出資する。これに尽きます。 そしてその金額は、なくなったものとして忘れてください。

最後に。 医師は、この手の話を一生のうちに何度も持ちかけられます。 投資の話、共同事業の話、役員の話。

他人任せの事業に、上限のないリスクを取らないでください。 自分で中身を見られない事業なら、なおさらです。 先生が稼ぐ場所は、医院です。そこに集中したほうが、確実です。

出典:役員の会社に対する損害賠償責任は会社法第423条、第三者に対する責任は同法第429条 (悪意または重大な過失があったとき)。 取締役の監視義務は判例により認められています。 保証人の責任は民法第446条以下。保証は、主たる債務者が弁済しない場合に履行する義務を負います。 役員を退任しても、締結済みの保証契約は当然には終了しません。 滞納処分に係る第二次納税義務は国税徴収法第32条以下(要件に該当する場合)。 医療法人と関係事業者との取引に関する報告は医療法第51条・第52条。 個別の責任の有無は事実関係により判断されます。いずれも2026年9月時点。

頼まれて困っているなら、断る材料をお出しします。

「顧問税理士に止められている」——これを使っていただいてかまいません。 その会社の決算書を見せてもらえるなら、どれくらい危ないかもお伝えできます。 すでに役員や保証人になっている場合は、外す方法を一緒に考えます。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。