「法人にすると税率はどれくらいですか」——法人化を検討している先生から、いちばんよく受ける質問です。

ところが、この質問に一言で答えるのは意外と難しいところがあります。

同じ利益でも、一般の会社と医療法人とでは、負担する税額が違ってくるからです。

理由は事業税にあります。社会保険診療報酬に対応する部分の所得には、事業税がかかりません。

この一点で、医療法人の税負担は一般の会社より軽くなります。

そして裏を返せば、自費(自由診療)の割合が高い医院ほど、その差は縮んでいきます。この記事では、その構造を数字で整理します。

この記事の結論

医療法人の法人税等の税率は、どれくらいですか。
自費割合が20%以下の医療法人であれば、所得800万円以下の部分がおよそ20%、800万円を超える部分がおよそ30%という水準が目安になります。

法人税・地方法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率の概算です。
一般の会社と、どれくらい違いますか。
一般の中小企業はおよそ25%/37%が目安ですので、利益1,000万円で年54万円、3,000万円で年194万円ほど医療法人のほうが軽い計算になります。

差の原因は社会保険診療報酬に係る所得の事業税が非課税であることです。
800万円を超えると、全体に高い税率がかかるのですか。
いいえ。800万円を超えた部分にだけ高い税率がかかります。所得税の累進と同じ考え方で、利益が801万円になった途端に全体の税率が上がるわけではありません。

同じ1,000万円の利益でも、税額が違う

まず、いちばん端的な形でお見せします。利益(所得)1,000万円の法人が2つあるとします。片方は一般の中小企業、もう片方は自費割合が低めの医療法人です。

利益1,000万円のとき一般の中小企業医療法人
法人税等(概算) 274万円 220万円
平均的な負担率 約27.4% 約22.0%
差額 医療法人のほうが年約54万円軽い

売上の中身も、経費の使い方も、役員報酬の額も同じ。それでも税額が54万円違います。医療法人が特別に優遇された節税策を使っているわけではありません。税率の構造そのものが違うのです。

この記事で使う税率について

以下、医療法人は所得800万円以下の部分に20%、800万円を超える部分に30%、一般の中小企業は同じく25%/37%という概算で計算しています。

これは法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税(特別法人事業税を含みます)を合わせた実効税率のおおよその水準で、自費割合が20%以下の医療法人を前提としたものです。

実際の税率は、所得の水準、法人の所在地(自治体の超過課税の有無)、適用年度、そして自費割合によって変わります。

先生の法人の実際の数字は、個別の要件確認が必要です。

800万円という線で、税率が変わる

法人の税率には、所得800万円という境目があります。この線を挟んで、適用される税率が変わります。

所得の部分一般の中小企業医療法人(自費割合20%以下)
800万円以下の部分 約25% 20%
800万円を超える部分 約37% 30%

ここで、非常によくある誤解を先に外しておきます。「利益が800万円を超えると、利益の全体に高いほうの税率がかかる」というのは誤りです。

つまり、こういうことです

高い税率がかかるのは、800万円を超えた部分だけです。所得税の累進課税とまったく同じ考え方だと思ってください。

たとえば利益が1,000万円なら、800万円までの部分は20%、残りの200万円だけが30%

800万円×20%+200万円×30%=220万円という計算になります。

利益が799万円から801万円になった瞬間に税額が跳ね上がる、ということは起きません。

この誤解は、決算前の判断を歪めます。

「800万円を超えそうだから、何としてでも経費を作って800万円以下に抑えたい」——そう考えて、必要のない支出を決算月に慌てて行う。

よくある光景ですが、800万円を1円超えたところで、その1円に30%がかかるだけです。

慌てて100万円の買い物をすれば、減る税金は30万円で、出ていくお金は100万円。手元のお金は70万円減ります。

医療法人の実効税率は、所得800万円以下の部分が約20%、800万円を超える部分が約30%。一般の中小企業の約25%・約37%より低いのは、社会保険診療報酬に対応する部分の事業税が非課税のため。利益1,000万円で54万円、2,000万円で124万円、3,000万円で194万円の差になる。自費割合20%以下を前提とした概算。
800万円を超えた部分にだけ、高い税率がかかります。数字は自費割合20%以下を前提とした概算です。

なぜ医療法人は税率が低いのか——事業税の非課税

では、なぜ医療法人のほうが税率が低いのか。答えは事業税です。

法人が利益に対して負担する税金は、ひとつではありません。

法人税(国税)・地方法人税(国税)・法人住民税(地方税)・法人事業税(地方税)という複数の税金の合計です。

これらを足し合わせて、利益に対して何%の負担になるかを表したものが「実効税率」です。

このうち法人事業税について、社会保険診療報酬に係る所得は非課税とされています。

健康保険や後期高齢者医療などの保険診療から生じる収入に対応する部分の所得には、事業税がかからないということです。

ここが医療法人だけの構造です

一般の会社は、利益の全部に対して事業税がかかります。

医療法人は、社会保険診療報酬に対応する部分の所得について、事業税の負担がありません。実効税率の差は、ほぼこの分です。

これは節税策でもテクニックでもなく、制度としてもともとそうなっているもので、届出や申請で有利にできる類のものではありません。


なお、この非課税の扱いは事業税だけの話です。

法人税・地方法人税・法人住民税は、保険診療から生じた所得にも通常どおりかかります。

「医療法人は税金が安い」という言い方が独り歩きしがちですが、軽くなるのは事業税の部分に限られます。

同じ理屈は、個人開業の先生にも当てはまります。

個人事業税でも社会保険診療の部分は非課税で、医療法人化シミュレーションでも自由診療の割合だけを個人事業税の課税対象として計算しています。

法人になっても個人のままでも、「保険診療の部分には事業税がかからない」という原則は共通です。

自費の割合が上がると、税率も上がる

ここまでの話を裏返すと、次のことが分かります。事業税が非課税になるのは、あくまで社会保険診療報酬に対応する部分だけ。

ということは、自費(自由診療)の割合が高くなるほど、事業税がかかる部分が増え、医療法人の実効税率は一般の会社に近づいていきます。

具体的には、美容医療、矯正歯科、インプラント、自由診療のワクチンや点滴、企業健診や人間ドックといった収入です。

こうした自費の比率が高い医院ほど、この記事で挙げた20%/30%という水準からは離れ、一般の中小企業の25%/37%のほうに寄っていきます。

この記事の税率は自費割合20%以下を前提とした概算だと申し上げているのは、そういう意味です。

これは「自費を増やさないほうがいい」という話ではありません

誤解のないように書いておきます。税率が上がることを理由に自費を抑える、というのは順序が逆です。

自費診療は保険診療に比べて利益率が高いことが多く、税率が数%上がっても、税引後に残るお金は増えるのが通常です。

税率だけを見て診療の中身を決めると、判断を誤ります。


意味があるのは、自費の割合が上がってきたら、法人の実効税率も上がっている前提で資金繰りと納税予測を組み直すことです。

「去年と同じ感覚で納税資金を用意していたら足りなかった」というのは、自費比率が伸びた年に起きやすい事故です。

具体例で試算——利益1,000万円・2,000万円・3,000万円

利益の水準ごとに、医療法人(20%/30%)と一般の中小企業(25%/37%)を並べます。いずれも概算で、実際の税額は個別の事情によって変わります。

年間の利益(所得)医療法人(概算)一般の中小企業(概算)差額
1,000万円 220万円
(平均22.0%)
約274万円
(平均27.4%)
54万円
2,000万円 520万円
(平均26.0%)
約644万円
(平均32.2%)
124万円
3,000万円 820万円
(平均27.3%)
約1,014万円
(平均33.8%)
194万円

計算の中身を、1,000万円のケースで開いておきます。

医療法人なら800万円×20%=160万円200万円×30%=60万円で、合わせて220万円

一般の中小企業なら800万円×25%=200万円200万円×37%=74万円で、合わせて274万円。差は54万円です。

表を眺めると、もうひとつ分かることがあります。利益が大きくなるほど、平均の負担率は上がっていきます。医療法人でも22.0%→26.0%→27.3%と動いています。

800万円以下に適用される低い税率の効きが、利益全体の中で薄まっていくからです。

利益が増えても税率は変わらない、という前提で長期の資金計画を立てると、後半で足りなくなります。

このサイトのシミュレーターとの関係

当サイトの医療法人化シミュレーションも、この記事と同じ2段階の税率(800万円以下20%/超30%)で計算しています。

数字を動かして試したい場合は、そちらでご自身の医業収入と経費を入れてみてください。


画面の「詳細な前提」を開くと、この2つの税率を直接書き換えられます。

自費の割合が高い医院では、800万円を超える部分の税率を30%より高めに設定して試算すると、実態に近づきます。

あえて安全側に倒しているのは、シミュレーターが「法人化して得か損か」を判断するための道具だからです。

法人の税負担を高めに見積もっておけば、法人化のメリットは小さめに出ます。その上でなお法人化が有利と出るなら、判断としては堅い。

逆に、有利な数字を並べて法人化を勧め、実際にやってみたら思ったほどでもなかった、というのがいちばん避けたい形です。

矛盾しているのではなく、目的が違う数字だとご理解ください。

役員報酬をいくらにするか、の判断に効いてくる

法人税率の構造が分かると、次に効いてくるのが役員報酬の決め方です。医療法人の利益は、大きく2つに分かれます。

理事長個人が役員報酬として受け取る分と、法人に残す分です。

前者には理事長個人の所得税・住民税がかかり、後者には法人税等がかかります。

そして、この2つは税率のかかり方がまったく違います。

受け取り方かかる税金税率の目安
役員報酬として個人が受け取る 所得税・住民税
(+社会保険料)
課税所得1,500万円クラスで、限界税率およそ43%
法人に利益として残す 法人税等 800万円超の部分でおよそ30%

数字だけを並べれば、個人の限界税率が法人税率を上回る水準まで来ているなら、法人に残したほうが税金は少なくて済むという関係が見えます。実際、そういう場面はあります。

ただし、税率の比較だけで決められません

法人に残した利益は、そのままでは先生個人の生活には使えません。医療法人には剰余金の配当が法律で禁止されており、株式会社のように配当で受け取ることはできません。

取り出す手段は、将来の役員報酬か、退職金か、そのくらいです。


さらに、持分あり医療法人の場合は、法人に残した利益がそのまま出資持分の評価額を押し上げます。換金できない財産に相続税だけがかかる、という形になりかねません。

「税率が低いほうに寄せる」という発想だけで役員報酬を決めると、20年後に困ります。

役員報酬にはもうひとつ、金額より先にタイミングのルールがあります。

期の途中で増額しても、増額した部分は原則として損金になりません。

詳しくは医療法人の役員報酬はいくらにすべきかで整理していますので、あわせてご覧ください。

税率を知ることは、判断の材料が1つ増えるということです。それ以上でも、それ以下でもありません。

法人税率の水準を知っておくと、決算前の判断が変わります。

「経費を使えば税金が減る」ではなく、「30%減って、100%出ていく」という形で捉えられるようになるからです。

そのうえで、社会保険料、出資持分の評価、退職金の準備といった要素を並べて、税引後に手元に残るお金が10年・20年でどうなるかを見る。

順序としては、そちらが先です。

ご自身の場合はどうなるか、数字で確かめませんか。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の税率はいずれも概算であり、所得の水準・法人の所在地・適用年度・自費割合によって変わります。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。