法人化のメリットというと、たいてい税金の話になります。

でも実務で見ていると、もっと大きい効果がひとつあります。 借りやすくなることです。

同じ先生が、同じ医院をやっていても、法人になった途端に銀行の態度が変わる。 理由があります。

この記事の結論

なぜ法人だと借りやすいのですか。
銀行が数字で判断できるからです。法人は事業のお金と個人のお金が分かれていて、決算書がそのまま医院の成績になります。個人事業だと、生活費と事業の数字が混ざっていて、評価しにくい。
金額も変わりますか。
変わります。法人は継続を前提に見てもらえるので、期間の長い借入がしやすい。個人だと「院長に何かあったら終わり」という前提で見られます。
法人にすればすぐ借りられますか。
いいえ。設立直後は決算書がありません。むしろ設立の前後は、いちばん借りにくい時期です。借りる予定があるなら、法人化の前に借りておくという判断もあります。

銀行が法人を評価しやすい4つの理由

 理由
財布が分かれている。決算書がそのまま医院の成績
続くことが前提。理事長が替わっても法人は残ります
数字が整っている。税理士が関与しているので、精度が高い
規模を見込める。枠の大きい融資の対象になりやすい

②が意外と大きい。 個人事業は、院長に何かあれば事業がそこで止まります。 銀行から見れば、返済の見込みが院長ひとりに乗っている。

法人なら、理事長が替わっても法人は続きます。 だから10年、15年といった長い期間の借入がしやすくなります。

個人事業だと、何が見えないのか

個人でクリニックをやっていると、確定申告書には生活費に近いものも混ざります。

銀行が困ること
自宅兼医院だと、経費がどこまで事業のものか分かりにくい
専従者給与が、実態に見合っているか分からない
事業主貸・事業主借で、お金の出入りが説明されていない
概算経費を使っていると、実際の経費が分からない

最後は医療特有です。 概算経費で申告していると、実際にいくら使ったかが決算書に出てきません。 銀行は実態をつかみにくくなります。

税金は安くなっても、借りるときには不利に働くことがある。 借入を考えている個人開業の先生は、ここを頭に入れておいてください。

法人化の直後は、逆に借りにくい

ここが盲点です。

設立したばかりの医療法人には、決算書がありません。 銀行は過去の数字で判断するので、判断する材料がない。

時期借りやすさ
個人開業で数年の実績あり借りられます
法人化した直後いちばん借りにくい
法人で1期目の決算が出た少し戻ります
法人で2〜3期個人時代より借りやすくなります

だから大きな設備投資や建て替えの予定があるなら、順番を考えてください。

法人化の前に借りておく。あるいは、法人化して2〜3期たってから借りる。 設立の直後に大きな借入をしようとするのが、いちばん苦しい。

個人時代の実績は、まったく無駄にはなりません

銀行によっては、個人時代の確定申告書も合わせて見てくれます。 同じ院長が、同じ場所で続けているわけですから。
ただしあらかじめ説明が要ります。黙っていると、設立1年目の法人として扱われます。

借入があるまま法人にするとき

個人時代の借入を、法人に引き継げるか。よく聞かれます。

 やり方注意
法人が引き継ぐ(債務引受)銀行の承諾が要ります。無条件ではありません
法人が新たに借りて、個人の借入を返す実質的な借換え。審査があります
個人のまま返し続ける院長個人が、報酬から返すことになります

①は必ず事前に銀行と話してください。 勝手に法人へ移すことはできません。 法人化の認可申請の前に、銀行の意向を確かめておく必要があります。

③になると、院長の手取りから返すことになります。 法人の経費にもなりません。この形を見落として、あとで資金繰りが苦しくなる医院があります。

法人にしても、保証人からは逃れられません

「法人の借入は、社長個人に返済義務がない」と言われます。 法律上はそのとおりです。でも現実は違います。

ほとんどの場合、理事長が個人保証をします。 保証をすれば、法人が返せなくなったとき、個人が返します。 結局、運命共同体です。

ただし、外せる道はあります

決算書が良ければ、個人保証を外せることがあります。 国が方針を示していて、金融機関もそれに沿って動いています。
条件の1つが「法人と経営者のお金が区分・分離されていること」。 つまり役員貸付金があると、ここで引っかかります。
くわしくは理事長の個人保証を外すに書きました。

最後に。 「借りやすくなる」は、法人化のメリットとしてもっと語られていいと思っています。

税金が年に数十万円変わる話より、必要なときに数千万円を借りられるかどうかのほうが、経営には効きます。 機器を入れる、建て替える、分院を出す。どれもお金が先に要ります。

ただし法人にすれば自動的に借りられる、ではありません。 決算書をきれいに作って、数字で説明できることが前提です。 銀行が決算書のどこを見ているかもあわせてご覧ください。

出典:経営者保証に関するガイドライン(平成25年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会)。 経営者保証を求めない可能性を検討する要件として、法人と経営者との関係の明確な区分・分離、 財務基盤の強化、財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示が挙げられている。 経営者保証改革プログラム(令和4年12月23日公表、金融庁・経済産業省・財務省)。 社会保険診療報酬の所得計算の特例は租税特別措置法第26条。 医療法人の設立認可は医療法第44条。 債務引受には債権者(金融機関)の承諾が必要(民法第470条ほか)。 借入の可否や条件は金融機関の判断によります。いずれも2026年9月時点。

借りる予定があるなら、法人化の順番から考えます。

建て替え、機器、分院。大きな投資の予定があるなら、法人化の前に借りるか、後にするかで結果が変わります。 個人時代の借入を法人に引き継げるかも、銀行と事前に詰める必要があります。 決算書と、これから3年の計画をお持ちください。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。