週1回だけ来てもらっている非常勤の先生に、報酬を振り込んでいる。 源泉徴収は、していますか。
「先生は個人事業だから、こちらで引く必要はない」 ——そう言われて、そのまま全額を振り込んでいる医院があります。
実態が雇用なら、それは給与です。 源泉徴収をしていなければ、払うのは医院になります。相手ではありません。
この記事の結論
- 非常勤の先生への支払いは、給与ですか報酬ですか。
- 実態で決まります。診療日・時間が決まっていて、医院の指示で診療し、医院の設備と材料を使う。それなら給与です。契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態が優先されます。
- 源泉徴収をしていなかったら、どうなりますか。
- 医院が払います。本来引いておくべきだった所得税を、医院が納めることになります。これに不納付加算税と延滞税が乗ります。あとから相手に請求できるとは限りません。
- ほかに漏れやすいものはありますか。
- 講演料、原稿料、原稿の謝金です。税率は10.21%(100万円を超える部分は20.42%)。「謝礼」「車代」という名目でも、中身が同じなら源泉徴収が要ります。
給与か報酬かは、実態で決まります
判断のポイントは、その先生が医院の指揮のもとで働いているかです。
| 給与に近い | 報酬に近い | |
|---|---|---|
| 時間 | 曜日・時間が決まっている | 自分で決められる |
| 指示 | 医院の方針で診療する | 自分の判断で行う |
| 設備・材料 | 医院のものを使う | 自分で用意する |
| 報酬の決まり方 | 時給・日給 | 成果ごと |
| 休んだとき | それでも支払われる | 支払われない |
非常勤の先生は、たいてい左側に寄ります。 曜日が決まっていて、医院のユニットと材料で診療する。 これは給与です。
契約書に「業務委託契約」と書いてあっても関係ありません。 紙ではなく、実際にどう働いているかを見られます。
源泉徴収が必要な報酬は、法律で種類が決められています。
弁護士、税理士、司法書士、原稿料、講演料など。
「医師の診療に対する報酬」は、この一覧に入っていません。
だから本当に業務委託なら源泉徴収は不要で、逆に給与なら必要。
どちらかをはっきりさせておかないと、処理が決まりません。
払うのは医院です。相手ではありません
ここがいちばん怖いところです。
源泉徴収は、医院が預かって国に納める仕組みです。 引き忘れていたら、医院が自分のお金で納めます。
| 金額 | |
|---|---|
| 月30万円 × 12か月 × 3年分の支払い | 1,080万円 |
| 本来引いておくべきだった所得税(仮に10%) | 108万円 |
| 不納付加算税・延滞税 | これに上乗せ |
あとから先生に「返してください」と言えるか。法律上は請求できますが、 すでに辞めた先生に、何年も前の分を請求するのは現実的ではありません。
結局、医院がかぶることになります。
講演料・原稿料は10.21%
医院が払う側になることもあります。 院内勉強会で外部の先生に講演してもらった、学会誌に寄稿してもらった、というときです。
| 支払額 | 源泉徴収する額 |
|---|---|
| 100万円以下 | 支払額 × 10.21% |
| 100万円超 | (支払額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円 |
10万円の講演料なら、10,210円を引いて、89,790円を振り込みます。
「謝礼」「謝金」「取材費」「車代」。
名前が違っても、中身が講演料や原稿料と同じなら、源泉徴収が必要です。
現金で手渡ししても同じです。記録が残っていないだけで、義務は消えません。
個人の先生は、診療報酬からも引かれています
逆に、医院が引かれる側になるものがあります。
個人でクリニックをやっている先生は、支払基金からの入金が、すでに源泉徴収されています。 気づいていない先生もいらっしゃいます。
| 源泉徴収 | |
|---|---|
| 支払基金が支払う診療報酬(個人) | あり。月20万円を引いた残りに10.21% |
| 国保連(市町村・国保組合)が直接支払う分 | なし |
| 医療法人が受け取る診療報酬 | なし |
引かれた分は、確定申告のときに精算されます。払いすぎていれば戻ります。
おもしろいのは3段目です。 医療法人にすると、この源泉徴収がなくなります。 毎月の入金が、その分だけ増える。 法人化したときに「入金が増えた」と感じるのは、これが理由のひとつです。
納付を忘れると、それだけで加算税です
正しく引いていても、納めるのを忘れたら別の話になります。
源泉徴収した所得税は、引いた月の翌月10日までに納めます。 1日でも遅れると、不納付加算税がかかります。
給与を払う相手が常時10人未満の医院なら、届出を出すことで
年2回(7月と1月)にまとめて納めることができます。
ひとり医師法人やスタッフ数人の医院なら、たいてい使えます。
毎月の作業が年2回になるので、納め忘れも減ります。
いま確かめておくこと
| 確認 | |
|---|---|
| ① | 非常勤の先生への支払いを、給与と報酬のどちらで処理しているか |
| ② | そう扱っている理由を、説明できるか |
| ③ | 講演料・原稿料・謝礼を、源泉徴収せずに払っていないか |
| ④ | 毎月の納付が、翌月10日までにできているか |
| ⑤ | 納期の特例(年2回)の届出を出しているか |
②が肝心です。 「前からそうしているから」は理由になりません。 勤務の実態を説明できるかどうかで決まります。
最後に。 源泉徴収の漏れは、悪意がなくても必ず取られます。 預かるべきものを預からなかった、という話だからです。 そして医院が自腹で払います。 税務調査で指摘されてからでは遅い。 いま、上の5つを確かめてください。
出典:源泉徴収の対象となる報酬・料金の範囲は所得税法第204条第1項。 原稿料・講演料等の税率(10.21%、100万円超の部分は20.42%)は国税庁タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」。名目が謝金・取材費・車代でも実態が同じなら対象となる旨も同ページによる。 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬は所得税法第204条第1項第3号、税率は同法第205条第2号および 同法施行令第322条。健康保険組合・市町村・国民健康保険組合が直接支払う診療報酬は対象外 (所得税基本通達204-19)。 納期の特例(給与の支給人員が常時10人未満)は所得税法第216条。 給与と報酬の区分は、実質的な勤務の状況により判定されます。いずれも2026年9月時点。
非常勤の先生への支払い、いまの処理でよいか見ます。
契約書と、実際の勤務の状況(曜日・時間・指示・設備)をうかがえば、 給与と報酬のどちらで処理すべきかを整理できます。 あわせて納期の特例の届出が出ているかも確認します。過去分の是正が必要な場合も、一緒に考えます。
無料相談を申し込む9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。
LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。
9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。
結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。
LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る
※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。
※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。
個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。
最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。