年末が近づくと、必ずといっていいほど話題に出るのがふるさと納税です。

理事長の先生方からも「今年はいくらまでいけますか」というご質問をよくいただきます。

返礼品の楽しみもあり、すっかり定着した制度になりました。

ただ、この制度は厳密には「節税」ではありません

そして、医療法人の理事長にはほかの給与所得者とは少し違う注意点があります。

とくに、役員報酬を改定した年と、退職金を受け取った年。

この記事では、仕組みを正確に押さえたうえで、先生の立場で気をつけるべき点を整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

ふるさと納税は節税になりますか。
税負担そのものが減る制度ではありません。
自治体への寄附のうち自己負担2,000円を超える部分が、所得税と翌年の住民税から差し引かれる仕組みです。

実質的には本来納めるはずの税金を先に払い、返礼品を受け取るという性質のものだとお考えください。
理事長がいちばん気をつけるべき点は何ですか。
控除限度額です。限度額はその年の所得と家族構成で決まります。

役員報酬が定期同額の理事長は年間の見込みが立てやすい一方、報酬を改定した年や、理事長退職金を受け取った年は所得が大きく動くため、読み違えが起こりやすくなります。
ワンストップ特例は使えますか。
確定申告をする年は使えません。
医療費控除や住宅ローン控除の初年度など、確定申告をするのであれば、ふるさと納税もその申告のなかでまとめて申告する必要があります。

ワンストップ特例の申請書を出していても、確定申告をした時点で効力がなくなります。

ふるさと納税は「節税」ではない——仕組みを正確に

ふるさと納税は、名前に「納税」と付いていますが、法律上の性格は自治体への寄附です。

寄附をすると、自己負担となる2,000円を除いた金額が、その年の所得税と、翌年度の住民税から差し引かれます(一定の限度額の範囲内であれば、という条件付きです)。

ここで押さえていただきたいのは、手元のお金が増えるわけでも、税負担の総額が軽くなるわけでもないということです。

たとえば10万円を寄附すれば、10万円は実際に財布から出ていきます。

そのうち9万8,000円分だけ、あとから所得税・住民税が減る。

差し引きすると、納める先が変わっただけで、負担している金額はほぼ同じです。

つまり、こういうことです

ふるさと納税で得られるメリットは、税負担が減ることではなく、「2,000円の自己負担で、返礼品を受け取れること」です。

返礼品のルールは2026年10月に変わりました。→ ふるさと納税は9月中に

税額の圧縮を目的とした制度ではありません。この点を正確に理解しておくと、後述する限度額の話も腑に落ちやすくなります。

もう一点、資金繰りの観点も付け加えておきます。

寄附はその年の12月31日までに支払いを済ませる必要があるのに対し、住民税から差し引かれるのは翌年6月以降です。

つまり、寄附した金額はしばらく先に出ていったままになります。

まとまった金額を年末に寄附する場合は、この時間差も頭の片隅に置いておいてください。

理事長にとっての本丸は「控除限度額」

ふるさと納税で実務上いちばん重要なのが、控除限度額です。自己負担2,000円で済む金額には上限があり、これを超えた部分は控除されません。

限度額を決めるのは「所得」と「家族構成」

限度額は、大まかに言えばその年の所得の大きさと、扶養している家族の状況で決まります。

所得が大きいほど限度額は上がり、配偶者控除や扶養控除などが多いほど、その分だけ限度額は下がります。

生命保険料控除や医療費控除住宅ローン控除といった他の控除も、限度額に影響します。

理事長は、本来「読みやすい」立場にある

ここは医療法人の理事長にとって有利な点です。役員報酬は定期同額給与が原則で、期の途中で自由に増減させることができません。

裏を返せば、年間の給与収入の見込みが年初の時点でほぼ確定しているということです。

歩合や賞与で年収が上下する方に比べれば、理事長は限度額の見積もりを立てやすい立場にあります。

年末になってから慌てて計算するのではなく、年の前半のうちに枠を把握し、計画的に寄附できるのが本来の姿です。

ただし「役員報酬だけ」で判断しないでください

限度額の計算は、役員報酬だけでなくその年のすべての所得を踏まえて行います。

不動産の賃貸収入、株式や投資信託の譲渡益・配当、他院での非常勤勤務の報酬、原稿料や講演料。

こうした所得がある年は、役員報酬だけを前提にした試算とはずれが出ます。

限度額を読み違える2つの年——報酬改定と、退職金

理事長が限度額を読み違えやすいのは、所得が例年と大きく変わる年です。医療法人特有の場面として、次の2つを挙げておきます。

1. 役員報酬を改定した年

役員報酬の改定は、通常、事業年度の開始から3か月以内に行います。

ここで注意していただきたいのが、法人の事業年度と、個人の所得を計算する暦年(1月〜12月)はズレているという点です。

たとえば3月決算の医療法人であれば、報酬改定は6月分から反映されるのが一般的です。

この場合、その年(1月〜12月)の給与収入は、1月〜5月が旧報酬、6月〜12月が新報酬という混在した形になります。

改定後の月額をそのまま12倍して限度額を試算すると、実態とかけ離れた数字が出てしまいます。

注意

報酬を増額した年に、新報酬×12か月で限度額を計算すると限度額を過大に見積もり、超過分が自己負担になります。

逆に報酬を減額した年に前年と同じ感覚で寄附すると、やはり限度額を超えます。

改定のあった年は、その年に実際に受け取る金額を月ごとに積み上げて確認してください。

2. 理事長退職金を受け取った年

理事長退職金は、生涯で一度あるかどうかという大きな入金です。

「今年は所得が跳ね上がるから、ふるさと納税の枠も大きく増えるはずだ」——そう考えたくなるところですが、ここは慎重に扱うべき論点です。

退職金は退職所得という区分になり、給与所得などとは分けて課税される(分離課税)のが特徴です。

退職所得控除が差し引かれたうえで、残りの2分の1が課税対象になるという、税負担が大きく抑えられた扱いになっています。

この分離課税という性格から、退職金を受け取ったからといって、ふるさと納税の限度額が単純にその分だけ増えるとは限りません。

ここは必ず事前確認を

退職金を受け取る年・受け取った翌年に、いつもより大きな金額を寄附しようとお考えの場合は、寄附する前に必ず顧問税理士に限度額を確認してください。

「所得が増えた年だから枠も増えるはず」という感覚で寄附した結果、大半が控除の対象外になっていた、というのは避けたい事故です。

退職金は金額が大きいだけに、読み違えたときの自己負担も大きくなります。

そのほか、所得が動きやすい場面

いずれも「例年どおり」が通用しない年です。去年と同じ金額を寄附しておけば安心、とはいかないとお考えください。

ふるさと納税は寄附額から自己負担2,000円を引いた額が所得税と翌年の住民税から差し引かれる仕組みで、税負担そのものは減らない。控除には限度額があり、役員報酬を改定した年と理事長退職金を受け取った年は読み違えやすい。
税負担そのものが減る制度ではなく、限度額を超えた部分はただの寄附になります。

ワンストップ特例が使えるとき、使えないとき

ふるさと納税の控除を受ける方法は2つあります。確定申告をする方法と、ワンストップ特例制度を使う方法です。

ワンストップ特例のあらまし

ワンストップ特例は、確定申告をしなくても控除を受けられる仕組みです。

寄附のたびに寄附先の自治体へ申請書を提出しておけば、自治体間で情報がやりとりされ、翌年度の住民税から控除されます。

主な要件は次のとおりです。

要件内容
確定申告をしないこと もともと確定申告の必要がない給与所得者などが対象です
寄附先が年間5自治体以内 同じ自治体に複数回寄附しても1つと数えます。自治体の数で判定します
申請書の提出 寄附先の自治体それぞれに、翌年1月上旬の期限までに提出します

理事長の場合、そもそも使えないことがあります

ここが実務でいちばん行き違いの起きやすいところです。

確定申告をする年は、ワンストップ特例は無効になります

医療費控除を受ける年、住宅ローン控除の初年度、不動産所得や譲渡所得がある年など、確定申告をする場合は、ワンストップ特例を使うことができません。

申請書をすでに提出していても、確定申告をした時点でその申請はなかったことになります。この場合、ふるさと納税の寄附も確定申告のなかにきちんと含めて申告する必要があります。

含め忘れると、寄附したのに控除がまったく受けられないという結果になります。実際にときどき起きている事故です。

加えて、理事長の場合は役員報酬の水準そのものによって確定申告が必要になるケースがあります。

給与収入が一定額を超える方は年末調整の対象外となり、毎年確定申告をすることになります。

この場合、そもそも最初からワンストップ特例の対象外です。ご自身がどちらの立場なのか、顧問税理士に確認しておいてください。

証明書類は必ず保管を

確定申告で控除を受ける場合は、寄附先の自治体が発行する寄附金の受領証明書、またはポータルサイトが発行する年間の寄附額をまとめた証明書が必要になります。

年末にまとめて寄附すると書類が年明けに届くことも多いので、紛失しないよう1か所にまとめておくことをおすすめします。

限度額を超えたらどうなるか、そして確認の手順

限度額を超えて寄附した場合、その超えた部分は控除の対象になりません

制度の趣旨からすればごく自然な話で、純粋な寄附になります。

自治体を応援する気持ちで寄附されるのであれば何の問題もありませんが、「2,000円の自己負担で返礼品を」と考えていた場合は、想定外の出費になります。

この記事で具体的な限度額の目安表を載せていないのは、意図的です。限度額は所得の区分や控除の状況によって細かく変わり、目安表だけを見て判断すると、かえって誤解を招きます。

とくに理事長の場合、役員報酬以外の所得や、前述の報酬改定・退職金といった事情が絡むため、一般的な早見表では読み切れません。

確認は、この順番で

ふるさと納税は、正しく使えば手軽で、返礼品という分かりやすい見返りもある制度です。

ただ、これ自体は税負担を減らす手段ではありません。

医療法人の理事長にとっての本格的な税務対策は、役員報酬の設計、退職金の準備、資産の持ち方といった、もっと大きな枠組みの話になります。

ふるさと納税は、そのうえに乗せる“おまけ”くらいの位置づけで考えていただくのが健全です。

ご自身の限度額、正確に把握できていますか。

すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。

役員報酬の設計や退職金の準備といった、ふるさと納税よりずっと効果の大きい論点も含めて、気づいた点をお伝えします。

これから法人化を検討する先生には、「医療法人化シミュレーション」で、先生の数字をもとに効果を確かめていただけます。

無料で相談する
LINE

9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。

LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。

9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。

結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。

LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る

※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。


※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。

個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。

最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。