ご自宅を購入された理事長から、「住宅ローン控除を受けているのですが、いっそ法人の社宅にしたほうが得ではないですか」というご相談をいただくことがあります。
どちらも住まいにかかるお金を軽くする仕組みなので、両方まとめて使いたくなるのは自然な発想です。
ただ、結論から申し上げるとこの2つは、原則として同時には成立しません。片方を選べば、もう片方は諦めることになります。
しかも住宅ローン控除は近年ほぼ毎年のように改正されており、以前に聞いた話のまま判断すると読み違えます。
この記事では、制度の骨格を押さえたうえで、理事長がどちらを選ぶべきかの考え方を整理します。
住宅ローン控除の改正について、動画でも解説しています。※この動画は2022年(令和4年)時点の解説です。制度はその後も改正が重ねられているため、最新の要件は本文および国土交通省・国税庁の資料をご確認ください。
この記事の結論
- 住宅ローン控除と法人の社宅は、両方使えますか。
- 原則として、どちらか一方です。住宅ローン控除は「自分で買った家に、自分が住む」ことが前提の制度です。
一方の社宅は「法人が借りて(または所有して)、理事長に貸す」形をとります。前提そのものが噛み合いません。 - どちらが有利ですか。
- ケースによって逆転します。住宅ローンの残高、法人の利益水準、理事長個人の所得水準の3つで結論が変わります。「社宅のほうが得らしい」という一般論で決めるべきものではありません。
- 住宅ローン控除は今どうなっていますか。
- 令和4年度の改正で控除率が1%から0.7%に引き下げられ、住宅の省エネ性能に応じて借入限度額が変わる建付けになりました。
ただし具体的な限度額や控除期間は入居した年ごとに細かく異なり、その後も改正が続いています。
ご自身のケースは必ず最新資料でご確認ください。
住宅ローン控除は、どう変わったのか——制度の骨格
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを組んで自宅を取得した人が、年末のローン残高に応じた金額を所得税額から直接差し引ける制度です。
ここでいう「差し引く」は、所得から引く所得控除ではなく、計算された税額そのものから引く税額控除です。
この違いが後で効いてきます。
この制度は令和4年度の改正で、大きく2つの点が変わりました。
1つ目は、控除率の引き下げです。従来は年末残高の1%でしたが、0.7%に引き下げられました。
低金利のもとで「支払う利息より控除される税額のほうが大きい」という逆転が広く起きていたことへの是正、というのが背景です。
同じ残高でも、以前ほどの控除額にはなりません。
2つ目は、住宅の省エネ性能によって扱いが分かれるようになったことです。
認定長期優良住宅・低炭素住宅、ZEH水準、省エネ基準適合住宅、そしてそのいずれにも当てはまらない住宅、という区分が設けられ、区分ごとに控除の対象となる借入限度額が変わります。
省エネ性能の高い住宅ほど手厚く、そうでない住宅は縮小、という方向で制度全体が動いています。
なお、この制度は令和8年度の税制改正で適用期限が5年延長され、令和12年(2030年)12月31日までの入居分まで、内容を再編したうえで継続することになりました。
あわせて床面積の要件が新築・既存住宅とも40㎡以上に緩和される一方、2028年(令和10年)以降は、新築の省エネ基準適合住宅が原則として対象から外れるなど、区分の中身も引き続き動いています。
省エネ性能の高い住宅への絞り込みが、さらに一歩進む形です。
借入限度額と控除期間は、住宅の省エネ性能と入居した年によって細かく決まっており、毎年のように改正されています。新築か中古か、子育て世帯かどうかといった条件でも変わります。
この記事で具体的な金額や年数を挙げると、かえって判断を誤らせるため、あえて記載していません。
ご自身のケースは、国土交通省・国税庁の最新資料で必ず確認してください。顧問税理士がいらっしゃる場合は、購入の契約前に一度確認されることをおすすめします。
金額以外にも、要件はいくつかあります
控除を受けるには、床面積の要件(令和8年度の改正で、新築・既存住宅とも40㎡以上に緩和されました)、居住までの期間の要件、そして本人の合計所得金額の要件などを満たす必要があります。
このうち所得の要件は、令和4年度の改正で従来の3,000万円以下から2,000万円以下へ引き下げられました。理事長にとっては、ここが最初の関門になることが少なくありません。
なぜ、社宅と同時には使えないのか
理由はシンプルで、2つの制度が想定している「住まいの持ち方」が正反対だからです。
住宅ローン控除は、個人が自分名義でローンを組み、自分名義で家を取得し、そこに自分が住むことを前提にした制度です。「自己の居住の用に供する」という要件が土台にあります。
一方、医療法人の社宅は、法人が家主と契約して物件を借り上げ(または法人が所有し)、それを理事長に貸すという形です。
契約者が法人であることが絶対条件で、住まいはあくまで法人が用意したもの。理事長は借りて住んでいる立場になります。
住宅ローン控除は「自分の家に住む」人のための制度、社宅は「法人の家に住む」ための仕組みです。
同じ住まいについて、自分の家でありながら法人の家でもある、という状態は成り立ちません。
どちらを選ぶかは、住まいをどちらの名義で持つかを決めることとほぼ同じだとお考えください。
「自宅を法人に貸して社宅にする」という発想の落とし穴
ここで出てくるのが、「今の自宅を、そのまま医療法人に貸して社宅扱いにできないか」というご相談です。
住み続けながら法人からの家賃収入も得られるなら一石二鳥に思えますが、実務上はいくつも壁があります。
住宅ローン控除の要件を外れる可能性が高い——自宅を法人に賃貸すれば、そこは「自己の居住の用に供する家屋」ではなく賃貸物件になります。
控除の前提が崩れます。
金融機関との契約に反するおそれ——住宅ローンはあくまで自己居住用の融資です。
賃貸に回すことは契約上認められていないのが通常で、発覚すれば一括返済を求められることもあります。
理事長個人に不動産所得が立つ——法人から受け取る家賃は理事長の不動産所得になり、法人で経費にした分の一部が個人側で課税されます。
効果が想像より薄いケースがあります。
形を工夫すれば通せるのではないか、と考えたくなるところですが、ここは無理に組み立てようとせず、どちらか一方に決めるという前提で検討されるのが健全です。
理事長の所得が高い場合、どう効くのか
住宅ローン控除の長所は、効果が読みやすいことです。
所得控除であれば「所得から引いた結果、税率をかけていくら軽くなるか」という間接的な計算になりますが、住宅ローン控除は算出された所得税額から直接差し引く税額控除です。
控除額がそのまま税負担の減少額になるため、見通しが立てやすい。
所得が高く、納める所得税額が大きい理事長ほど、控除枠を使い切りやすいとも言えます。
ただし、注意点が2つあります。
1つ目は、所得の要件です。先ほど触れたとおり、合計所得金額に上限が設けられており、これを超える年は控除を受けられません。
役員報酬の水準によっては、そもそも土俵に上がれない年が出てきます。役員報酬の決め方と一緒に考えるべき論点です。
2つ目は、所得税から引ききれなかった場合の住民税の扱いです。
所得税額が控除額より小さいときは、残りを翌年度の住民税から差し引ける仕組みがありますが、この住民税からの控除には上限が設けられています。
つまり、控除枠がまるごと消化できるとは限りません。
住民税からの控除限度額は、所得税の課税総所得金額等の5%(上限97,500円)とされています。
この水準も改正の対象になってきた項目です。ご自身の年分については、最新の制度でご確認ください。
これに対して社宅は、理事長の所得が高いほど効果が大きくなる方向に働きます。
市場家賃と「賃貸料相当額」との差額が非課税の経済的利益になるため、同じ金額を役員報酬で受け取って家賃を払う場合と比べたときの差が、高い税率帯ほど開くからです。
社会保険料の面でも違いが出ます。
どちらを選ぶか——判断が分かれる3つの軸
「社宅のほうが有利だと聞いた」と言われることがありますが、実際には次の3つの条件しだいで、結論はあっさり逆転します。
| 判断の軸 | 住宅ローン控除に傾く場合 | 社宅に傾く場合 |
|---|---|---|
| 住宅ローンの残高 | 残高がまだ大きく、控除期間も十分に残っている | 返済が進んで残高が小さい、または控除期間の終わりが近い |
| 法人の利益水準 | 法人の利益が薄く、経費を増やしても法人税の圧縮効果が乏しい | 法人に安定した利益があり、家賃を経費にする効果が出る |
| 理事長個人の所得 | 所得要件の範囲内に収まっている | 所得要件を超えて控除が使えない、または高い税率帯にいる |
加えて、時間軸の違いも見落とせません。住宅ローン控除には終わりがあります。
定められた控除期間が終われば、効果はゼロになります。一方で社宅は、その形を維持している限り効果が続きます。
目先の数年で比べるか、10年20年で比べるかによって、有利・不利の見え方は変わります。
さらに、住まいは税金だけで決めるものでもありません。持ち家として資産に残したいのか、法人の借上げで身軽にしておきたいのか。ご家族の意向、将来の相続まで含めた設計の話でもあります。
決める前に確かめたいこと
以上を踏まえると、実務でお伝えしていることは次のとおりです。
いま住宅ローン控除を受けている自宅を、途中から社宅に切り替えるのは容易ではありません。金融機関との契約、名義の変更、法人での取得可否といった論点がまとめて発生します。
逆に、社宅として住んでいる状態から持ち家に切り替える場合も、住宅ローン控除の要件を一つずつ確認する必要があります。
後戻りしにくい判断なので、動く前に試算してください。
検討の順番としては、まず住宅ローン控除の要件を満たすかどうかを確認します。
所得要件を超えていれば、そもそも選択肢は一つに絞られます。
次に、控除を受けられる場合の年間の控除額と、社宅にした場合の法人・個人あわせた効果を、同じ土俵で並べて比べます。
ここではじめて、数字で比較ができます。
なお医療法人の場合、法人が居住用の不動産を取得すること自体について、医療法上の制約や都道府県の指導を確認しておく必要があります。
一般の株式会社と同じ感覚で進められるとは限らず、実務上は「法人が借り上げる」形をとるケースが多くなります。
この点は設立時の定款や、所轄庁の運用にも関わってきます。
「住宅ローン控除か、社宅か」は、制度の優劣の問題ではなく、先生の数字とご事情に対してどちらが噛み合うかという問題です。
一般論で決めず、必ずご自身のケースで並べて比べてから判断してください。
ご自身の場合はどちらが有利か、数字で確かめませんか。
すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。
住宅ローンの残高や役員報酬の水準を踏まえて、社宅との比較で気づいた点をお伝えします。
これから法人化を検討する先生には、「医療法人化シミュレーション」で、社宅のような法人だけの制度も含めた効果を数字で見ていただけます。
無料で相談する
9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。
LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。
9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。
結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。
LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る
※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。
※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。
個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。
最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。