節税というと、決算前に何かを買う話になりがちです。
ただ、経費を増やして利益を減らす方法は、結局のところ手元のお金が出ていきます。
それに対して、支払う税額そのものを直接値引きしてくれる仕組みがあるのをご存じでしょうか。それが「税額控除」です。
医療法人は、電子カルテや予約システムといったIT投資から院内設備まで、まとまった金額の投資を行う機会が多い法人です。
ただし先にお伝えしておくと、CT・MRIなどの医療機器そのものは、中小企業向けの設備投資減税では原則として対象外です。
一方で、電子カルテ等のソフトウェアや一定の機械装置は対象になり得ますし、同じ投資でも税務上どちらの制度を選ぶかで、生涯の税負担がはっきり変わります。
この記事では、対象範囲の注意点と、税額控除と特別償却の本質的な違い、使うために先回りしておくべき手続きを整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 税額控除とは何ですか。
- 一定の設備を取得したときなどに、計算された法人税額から、決められた金額を直接差し引ける仕組みです。経費を増やして利益を減らす節税とは違い、税額そのものが減ります。
- CT・MRIなどの医療機器も対象になりますか。
- 原則、対象外です。医療機器は税務上「器具及び備品」に該当し、中小企業投資促進税制の対象資産には含まれません。
中小企業経営強化税制でも、医療保健業を行う事業者が取得する医療機器・建物・建物附属設備は適用を受けられないとされています。
対象になり得るのは、電子カルテ等のソフトウェアや一定の機械装置です。 - 特別償却とどちらを選ぶべきですか。
- 手元に残るお金を重視するなら、原則は税額控除です。
特別償却は初年度に多く償却できる代わりに、翌年以降の減価償却費が減るため、耐用年数を通した税負担の合計は変わりません(課税の繰延べ)。 - 決算直前でも間に合いますか。
- 制度によっては間に合いません。中小企業経営強化税制のように、設備を取得する前に「経営力向上計画」の認定を受けておく必要があるものがあります。投資を決める前の段階でご相談ください。
「お金を使わずに節税」とは、どういう意味か
節税の方法は、大きく2つに分けられます。ひとつは経費を増やして、課税される所得そのものを小さくする方法。もうひとつが、算出された税額から直接差し引く方法、つまり税額控除です。
違いはシンプルです。経費を100万円増やしても、税金が100万円減るわけではありません。
法人税等の税率を30%と仮定すれば(このサイトの医療法人化シミュレーションと同じ前提。
医療法人の法人税等は所得800万円以下が20%、超える部分が30%で、ここでは超える部分の30%で計算しています)、減る税金はおよそ30万円。
差額の70万円は、純粋に法人から出ていったお金です。
一方、税額控除で100万円を差し引けたなら、減る税金はそのまま100万円です。
誤解のないように補足します。設備投資である以上、機器の購入代金という支出は実際に発生します。「お金を使わずに」というのは、節税のためだけに余計な支出をしなくてよいという意味です。
もともと必要だった投資に、正しく制度を当てはめるだけで税額が下がる——これが税額控除の本質です。
順番として、投資の必要性が先、節税は後からついてくる結果と考えてください。
税額控除と特別償却は、まったく別物です
中小企業向けの設備投資減税(中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制など)では、一定の機械装置・器具備品・ソフトウェアなどを取得した際に、「税額控除」か「特別償却」のどちらかを選べるのが一般的です。
ここで安易に特別償却を選んでしまうケースを、実務でよく見かけます。
特別償却は「税金の前倒し」にすぎない
特別償却は、初年度に通常の減価償却費へ上乗せして償却できる制度です。
初年度の利益が大きく圧縮されるので、効果があるように見えます。
しかし、先に多く償却した分、翌年以降に計上できる減価償却費はその分だけ減ります。設備の取得価額を超えて経費にできるわけではないからです。
つまり特別償却は、将来の減価償却費を先取りしているだけであり、耐用年数を通してみれば経費の総額は同じ。
生涯の税負担の合計は変わりません(課税の繰延べ)。効果があるのは「今期の納税額を抑えて資金繰りを楽にする」という一点です。
税額控除は、戻ってこない税金が減る
一方の税額控除は、取得価額の一定割合を、計算された法人税額から直接差し引くものです。
減価償却費は通常どおり全額を耐用年数にわたって計上できるうえに、税額控除の分だけ税金が純粋に減額されます。先送りではなく、正真正銘の減税です。
1,000万円の設備投資(例:電子カルテシステム)で比べると
| 比較する項目 | 特別償却(中小企業投資促進税制:取得価額の30%) | 税額控除(同:取得価額の7%) |
|---|---|---|
| 初年度の効果 | 300万円を上乗せ償却 → 税負担が約100万円軽くなる |
70万円を法人税額から直接差引き → 税負担が70万円減る |
| 翌年以降 | 減価償却費がその分減るので、毎年の税負担は重くなる | 減価償却費は通常どおり全額計上できる |
| 耐用年数を通した合計 | 税負担の総額は変わらない(繰延べ) | 70万円がまるごと減税になる |
| 制度の性格 | 課税の繰延べ(タイミングの調整) | 本当の減税 |
| 向いている場面 | 今期の納税をどうしても抑えたい、資金繰りが厳しいとき | 原則こちら。長い目で手元資金を最大化したいとき |
税額控除には「その事業年度の法人税額の一定割合まで」という上限があります。
赤字の年や、利益が小さく法人税額そのものが少ない年は、控除しきれないことがあります。
また、直近の資金繰りを優先したいという経営判断もあり得ます。
どちらが有利かは法人の利益水準と資金繰り次第なので、機械的に決めず、必ず試算したうえで選択してください。
医療機器は原則対象外——医療法人で対象になり得る設備
これらの制度は、医療機関だけを狙った特別な制度ではありません。
中小企業者等が一定の設備を取得したときの一般的な優遇制度です。
ここで医療法人の先生に必ず押さえていただきたいのが、CT・MRI・超音波診断装置といった医療機器そのものは、原則としてこれらの制度の対象にならないという点です。
中小企業投資促進税制の対象資産は機械装置・一定のソフトウェア等に限られており、医療機器は税務上「器具及び備品」に該当するため対象外です(国税庁の質疑応答事例でも明示されています)。
また中小企業経営強化税制についても、医療保健業を行う事業者が取得する医療機器・建物・建物附属設備は適用を受けられないことが中小企業庁のQ&Aで明記されています。
「高額な医療機器を入れるから税額控除が使えるはず」という思い込みは、残念ながら成り立ちません。
一方で、医療法人の投資でも対象になり得るものはあります。
- 電子カルテシステム、レセコンなどのソフトウェア(一定の取得価額以上のもの)
- 予約システム・オンライン診療システムなどの院内IT投資(ソフトウェアとして要件を満たすもの)
- 院内で使用する一定の機械装置(1台あたりの最低取得価額などの要件を満たすもの)
ただし、対象になるかどうかの線引きは資産の種類・金額ごとに細かく決められています。中古資産や、貸付けの用に供する資産などが対象外とされる場合もあります。
なお、中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制の適用期限は、いずれも令和7年度税制改正で2年延長され、令和9年3月31日までとされています。
導入予定の設備が該当するかどうかは、見積書の段階で個別に確認するのが確実です。
これらの制度は、対象を「中小企業者等」に限定しており、その判定は資本金の額で行うのが基本です。
ところが医療法人には、通常の株式会社のような資本金がありません。
そのため従業員数などの別の基準で判定することになり、さらに制度によっては、資本金の規模に応じて税額控除が使えず特別償却しか選べない、という区分もあります。
先生の法人がどの区分に当たるかは、必ず個別に確認が必要な論点です。
決算間際では間に合わない——手続きの順番
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい実務上のポイントです。
設備投資減税には、ただ設備を買って申告書に書けば済むものと、買う前に行政手続きを済ませておかないと一切使えないものがあります。
たとえば中小企業経営強化税制は、「経営力向上計画」を作成して主務大臣の認定を受けることが前提になります。
さらに、設備の種類によっては工業会等の証明書やあらかじめの確認手続きが必要で、これらは書類を揃えて申請してから認定が下りるまでに、相応の時間がかかります。
「決算で利益が出そうだから、期末に電子カルテを入れ替えて税額控除を取ろう」——この順番では、まず間に合いません。
認定が設備の取得に間に合わなければ、税額控除も特別償却も使えず、通常の減価償却しかできません。
数百万円から数千万円の投資で、本来受けられたはずの控除を丸ごと逃すことになります。
そもそも医療機器のように制度の対象外となる設備もあります。
導入を検討し始めた時点、遅くとも見積りを取った段階でご相談ください。
また、これらの制度は青色申告であることが前提で、申告書に必要な明細を添付して初めて適用されます。
適用できたはずなのに申告書への記載が漏れていた、というのは避けたいところです。
顧問税理士に対して、設備を導入したという事実を必ず伝えておくことも、実務上は大切です。
取り逃がさないために、先生にお願いしたいこと
設備投資減税は、制度を知っているかどうかだけで結果が変わります。しかも申告のときには手遅れになっていることが多い。だからこそ、次の3つを習慣にしていただくのが確実です。
1つ目は、投資を決める前に相談することです。契約や納品が終わってからでは、選べる制度が限られます。見積書の段階なら、対象になるかどうかも、必要な手続きが間に合うかも判断できます。
2つ目は、節税を目的に投資しないことです。税額控除があるからという理由で不要な機器を導入すれば、税金は減っても手元資金はもっと減ります。
診療の質や収益に貢献する投資かどうかが先で、税制はそれを後押しする材料にすぎません。
3つ目は、最新の内容を確認することです。設備投資減税は、対象設備・控除率・適用期限が改正で頻繁に見直される分野です。
この記事は2026年8月時点の制度を前提に、考え方を整理したものです。
実際に適用される控除率や要件は、必ず適用時点の最新の制度でご確認ください。
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その設備投資、どちらを選ぶのが有利か試算します。
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。