医療機器を買い替えた、待合室のソファを新調した、事務用にパソコンを数台まとめて購入した——医療法人の決算前になると、こうした設備投資の相談が増えます。
そのたびに聞かれるのが「これは今期の経費にできるのか、それとも何年かに分けて計上するのか」という質問です。
結論から言うと、取得価額が40万円未満であれば、青色申告をしている医療法人は原則としてその事業年度に全額を経費にできます。
この「40万円未満」は令和8年度税制改正で引き上げられた基準で、令和8年4月1日以後に取得する資産から適用されます(それより前に取得した資産は従来どおり30万円未満が基準です)。
ただし年間300万円という上限があり、似た顔をした制度がほかにも2つあるため、実務では混同されがちです。
この記事で整理します。
この記事の結論
- 少額減価償却資産の特例とは、どんな制度ですか。
- 取得価額40万円未満の資産を、購入した年に全額経費にできる制度です(令和8年4月1日以後に取得する資産から。
それ以前の取得分は30万円未満)。正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といいます。
医療機器・什器備品・パソコンなど、幅広い資産が対象です。適用期限は令和11年3月31日まで延長されています。 - いくらでも使えるのですか。
- いいえ、年間合計300万円が上限です。この上限は令和8年度改正後も変更ありません。上限を超えた分は、通常の減価償却か、20万円未満であれば一括償却資産で処理することになります。
- 医療法人でも使えますか。
- 使えます。ただし青色申告をしていることが前提条件です。
白色申告の医療法人は対象外になるため、まずご自身の法人が青色申告であるかを確認してください。
また令和8年度改正で、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象から除外されています。
まず結論:40万円未満の資産は全額その年の経費にできる
少額減価償却資産の特例は、取得価額40万円未満の減価償却資産を、事業の用に供した事業年度にその全額を損金算入できる制度です。
医療法人であれば、超音波診断装置の周辺機器、待合室や診察室の什器備品、電子カルテ用のパソコンなど、日常的な設備投資の多くがこの金額帯に収まります。
この「40万円未満」という基準は、令和8年度税制改正で従来の30万円未満から引き上げられたもので、令和8年4月1日以後に取得する資産から適用されます。
令和8年3月31日以前に取得した資産については、従来どおり30万円未満が基準になりますので、取得時期による切り分けにご注意ください。
あわせて適用期限も3年延長され、令和11年3月31日までに取得等をした資産が対象です。
この切り替わりの日付をまたぐ買い物、たとえば発注から搬入・据付まで数か月かかる医療機器については、 少額減価償却資産が40万円未満に|2026年4月をまたぐ医療機器の買い方で、 決算期ごとの判定と、消費税の経理方式・償却資産税との関係まで詳しく整理しています。
本来、減価償却資産は法定耐用年数にわたって少しずつ経費化するのが原則です。
この特例はその原則の例外であり、「今期、一括で経費にしてよい」という選択肢を追加するものだとイメージしてください。
38万円のパソコンを令和8年4月以後に購入した場合、通常の減価償却なら耐用年数(4年)にわたって毎年少しずつ経費になります。
しかしこの特例を使えば、購入した事業年度に38万円を全額経費にできます。
改正前の基準(30万円未満)では対象外だった30万円台の資産も、令和8年4月1日以後の取得分から対象に入ってきます。
前提条件:青色申告をしている中小企業者等であること
この特例を使うための大前提が、青色申告をしていることです。白色申告の医療法人は、そもそもこの特例の対象になりません。
加えて「中小企業者等」であることが要件になります。
株式会社であれば資本金の額で判定されますが、医療法人には資本金という概念がなく、常時使用する従業員数などの基準で実務上の該当性を判断することになります。
この点、令和8年度税制改正で常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象から除外されました。
多くの医療法人は要件を満たしますが、分院展開が進んで規模が大きくなっている法人などは、念のため顧問税理士に確認しておくと安心です。
「うちは青色申告のはず」と思い込んでいても、設立初年度の届出漏れなどで実は白色申告のままになっているケースがまれにあります。
特例を前提に予算を組む前に、直近の申告書で青色申告であることを確認してください。
混同しやすい3つの制度を比較する
「少額の資産を買ったときの経理処理」には、実は3つの選択肢があります。金額の区切りが近いため混同されがちですが、それぞれ性格が異なります。
| 制度 | 対象となる取得価額 | 経費にするタイミング | 年間の上限額 |
|---|---|---|---|
| 通常の減価償却 | 金額の制限なし(すべての資産) | 法定耐用年数にわたって毎年少しずつ | 上限なし |
| 一括償却資産 | 20万円未満 | 3年間で均等に(1/3ずつ) | 上限なし |
| 少額減価償却資産の特例 | 40万円未満(令和8年4月1日以後の取得分。それ以前は30万円未満) | 取得した事業年度に全額 | 年300万円まで |
ここでいちばん重要なのが、一括償却資産には年間の上限額がないという点です。
少額減価償却資産の特例は即時に全額経費化できる分、年300万円という上限の制約を受けます。
一方、一括償却資産は3年に分けて償却する代わりに、この上限を気にせず使えます。
つまり、20万円未満の資産については、その年にすでに特例枠を使い切っているかどうかで、一括償却資産に切り替えるという選択肢が生まれます。
逆に20万円以上40万円未満の資産は、特例を使うか通常の減価償却にするかの二択になります。
なお、一括償却資産(20万円未満・3年均等償却)の仕組みは令和8年度改正後も変更ありません。
年300万円の上限——医療法人の設備投資でどう使うか
少額減価償却資産の特例には、年間合計300万円という上限があります。この300万円は資産1件ごとではなく、その事業年度に特例を適用したすべての資産の取得価額の合計で判定します。
医療機器の周辺機器を複数台まとめて更新した年度や、内装のリニューアルに合わせて什器を一斉に入れ替えた年度は、この300万円にすぐ到達します。
上限を超えた分については、通常の減価償却で耐用年数にわたって経費化するか、20万円未満のものであれば一括償却資産に振り分けるといった組み合わせを検討することになります。
期中に少額の資産をこまめに購入していると、年間累計額の把握が後回しになりがちです。
どの資産にどの処理を使うかは、購入のたびにではなく、事業年度単位で一覧にして管理することをおすすめします。
決算間際に慌てて数え直す、という事態を避けられます。
決算期末の「駆け込み購入」をどう考えるか
この特例を知ると、「決算が近いから、今のうちに何か買って経費を増やそう」という発想が出てきます。しかし、これは順序が逆です。
少額減価償却資産の特例は、あくまで「必要な設備投資をしたときに、その経理処理をどう選ぶか」という制度であって、購入そのものの動機になるべきものではありません。
診療に不要な物品を、節税のためだけに決算月に買い急ぐのは、キャッシュを法人の外に出しているだけで、法人の資産形成という観点では本末転倒です。
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設備投資は、まず診療体制や職員の働きやすさ、患者さんへのサービスとして必要かどうかで判断し、その結果として生じた支出をどう経費化するかの選択肢として、この特例を使っていただくのが本来の順序です。
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。