機器や備品を買ったとき、ふつうは何年かに分けて少しずつ経費にしていきます。 でも金額が小さいものは、買った年に全額まとめて経費にしていい——そういう決まりがあります。

その「小さいもの」の線が、30万円未満から40万円未満に上がりました。 35万円のオートクレーブが、その年に全部落とせるようになった、ということです。

ニュースとしては「10万円増えた」で終わる話です。 ただ、これが2026年4月1日という線を1本引きました。 機器の買い方が、この線をどちら側でまたぐかで変わります。

この記事の結論

何がどう変わったのですか。
買った年に全額経費にできる金額が、30万円未満から40万円未満に上がりました。この制度が使える期間も3年延びて、令和11年3月31日までになりました。1年で合計300万円までという上限は、そのままです。
いつ買ったものから40万円になりますか。
2026年(令和8年)4月1日以後に買って、実際に使いはじめたものからです。ここで大事なのは、決算期は関係ないということ。たとえば12月決算の医院なら、1月〜3月に買ったものは30万円、4月以後に買ったものは40万円。同じ1年の中で線が分かれます。
医院として、気をつけることは。
2つあります。ひとつは、同じ機器でも医院によって答えが変わること。消費税の帳簿のつけ方(税込か税抜か)で、40万円かどうかの見方が変わります。もうひとつは、全額経費にしても、その機器には毎年「償却資産税」がかかり続けることです。

変わったのは、この3つだけです

あらためて整理すると、こういう制度です。
青色申告をしている医療法人が、一定額より安い医療機器などを買ったときは、その年に全額を経費にできる。

その「一定額」が動きました。

 これまでこれから
全額経費にできる金額30万円未満40万円未満
いつまで使える制度か令和8年3月31日まで令和11年3月31日まで
1年で使える合計額300万円300万円(変わりません

上がったのは1台あたりの金額だけです。 1年で300万円までという枠は、そのまま据え置かれました。

つまり、1台あたりの金額が大きくなったぶん、枠の減りは早くなります。 30万円のものなら10台入りましたが、40万円のものなら7台で打ち止めです。ここが実務でいちばん効いてきます。

決算期ではなく「いつ買ったか」で決まります

いちばん間違えやすいのが、ここです。

「うちは3月決算だから、来期から40万円だな」——そう思われた先生。そうではありません。

線が引かれるのは2026年4月1日という日付です。 決算期がいつであっても、全国いっせいに、この日で切り替わります。

医院の決算期30万円の線で見るもの40万円の線で見るもの
3月決算2026年3月31日までに買ったもの2026年4月1日以後に買ったもの
12月決算2026年1月〜3月に買ったもの2026年4月〜12月に買ったもの
9月決算2025年10月〜2026年3月に買ったもの2026年4月〜9月に買ったもの

3月決算以外の医院では、ひとつの決算の中に、2つの線が同時に存在します。

35万円のオートクレーブを、2月に入れたか、5月に入れたか。 前者は何年かに分けて経費、後者はその年に全額経費。まったく逆の結果になります。

決算のときに、金額だけ見て機械的に分けると、ここで取り違えます。 買った日を必ず確認してください。

納品と使いはじめが、年度をまたぐとき

医療機器は、契約して、納品されて、据え付けて、使い方を教わって……と、工程が分かれます。 支払いのタイミングもバラバラです。

この制度は「買って、実際に使いはじめた」ことが条件です。 3月に納品されて、4月から診療で使いはじめた——こういうとき、どちらの線で見るのかが問題になります。

原則は買った時期で整理しますが、30万円台の機器で年度末をまたぐなら、事前に顧問税理士に聞いてください。 契約書と納品書の日付をそろえておくことも大事です。あとから「4月納品にしておけば」と思っても、日付は動かせません。

新しく空いた「30万円台」に、何が入るか

今回あらたに対象になったのは、30万円以上40万円未満のゾーンです。 これまでは「30万円をちょっと超えるから」という理由で、何年かに分けるしかなかった価格帯です。

CTやMRI、歯科用ユニットの本体のような数百万円のものは、もちろん入りません。 入ってくるのは、その周りにあるものです。

どれも、機種によって30万円台に収まったり超えたりする価格帯です。 「30万円をちょっと超えるから、今期は見送ろう」としていた買い物が、そのまま経費にできるようになった。 これが、今回のいちばん実務的な変化です。

本体と付属品は、まとめて数えます

金額を見るときは、1台(1セット)ごとです。 本体と、それがないと動かない付属品、それに据付の費用も、まとめて1つの金額として見ます。

「本体を39万円に抑えて、付属品は別の注文にすれば」——これは通りません。 実際に一体で使うものなら、合計で判断されます。

同じ機器でも、医院によって答えが変わります

ここは、一般の会社向けの記事にはあまり出てこない話です。でも医院にとっては大事なところです。

40万円かどうかを見るとき、税込で見るか税抜で見るかは、医院の帳簿のつけ方で決まります。 税抜で帳簿をつけている医院は税抜の金額で、税込でつけている医院は税込の金額で判断します。 医院の消費税そのものについては、払った消費税が返ってこない話簡易課税と本則課税のどちらが得かに書きました。

同じ機器でも、こうなります。

 税抜で帳簿をつけている医院税込で帳簿をつけている医院
本体38万円・消費税3.8万円の機器380,000円で判断 → その年に全額経費418,000円で判断 → 使えません
本体35万円・消費税3.5万円の機器350,000円で判断 → 全額経費385,000円で判断 → 全額経費

なぜ医院で違いが出るのか。保険診療の収入には消費税がかからないからです。

そのため医院は、消費税を納めていなかったり、簡易な計算方法を選んでいたり、税込で帳簿をつけていたり—— 一般の会社とは違う形になっていることが少なくありません。

税込で帳簿をつけている医院なら、実質的な上限は本体価格で36万3千円くらいまで。 「40万円」という数字だけ見て機種を選ぶと、ぎりぎりのところで外れます。

この制度のために、帳簿のつけ方を変えないでください

税込か税抜かは、消費税の計算そのものとつながっています。 この制度を使いたいから今年だけ変える、という性質のものではありません。

まずうちはどちらなのかを確認する。そのうえで、その基準で機器の値段を見る。順番はこちらです。

全額経費にしても、償却資産税は毎年きます

もうひとつ、見落とされやすい話です。

この制度を使って全額を経費にした機器も、「償却資産税」という税金の対象としては残り続けます。 法人税の計算では一気に費用にしていても、市町村への申告では、毎年その機器を書き続けることになります。

買った値段経費にする方法償却資産税
10万円未満買った年に全額かかりません
20万円未満3年で均等に(一括償却資産)かかりません
40万円未満買った年に全額(今回の制度)かかります
それ以上何年かに分けてかかります

償却資産税には、合計が150万円に届かなければかからないという線があります。 小さいクリニックでは、この線に届かず、実際には払っていなかった医院も多いはずです。

でも上限が40万円に上がって、毎年300万円の枠を使い切るような買い方を続けると—— これまで払っていなかった医院に、償却資産税が新しく出てくることがあります。

法人税で一気に落とせた気持ちよさの裏で、翌年から固定費が積み上がっていく。そういう構造です。

とくに20万円前後のもの。3年で均等に落とす方法を選べば、償却資産税はかかりません。 「今年の経費を最大にする」だけで決めると、この選択肢が見えなくなります。

300万円の枠は、どこから使うか

1年で300万円という枠は、変わっていません。 1台あたりの金額が上がったということは、枠がなくなるのが早くなったということでもあります。

同じ年にいくつも機器を入れるなら、どれにこの制度を使うかで、その年の経費の額が変わります。 考える順番は、こうです。

  1. 10万円未満のものは、枠を使わない。そもそも買った年に全額落ちますし、償却資産税もかかりません
  2. 20万円未満のものは、3年均等という手がある。枠を使わずに済み、償却資産税もかかりません
  3. 枠は、20万円以上40万円未満に優先して当てる。この価格帯だけは、この制度を使わないと何年かに分けるしかありません。いちばん効きます
  4. あふれた分は、ふつうに何年かに分ける。来期にずらせる買い物なら、枠を2年に分けるという手もあります
こまかいところ2つ

決算期を変えるなどして、その期が12か月に満たないときは、300万円の枠も月割りで小さくなります。

それと、この制度を使うには申告書に明細をつける必要があります(別表十六(七)という書類です)。 顧問税理士がやってくれる部分ですが、「つけ忘れたら使えない」ものだとは知っておいてください。

それでも、買う理由が先です

上限が40万円に上がったと聞くと、「決算前に40万円未満のものをまとめて買っておこう」となりがちです。 毎年この時期に必ず出る話ですが、順番が逆です。

40万円の機器を買って全額経費にしても、税金が軽くなるのは12万円くらいです。 残りの28万円は、医院から出ていったままです。

診療に必要な機器なら、それは投資です。 必要ないものなら、28万円を捨てたのと変わりません。

当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 設備は、まず診療に必要か、スタッフが働きやすくなるか、患者さんのためになるかで決めてください。

そのうえで、必要だと決まった買い物を「いつ」「どの方法で」入れるかを組み立てる。 今回の改正が効いてくるのは、この後半だけです。

2026年4月1日という線と、税込か税抜かの違い。 どちらも「買うかどうか」ではなく「買い方」を変える改正だとお考えください。

出典:令和8年度税制改正(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例/租税特別措置法第67条の5)。 制度の基本的な内容は、国税庁タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」による。 償却資産税の取扱い(免税点150万円)は地方税法による。いずれも2026年9月時点の制度です。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。