帳簿を税込で付けるか、税抜で付けるか。 経理の細かい話に見えますが、医院では、ここで納める税金が変わります。

しかも一般の会社と、答えが逆になります。 会社の教科書には「税抜経理のほうが有利」と書いてあることが多い。 医院は、たいてい税込経理のほうが楽です。

理由は1つ。保険診療に消費税がかからないからです。

この記事の結論

2つの違いは何ですか。
税込経理は、消費税を含んだ金額でそのまま帳簿に付けます。税抜経理は、消費税を分けて別に記録します。どちらを選んでもよく、届出も要りません。
医院はどちらがいいですか。
たいていは税込経理です。税抜にすると、医院では「引けなかった消費税」が大量に出て、その一部を5年かけて少しずつ経費にすることになります。手間が増えて、経費になるのも遅れます。
税込にすると損なことはありますか。
あります。機器や備品の「いくらまでなら全額経費」という線を、税込で見ることになります。40万円未満の特例なら、税抜36万4千円の機器が税込40万1千円になって、使えなくなることがあります。

2つの付け方があります

110万円の機器を買ったとします。本体100万円、消費税10万円です。

 帳簿に載る機器の値段消費税10万円の扱い
税込経理110万円機器の値段に含めてしまう
税抜経理100万円別に記録して、申告で精算する

どちらを選んでもかまいません。届出も要りません。 ただし途中でころころ変えるものではなく、医院全体で統一します。

医院が税抜にすると、何が起きるか

税抜経理は、こういう考え方です。

「払った消費税10万円は、あとで申告のときに引けるから、 経費ではなく“預けたお金”として別にしておこう」

ふつうの会社ならこれで合います。払った消費税はほぼ全額引けるからです。

ところが医院は、払った消費税のほとんどを引けません。 保険診療が消費税のかからない売上なので、そこに対応する分は取り戻せないのです。 くわしくは払った消費税が返ってこない話に書きました。

つまり、こうなります

税抜経理で「あとで引ける」と思って別にしておいた10万円のうち、 引けるのは自費の割合の分だけ。自費が1割なら1万円です。
残りの9万円は、行き場を失います。これを引けなかった消費税といいます。

この「引けなかった消費税」を、どう処理するか。 ここで手間が増えます。

5年かけて経費にする、という扱い

引けなかった消費税は、中身によって扱いが分かれます。

何について出たか扱い
経費(材料・光熱費・委託費など)についてその年に全額経費
機器・建物などについて
(1つで20万円未満)
その年に全額経費
機器・建物などについて
(1つで20万円以上)
5年に分けて少しずつ経費

問題は3段目です。 1つの機器について引けなかった消費税が20万円以上あると、その年に全部は経費にできません。 5年(60か月)に分けます。しかも最初の年は、その半分だけです。

3,000万円の機器で試すと

消費税300万円。自費の割合が10%なら、引けるのは30万円。引けなかった分は270万円。
20万円以上なので、5年に分けます。最初の年に経費にできるのは27万円だけ
税込経理なら、この270万円は機器の値段に含まれて、耐用年数で普通に減価償却されます。

なお、その年の自費の割合が8割以上なら、引けなかった分もその年に全額経費にできます。 ただし自費が8割を超える医院は、美容や自由診療専門くらいです。 保険診療をやっている医院には、まず当てはまりません。

税込にしたときの、唯一の弱点

では税込経理に弱点はないのか。1つだけあります。

「いくらまでなら全額経費にできるか」という線を、税込で見ることになることです。

機器の値段税抜経理なら税込経理なら
税抜36万4千円(税込40万円)36万4千円で判定 → 使える40万円ちょうどで判定 → 使えない
税抜30万円(税込33万円)30万円で判定 → 使える33万円で判定 → 使える

40万円未満なら買った年に全額経費にできる特例があります。 少額減価償却資産が40万円未満にに書いたとおりです。

税込経理だと、この40万円の線に届きにくくなります。 税抜36万4千円を超えると、もう使えません。

とはいえ、この差で不利になるのはちょうど境目にある機器だけです。 一方、さきほどの「5年に分けて経費」は、高い機器を買うたびに効いてきます。 どちらの影響が大きいかといえば、後者です。

消費税を納めていない医院は、選べません

自費が年1,000万円以下で消費税を納めていない医院は、 税込経理しか選べません。

消費税を精算する申告そのものがないので、分けて記録する意味がないからです。 迷う必要がありません。

自分がどちらか分からない場合は、 自費が1,000万円を超えたらをご覧ください。

では、どう決めるか

医院の状況おすすめ
消費税を納めていない税込経理(それしかありません)
簡易課税を選んでいるどちらでも。手間の少ない税込経理で十分
本則課税・自費が5割未満税込経理。引けない消費税が多く出るため
本則課税・自費が8割以上税抜経理。ふつうの会社と同じ考え方でよい

保険診療をやっている医院なら、ほとんどが上の3つに入ります。 つまり、税込経理です。

「一般の会社は税抜のほうが有利」という話を聞いて、 わざわざ税抜に変えた医院を見たことがあります。 医院では、逆になることがあると覚えておいてください。

最後に。 この選択は、節税というより手間と分かりやすさの問題です。 税込経理なら、通帳や請求書の金額がそのまま帳簿に載ります。 先生が試算表を見たときに、実際に動いたお金と数字が一致する。 忙しい先生にとって、それがいちばん大きいと思います。

出典:国税庁タックスアンサー No.6921「控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理」 (税抜経理方式で課税売上高5億円超または課税売上割合95%未満のときに控除対象外消費税額等が生じる。 資産に係るものは、課税売上割合80%以上、または一の資産に係る金額が20万円未満であればその事業年度の損金。 それ以外は繰延消費税額等として60で除して事業年度の月数を乗じた金額の範囲内で損金算入し、 取得年度はその2分の1。経費に係るものは全額その事業年度の損金)。 少額減価償却資産の判定金額は、採用している消費税の経理方式による。 同 No.6501「納税義務の免除」。試算は分かりやすさを優先した目安です。いずれも2026年9月時点。

いまの帳簿がどちらか、確かめてみませんか。

決算書と試算表を見れば、どちらの方式で付けているかはすぐ分かります。 医院の自費の割合に照らして、いまのままでよいか、変えたほうがよいかをお伝えします。 変えるなら、期の途中ではなく期首からが基本です。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。