災害が起きたときの義援金、地域の医療活動や研究への支援、母校への寄附。

医療法人を運営していると、寄附を検討する場面は思いのほかあります。

そのとき先生が気にされるのは、たいてい「これは経費になるのか」という点かと思います。

結論から申し上げると、寄附金は「出せば全額が経費」という支出ではありません。

寄附先がどこかによって扱いが三つに分かれ、しかも医療法人の場合は、株式会社を前提に作られた限度額の計算式をそのまま当てはめにくいという事情もあります。

さらに、法人で出すか理事長個人で出すかによって、税負担の結果は変わります。この記事では、その全体像を整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

医療法人が寄附をすれば、全額が経費になりますか。
寄附先によります。国や地方公共団体への寄附金と、財務大臣が指定した指定寄附金は全額が損金になります。

日本赤十字社などの特定公益増進法人への寄附金は別枠の限度額まで、それ以外の一般の寄附金は所定の限度額までしか損金になりません。
法人で寄附するのと、理事長個人で寄附するのは、どちらが得ですか。
一概には決まりません。
法人側は損金算入限度額という壁があり、個人側は寄附金控除(所得控除)か、対象によっては税額控除を選べます。

どちらの財布から出すかで結果が変わるため、金額が大きい寄附ほど、出す前に試算する価値があります。
節税のために寄附をするのは有効ですか。
おすすめしません。寄附した金額より、減る税金のほうが必ず小さくなります。

手元のお金を増やしたいという目的であれば、寄附は手段になりません。

支援したい先があるかどうかが先で、税務上の扱いは後から確認するものとお考えください。

法人の寄附金は三つに分かれる——損金になる範囲

法人が支出した寄附金は、寄附先の性格によって三つに区分され、それぞれ損金にできる範囲が異なります。まずはこの地図を頭に入れておくと、迷いにくくなります。

区分寄附先の例損金になる範囲
国等に対する寄附金・
指定寄附金
国、都道府県、市町村への寄附金/財務大臣が指定した寄附金(震災等の義援金で指定を受けたものなど) 全額が損金算入
特定公益増進法人等への寄附金 日本赤十字社、公益社団法人・公益財団法人、独立行政法人など 一般の寄附金とは別枠で設けられた特別損金算入限度額の範囲内
一般の寄附金 上記以外への寄附(各種団体、任意団体など) 損金算入限度額の範囲内のみ。超えた部分は損金にならない

ポイントは二つです。ひとつは、いちばん上の区分だけが「全額」で、あとの二つには天井があるということ。

もうひとつは、特定公益増進法人への寄附は一般の寄附金とは別枠で計算されるため、同じ金額を出すなら扱いが有利になりやすい、ということです。

「指定寄附金」は自動では決まりません

災害時の義援金であっても、すべてが全額損金になるわけではありません。全額損金となるのは、地方公共団体が直接受け入れるものや、財務大臣の指定を受けたものです。

受付団体によって扱いが変わるため、寄附する前に、受領証や募集要項でどの区分に当たるかを確認しておくのが確実です。

限度額はどうやって計算されるのか

一般の寄附金の損金算入限度額は、「資本金等の額」を基礎にした部分と、「所得金額」を基礎にした部分を合計し、さらに一定割合を掛けて求める仕組みになっています。

特定公益増進法人への特別損金算入限度額も、率は違いますが考え方は同じです。

つまり、会社の規模(資本金等)と、その年の儲け(所得)が大きいほど、損金にできる枠も大きくなるという設計です。

逆にいえば、赤字の年に多額の寄附をしても、損金にできる枠はほとんど生まれません。

法人の寄附金は、国や地方公共団体への寄附金と指定寄附金は全額損金、特定公益増進法人等への寄附金は別枠の限度額まで、一般の寄附金は限度額の範囲内のみ損金になる。寄附した金額より減る税金のほうが必ず小さい。
寄附先の区分で、損金になる範囲が3つに分かれます。

医療法人には資本金がない——限度額計算のつまずきどころ

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい論点です。

前の章で見たとおり、限度額の計算には「資本金等の額」が登場します。

ところが医療法人には、株式会社でいう資本金という概念がありません。

設立時に拠出されるのは出資金や基金であり、持分のない医療法人や財団医療法人となると、そもそも出資という形すら取りません。

【要確認】ここは顧問税理士に必ず確認してください

資本金がない医療法人で、限度額計算の「資本金等の額」をどう扱うかは、法人の類型(持分あり社団/持分なし社団/財団)や設立の経緯によって判断が分かれうる部分です。

仮に資本金等の額を基礎とする部分がゼロとして計算されるのであれば、限度額は所得金額を基礎とする部分だけで決まり、株式会社より枠が小さくなる可能性があります。


本記事では断定を避けます。

寄附の実行前に、ご自身の医療法人でいくらまで損金になるのかを、顧問税理士に必ず試算してもらってください。金額が大きい寄附ほど、この一手間の差が効きます。

なお、区分が「国等に対する寄附金・指定寄附金」に当たるのであれば、そもそも限度額の計算は登場せず全額が損金になります。

限度額の論点が問題になるのは、二つ目・三つ目の区分に当たる寄附だとご理解ください。

理事長個人で寄附した場合——所得控除と税額控除

同じ寄附を、法人ではなく理事長個人の財布から出した場合はどうなるか。個人の場合は、寄附金控除という所得控除が用意されています。

仕組みはシンプルで、その年に支出した特定寄附金の額から2,000円を差し引いた金額が、所得から控除されます。

ただし上限があり、控除の対象にできる寄附金の額はその年の総所得金額等の40%相当額までとされています。

所得控除ですから、減る税金は「控除額×先生の税率」です。

さらに、寄附先によっては税額控除を選べます。

政党等、認定NPO法人等、公益社団法人・公益財団法人等に対する一定の寄附金がこれに当たり、所得控除と税額控除のどちらか有利なほうを選択できます。

税額控除は税金そのものから直接差し引く仕組みなので、税率が高くない方ほど有利になりやすい、という関係にあります。

ふるさと納税も、この寄附金控除の仲間です

ふるさと納税は、制度としては地方公共団体への寄附であり、所得税では寄附金控除、住民税では税額控除という形で処理されます。

返礼品があるぶん独特の存在に見えますが、税務上の骨格はここで説明した寄附金控除と地続きです。

理事長の所得水準では限度額の考え方に固有の注意点があるため、医療法人の理事長とふるさと納税|限度額と落とし穴で別途整理しています。

法人で出すか、個人で出すか——判断の考え方

ここまでを踏まえると、同じ寄附でも、どちらの財布から出すかで税負担の結果は変わることがわかります。実務では、おおむね次のような整理になります。

医療法人で寄附する理事長個人で寄附する
効き方 損金算入により、法人の所得が減る 所得控除(または税額控除)により、個人の所得税・住民税が減る
上限 区分によって全額/別枠限度額/限度額。資本金がないことの影響を要確認 控除対象は総所得金額等の40%まで。控除額は支出額から2,000円を差し引いた金額
有利になりやすい場面 全額損金となる区分の寄附/法人の所得が大きい年 理事長の適用税率が高い場合/法人側の限度額が小さい場合/税額控除を選べる寄附先の場合
お金の出どころ 法人の資金。医療法上の適否も検討が必要(次章) 役員報酬として課税済みの手取りから支出

たとえば、全額損金になる区分の寄附であれば、法人から出したほうが素直です。

一方で、一般の寄附金に当たり、かつ法人側の限度額が小さいのであれば、法人で出した部分は損金にならず、単にお金だけが出ていくことになります。

その場合は、個人で寄附して寄附金控除や税額控除を使うほうが結果的に有利になることもあります。

判断の順序としては、①寄附先がどの区分か ②法人側で損金にできる枠がいくらあるか ③個人側の税率と控除の選択肢 ④医療法上・運営上の適否——この四つを確認してから、どちらで出すかを決める、という流れになります。

「節税のための寄附」は、そもそも成り立ちません

大前提として申し上げておきます。寄附した金額よりも、減る税金のほうが必ず小さくなります。

100万円を寄附して全額が損金になったとしても、軽くなる法人税等はその一部にすぎず、手元のお金は確実に減ります。


お金を残すことが目的なら、寄附は手段になりません。

寄附は「支援したい先があるから出す」ものであって、税務上の扱いは、出すと決めたあとにいちばん無駄のない出し方を選ぶために確認するものです。

順序を逆にしないことをおすすめします。

医療法人ならではの注意点——非営利性という壁

最後に、医療法人だからこそ注意していただきたい点です。医療法人には非営利性が求められており、これは税務とは別の軸で効いてきます。

地域の医療活動への支援、災害時の義援金、学術・研究への寄附といったものは、医療法人の目的と結びつきを説明しやすい支出です。問題になりやすいのは、その外側にあるケースです。

注意

特定の個人への金銭の交付理事長やその親族が関係する会社への支出営利企業への実質的な利益供与と受け取られかねない寄附——こうした支出は、損金になるかどうか以前に、医療法人としての非営利性に反しないかという問題になりえます。

都道府県への事業報告や指導監査の場面で説明を求められる可能性もあり、税務上の損得だけで判断すべきではありません。

裏を返せば、「なぜ当法人がこの寄附をするのか」を第三者に説明できるかどうかが、実務上のいちばん確かな判断基準になります。

理事会の議事録に目的と経緯を残しておく、受領証を保管しておく、といった基本的な手当てが、あとから効いてきます。

寄附は、医療法人の姿勢を地域に示す行為でもあります。

だからこそ、気持ちよく出したうえで、税務上も取りこぼしがない形にしておくのがいちばんです。

その順序を整えるお手伝いが、私たちの役目だと考えています。

その寄附、どちらの財布から出すのが良いか、一度ご相談ください。

すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。

寄附を予定されている場合は、法人側で損金にできる枠がいくらあるか、個人で出したほうが有利になる余地があるかも含めて、気づいた点をお伝えします。

金額が大きい寄附ほど、出す前のご相談が効きます。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。