役員報酬は「定期同額給与」——毎月同じ額を支払うこと——が原則で、理事長・理事に賞与(ボーナス)を出しても、それは経費になりません。

多くの先生がそう理解されていますが、これは半分だけ正しい話です。

あらかじめ税務署に届け出ておけば、理事に対する賞与も全額を経費にできる制度があります。

「事前確定届出給与」という仕組みです。

ただしこれは、金額も支給日も、届け出たとおりに1円・1日の狂いもなく実行して初めて成立する、かなり厳格な制度でもあります。

この記事では、制度の要件と、医療法人がこれを使う意味を整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

事前確定届出給与とは何ですか。
理事に対する賞与をあらかじめ税務署に届け出ることで、経費(損金)として認められる制度です。定期同額給与とは別枠の制度で、医療法人の理事にも使えます。
届け出た金額・支給日とずれたらどうなりますか。
原則として、その支給額の全額が経費になりません。
差額だけが否認されるのではなく、1円でも・1日でもずれれば、支給した金額の全部が損金不算入になる「オールオアナッシング」の制度です。
なぜこの制度を使うのですか。
毎月同額の報酬だけでは硬直的な受け取り方しかできませんが、賞与を組み合わせることで理事の受け取り方に柔軟性が生まれます。

加えて、社会保険料の面でメリットが出る場合があります。(正確な仕組みは本文でご説明します)

事前確定届出給与とは——定期同額給与だけでは出せない「賞与」

理事長・理事に支払う報酬を法人の経費にするには、原則として「定期同額給与」——毎月、同じ金額を支払うこと——でなければなりません。

期の途中で「今期は利益が出そうだから」と増額しても、増やした部分は経費として認められないのが原則です。

では、理事に賞与(ボーナス)を出すことは一切できないのかというと、そうではありません。

「事前確定届出給与」という、定期同額給与とは別枠の制度を使えば、決まった時期に決まった金額を支給する賞与を、経費にすることができます。

名前のとおり、「いつ・誰に・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出ておくことが条件です。

つまり、こういうことです

毎月の報酬は「定期同額給与」、賞与は「事前確定届出給与」。

この2つの制度を組み合わせることで、理事長・理事への支払い方に幅が生まれます。そしてこの制度は、株式会社の役員だけのものではなく、医療法人の理事にも同じように使えます。

届出の期限——「1か月」と「4か月」、早いほうが基準

事前確定届出給与を使うには、次のいずれか早い日までに、税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。

医療法人の場合は「株主総会」にあたるのが社員総会です。

理事に対する賞与の支給を社員総会で決議し、その決議日から1か月以内、かつ期首から4か月以内という2つの基準のうち、早いほうまでに届け出る必要があります。

具体例

3月決算(4月1日開始)の医療法人で、5月20日の社員総会で理事の賞与支給を決議したとします。

「決議日から1か月」は6月19日、「期首から4か月」は7月31日。早いほうである6月19日が届出期限になります。

決算・総会のスケジュールによって期限は変わるため、毎期の届出期限は個別に確認が必要です。

「1円・1日」でも全額アウトという、オールオアナッシングのルール

この制度でもっとも注意すべきは、届け出た内容と、実際の支給が寸分違わず一致していなければならないという点です。

「100万円を12月10日に支給する」と届け出たとします。

実際に120万円を支給すれば、増えた20万円だけでなく、100万円を含めた支給額の全額が経費になりません。

逆に業績が振るわず80万円に減額して支給した場合も、その80万円が経費になりません。

支給日も同様で、届け出た日から1日でもずれれば、原則として同じ扱いになります。

注意——差額ではなく、全額が否認されます

定期同額給与の増額であれば「増やした差額だけ」が否認されますが、事前確定届出給与は金額・支給日のどちらかが1つでもずれると、支給した金額の全部が損金不算入になります。

しかも受け取った理事の側では、その賞与は所得税の課税対象のままです。

法人は経費にできないのに、個人には課税されるという、両方にとって最悪の結果を招きます。

届出をする以上、支給できる見込みが確実な金額・時期で設計することが欠かせません。

事前確定届出給与は、社員総会等で決議し、決議日から1か月または期首から4か月のいずれか早い日までに税務署へ届け出て、届け出た金額・支給日どおりに支給する。1円でも1日でもずれれば支給額の全額が損金不算入になる。
届出の期限は「1か月」と「4か月」の早いほう。ずれれば全額が損金不算入です。

医療法人がこの制度を使う理由——受け取り方の柔軟性と社会保険料

これだけ厳格な制度を、あえて使う理由は主に2つあります。

1つ目は、受け取り方の柔軟性です。定期同額給与だけでは、理事は毎月同じ金額しか受け取れません。

事前確定届出給与を組み合わせれば、月々の報酬を抑えめにして、賞与としてまとまった額を受け取る、といった設計ができるようになります。

2つ目は、社会保険料の面でメリットが出る場合があることです。社会保険料には、賞与にかかる部分(標準賞与額)に上限が設けられています。

制度標準賞与額の上限の考え方
健康保険年間累計で一定額が上限(それを超える部分には保険料がかからない)
厚生年金保険1回の支給につき一定額が上限(それを超える部分には保険料がかからない)

上限を超える部分の賞与には保険料がかからないため、報酬の一部を賞与に寄せることで、社会保険料の負担が変わるケースがあります。

上限額は制度改正で変わり得るため、実際の設計にあたっては最新の金額をご確認ください。

節税額そのものより、設計の話です

事前確定届出給与を使ったからといって、自動的に税負担が軽くなるわけではありません。

「月々の報酬」と「賞与」への配分をどう設計するかという話であり、法人の利益状況、理事ご本人の生活資金の必要額、社会保険料への影響を踏まえて、事前に組み立てておくべき論点です。

実務の流れと、税務調査で問題になりやすいポイント

事前確定届出給与を使う場合の大まかな流れは、次のとおりです。

順序内容
1社員総会等で、理事ごとの支給額・支給日を決議する
2決議日から1か月・期首から4か月のいずれか早い日までに、届出書を税務署へ提出する
3届け出た金額・支給日どおりに、実際に支給する
4議事録・振込記録など、決議と支給が一致していることを示す証跡を残す
税務調査で問題になりやすいパターン

届出書の提出を忘れる支給日が1日ずれる(振込手続きの都合で前後させてしまう等)/金額を届出後に変更したのに、届出をやり直していない社員総会の議事録がなく、決議の事実を示せない、といったケースが典型です。

制度そのものは正当でも、実務の細部で1つでもずれると全額が否認されるという点を、実行前に必ず押さえておく必要があります。

定期同額給与と事前確定届出給与は、どちらも一長一短のある制度です。

理事の受け取り方をどう設計するかは、法人の利益計画・社会保険料への影響まで含めて、事前に決算書の数字で確認してから進めることをおすすめします。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。