医療法人は配当ができません。 法律で決まっているので、変えられません。
では、法人にたまった利益を、理事長はどうやって受け取るのか。 使える出口は、3つしかありません。
しかも3つとも、何年も前から準備しないと使えないものです。 順番に書きます。
この記事の結論
- 出口は何ですか。
- ①理事報酬 ②退職金 ③出資持分の3つです。日々受け取るのが①、やめるときが②、そして相続や譲渡のときが③。この3つの組み合わせで設計します。
- どれがいちばん有利ですか。
- 退職金です。同じ1,000万円でも、毎月の報酬で受け取るのと退職金で受け取るのとでは、税金も社会保険料も大きく違います。ただし、出せるのは一度きりです。
- いつから準備するのですか。
- 10年以上前からです。退職金は勤続年数で有利さが変わりますし、持分の対策はもっと時間がかかります。やめる直前に相談されても、できることはほとんどありません。
出口は3つしかありません
| いつ | 税金の扱い | 社会保険料 | |
|---|---|---|---|
| 理事報酬 | 毎月 | 給与として課税(累進) | かかります |
| 退職金 | やめるとき | 退職所得。かなり軽い | かかりません |
| 出資持分 | 相続・譲渡のとき | 相続税または譲渡所得 | かかりません |
株式会社なら、ここに配当が入ります。 決算後に利益を見てから決められて、社会保険料もかからない。使い勝手のいい手段です。
医療法人は、その1枚が最初からありません。 だから残り3枚の使い方が、より重要になります。
① 理事報酬——毎年の受け取り
いちばん基本の出口です。ただし使い勝手はよくありません。
| 制約 | |
|---|---|
| ① | 毎月同じ額でないと経費になりません |
| ② | 変えられるのは決算後3か月以内だけ |
| ③ | 上げれば所得税・住民税・社会保険料が全部上がります |
| ④ | 高すぎると、その部分は経費になりません |
②が効きます。期首に決めた額で、1年走ることになります。 その年の利益が想定より大きく出ても、報酬では受け取れません。
賞与に寄せて社会保険料を抑える方法もありますが、 医師国保の医院では効きません。ここは先に確かめてください。
② 退職金——いちばん有利な受け取り方
配当がない医療法人にとって、退職金は最大の出口です。
| 退職金が有利な理由 | |
|---|---|
| ① | 勤続年数に応じて、大きな控除が引けます |
| ② | 控除を引いたあと、さらに半分にしてから税率をかけます |
| ③ | ほかの所得と合算せず、分けて計算します |
| ④ | 社会保険料がかかりません |
| ⑤ | 法人にとっては、経費になります |
①と②が大きい。勤続20年を超えると、控除が1年あたり70万円に増えます。 30年なら控除だけで1,500万円。そこを超えた分の、さらに半分にしか課税されません。
毎月の報酬で同じ額を受け取ったら、所得税・住民税・社会保険料で大きく削られます。 受け取り方を変えるだけで、手元に残る額が変わります。
高すぎる退職金は、経費になりません。
最終の報酬月額、勤続年数、職責。これらから見て妥当な範囲かを見られます。
そして役員としての勤続が5年以下だと、②の「半分にする」が使えません。
法人化してすぐ退職、という形では効かないということです。
くわしくは医療法人の理事長退職金に書きました。
準備は早いほうがいい。原資を積む時間が要ります。 「来年やめるので退職金を」と言われても、法人にお金がなければ出せません。
③ 出資持分——放っておくといちばん重くなる
3つ目です。そしていちばん放置されています。
持分のある医療法人だと、配当できない利益が法人にたまり続けます。 その積み上がりが、そのまま持分の評価額になります。
| 出口 | 何が起きるか |
|---|---|
| 相続 | 評価額に相続税。現金はないのに、税金は現金で払います |
| 譲渡 | 後継者が買い取る。買い取る側にお金が要ります |
| 払戻し | 法人から現金が出ていきます |
| 持分なしへ移行 | 要件を満たせば、認定を受けて移行できます |
持分なしの医療法人には、そもそもこの問題がありません。 2007年4月以降に設立された医療法人は、すべて持分なしです。
それ以前に設立された医療法人だけが、この宿題を抱えています。 先生の法人がどちらかは、定款を見れば分かります。 持分あり医療法人の相続で、実際に何が起きているかをご覧ください。
MS法人という話について
「配当できないなら、MS法人を作って利益を移せばいい」 ——そういう話を聞いたことがあるかもしれません。
正直に書きます。ひとり医師法人には、あまりお勧めしません。
| 理由 | |
|---|---|
| ① | 実態が要ります。本当に業務を行い、相場の対価であること |
| ② | 役員を兼ねることに制限があります |
| ③ | 一定規模を超える取引は、都道府県への報告の対象になります |
| ④ | 法人がもう1つ増えるので、申告も維持費も2倍です |
| ⑤ | 税務調査で必ず見られます |
規模の大きい医院なら、成り立つことがあります。 でも院長ひとり+スタッフ数人の医院で、手間とリスクに見合うことは少ない。
先に①②③をきちんと組める体制があるかどうかを見てください。 「配当できないから」という理由だけで作るものではありません。
3つをどう組み合わせるか
| 時期 | やること |
|---|---|
| 40代 | 理事報酬を適正化。法人にお金を残す土台を作る |
| 50代前半 | 退職金の原資を積み始める。持分の状況を確認する |
| 50代後半 | 持分の対策を決める(移行するか、承継するか) |
| 60代 | 退職金を実行。承継の実務に入る |
どれも数年から十数年かかります。 「そろそろやめようと思って」と相談に来られた時点では、もう選べる手が残っていません。
最後に、いつもの話を。 受け取り方を工夫するのは節税ですが、無理に受け取ろうとするのは違います。
働いていない家族に報酬を出す、相場から離れた取引をする。 これは実質的な配当と見られますし、税務でも否認されます。 使える出口を、正しく、早く使う。それだけです。
出典:剰余金の配当の禁止は医療法第54条。 持分の定めのある社団医療法人は、平成19年4月1日施行の第五次医療法改正以後は新設できず、 既存のものは経過措置型医療法人として存続する(医療法および同改正法附則)。 役員給与の定期同額給与は法人税法第34条第1項第1号および同法施行令第69条、 不相当に高額な部分の損金不算入は同条第2項。 退職所得の計算(退職所得控除、2分の1課税、勤続年数5年以下の役員等に対する特例)は 所得税法第30条。 医療法人と関係事業者との取引に関する報告は医療法第51条・第52条。 個別の判断は事情によって異なります。いずれも2026年9月時点。
出口の設計は、10年計画です。
先生のご年齢、法人の利益、持分のあるなし、後継者の有無。 この4つが分かれば、いつ何を始めるべきかの道筋が引けます。 「まだ早い」と思われる時期こそ、選べる手がいちばん多いときです。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。