2026年10月1日から、インボイスの経過措置が80%から70%に下がります。

関係するのは、インボイスを出していない相手に払っているお金です。 歯科技工所、材料店、清掃、リネン、個人で来ている非常勤の先生。 医院の取引先には、意外とこういう相手がいます。

ただしまったく関係のない医院も多いです。 まず、自分が関係するのかどうかを3分で確かめてください。

この記事の結論

うちは関係ありますか。
消費税を納めていて、なおかつ本則課税の医院だけ関係します。消費税を納めていない医院(免税事業者)と、簡易課税の医院は、いっさい関係ありません。
何が変わるのですか。
インボイスを出せない相手に払った消費税について、いままで80%を引けていたのが70%になります。その先も、2028年10月に50%、2030年10月に30%、2031年10月には0%と下がっていきます。
いくら損しますか。
個人の技工所に年200万円払っている歯科医院で、年およそ7千円です。医院は保険診療が多く、もともと引ける額が小さいので、効き方も小さくなります。1回1万円未満の支払いなら、そもそもインボイスは要りません。慌てて取引先を変えるような話ではありません。

まず、自分が関係するか確かめる

順番に見てください。3つで終わります。

 確認結果
消費税を納めていますか納めていない → ここで終わり。関係ありません
簡易課税を選んでいますか選んでいる → ここで終わり。関係ありません
本則課税ですかそうなら、続きをお読みください

保険診療だけの医院は、たいてい①で終わります。 自費が年1,000万円以下なら消費税を納めていないので、 仕入の消費税を引く計算そのものがありません。

簡易課税を選んでいる医院も同じです。 簡易課税は実際に何を買ったかを見ない計算方法なので、 相手がインボイスを出せるかどうかは関係ありません。

自分がどれか分からない場合は、 自費が1,000万円を超えたらをご覧ください。

10月1日から70%。その先も下がります

インボイスを出せない相手に払った消費税は、本来なら1円も引けません。 ただし急に全部ダメにすると影響が大きいので、少しずつ下げる決まりになっています。

いつ払った分か引ける割合
〜2026年9月30日80%
2026年10月1日〜2028年9月30日70%
2028年10月1日〜2030年9月30日50%
2030年10月1日〜2031年9月30日30%
2031年10月1日〜0%(引けません)

もともとは2029年9月で終わる予定でしたが、2年延びて2031年9月までになりました。 そのかわり下がり方が細かくなり、70%と30%という段が新しく増えています。

日付は「払った日」で分かれます

決算月が9月や10月でなくても関係なく、2026年9月30日までの分は80%、10月1日からの分は70%です。 1つの事業年度の中で、途中から割合が変わります。

医院で引っかかるのは、この5つ

インボイスを出せないのは、消費税を納めていない小さな事業者と、個人の方です。 医院の取引先でいうと、こうなります。

相手ありがちな状況
歯科技工所個人でやっている技工士さん。登録していないことがある
清掃・リネン個人事業の業者さん
非常勤の先生雇用ではなく業務委託で払っている場合
大家さん個人の大家さんから借りている場合の家賃
駐車場近所の個人の方から借りている場合

大手の材料商社やメーカーは、まず登録しています。 問題になるのは個人でやっている相手です。

確かめ方は2つ

① 請求書に「T」で始まる13桁の番号があるか見る
② 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で番号を調べる

番号がなければ、その相手はインボイスを出していません。

なおスタッフの給料は、そもそも消費税がかかりません。 非常勤の先生も、雇用で給料として払っているなら関係ありません。 引っかかるのは「業務委託として報酬を払っている」場合だけです。

実際にいくら増えるのか

個人の技工所に、年200万円(税込)払っている歯科医院で考えます。 自費の割合は37.5%とします。

 2026年9月まで2026年10月から
支払いに含まれる消費税約18万円約18万円
経過措置で使える分80% → 14.5万円70% → 12.7万円
実際に引ける分(自費37.5%)約5.4万円約4.7万円
年 約7千円

年間7千円です。 正直に申し上げて、これで取引先を変える話にはなりません。

なぜこんなに小さいかというと、医院は保険診療が多いので、もともと消費税をあまり引けないからです。 引ける額が小さいので、その割合が10ポイント下がっても、金額としては大きくならない。

一般の会社なら全額引けるところが引けなくなるので、もっと痛い。 医院は、この改正の影響がいちばん小さい業種のひとつです。

1回1万円未満なら、インボイスは要りません

もうひとつ、知っておいていただきたい決まりがあります。

1回の支払いが税込1万円未満なら、インボイスがなくても全額引けます。 帳簿に書いておくだけで済みます。

 内容
使える医院2年前の課税売上が1億円以下(または前年上半期が5,000万円以下)
対象1回の支払いが税込1万円未満の課税仕入れ
いつまで2029年9月30日まで

判定は1回の取引ごとです。商品1つずつではありません。 1万2千円の請求書を、6千円の商品2つに分けて考えることはできません。

医院の自費売上が1億円を超えることはまずありませんので、 ほとんどの医院がこの特例を使えます。 少額の支払いについては、インボイスの有無を気にしなくて済みます。

取引先を変えるべきか

変えなくていい、というのが私の考えです。

理由は3つあります。

 理由
金額が小さい。年数千円〜数万円のために、腕のいい技工所を替えるのは損
1回1万円未満なら、そもそも関係ない
医院は保険診療が多いので、もともと引ける額が少ない

技工物の質は、患者さんの満足と再治療の手間に直結します。 年数千円の税金と、技工の質。比べるまでもありません。

ただし、やっておいたほうがよいことが1つあります。 主な取引先が登録しているかどうか、一度だけ確かめることです。 請求書に「T」で始まる番号があるかを見るだけです。 把握していれば、経理で迷わなくなります。

最後に。 相手に「登録してください」と迫るのは、やめたほうがいいと思います。 登録すれば相手は消費税を納めることになります。 小さな技工所にとっては大きな負担です。 年数千円のために、長年の取引先に負担を押しつける——医院がやることではありません。

出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」(インボイス制度の見直し)。 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置の控除可能割合は、令和8年10月1日〜令和10年9月30日が70%、 令和10年10月1日〜令和12年9月30日が50%、令和12年10月1日〜令和13年9月30日が30%、 適用期限を2年間延長。令和8年9月30日までは80%。 少額特例は国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要」により、 基準期間の課税売上高1億円以下または特定期間の課税売上高5,000万円以下の事業者が、 令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う税込1万円未満の課税仕入れについて、 帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる(判定は一回の取引ごと)。 試算は分かりやすさを優先した目安です。いずれも2026年9月時点。

先生の医院に影響があるかどうか、すぐ分かります。

消費税を納めているか、簡易課税か本則課税か。 この2つが分かれば、関係あるかないかは1分で判定できます。 関係がある場合は、取引先のうちどこが対象かと、年間でいくら増えるかまで出します。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。