「掛金が全額経費になる」という理由で、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)を勧められたことはないでしょうか。

掛金の損金算入効果の大きさから、中小企業の節税策として広く知られている制度です。

ただし、先に結論をお伝えすると、医療法人はこの制度に加入できません。運営元である中小企業基盤整備機構(中小機構)の加入資格に、医療法人は対象外であることが明記されています。

一方で、法人化前の個人開業医(個人事業主)は加入できますし、MS法人(株式会社等)であれば要件を満たせば加入できます。

この記事では、「誰なら使えるのか」という整理と、制度の仕組み・出口の注意点までをまとめます。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

医療法人は経営セーフティ共済に加入できますか。
加入できません。
中小機構の公式な加入資格において、「医療法人、農事組合法人、NPO法人等は加入対象になりません」と明記されています。

「掛金全額損金」の効果が大きい制度ですが、医療法人本体では使えない前提で節税を設計する必要があります。
では、誰なら加入できるのですか。
法人化前の個人開業医(個人事業主)は加入できます。
また、MS法人や資産管理会社などの株式会社・合同会社等も、資本金・従業員数の要件を満たせば加入できます。

医療法人本体ではなく、その周辺での活用を検討する制度と整理できます。
解約して戻ってきたお金は課税されますか。
課税されます。
解約手当金は法人では益金(個人では事業収入)となるため、この制度は課税をゼロにするのではなく先送りする「課税の繰り延べ」です。

さらに令和6年度税制改正により、令和6年10月1日以後に解約した場合、解約日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金(必要経費)に算入できません。

経営セーフティ共済とは——本来の目的と、節税で使われる理由

経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する共済制度です。

取引先が倒産し、売掛金や受取手形が回収できなくなった場合に、無担保・無保証人で共済金の貸付けを受けられる、いわば「連鎖倒産を防ぐための保険」として作られました。

ただし実務上、この制度がよく話題になるのは、本来の目的である「連鎖倒産対策」としてよりも、「毎月の掛金を全額、損金(法人)または必要経費(個人事業)に算入できる」という税務上の特徴のためです。

利益が出ている年に掛金を積み立てることで、その年の税負担を圧縮できることから、決算対策・節税策として広く使われています。

つまり、こういうことです

制度としての本来の目的は「取引先倒産への備え」ですが、「掛金が全額経費になる」という副次的な効果が節税策として注目されているのが実情です。

ただし医療法人の先生にとっては、この後説明するとおり、そもそも医療法人本体では加入できないという前提の確認が最初のポイントになります。

結論——医療法人は加入できない(中小機構の加入資格で対象外)

経営セーフティ共済に加入できるのは、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者のうち、会社(株式会社・合同会社等)または個人事業主、および一定の組合とされています。

そして中小機構の公式な加入資格の案内には、「医療法人、農事組合法人、NPO法人等は加入対象になりません」と明記されています。

よくある誤解

「中小企業向けの制度だから、規模の小さい医療法人なら入れるのでは」と考えてしまいがちですが、この制度の加入資格は規模だけでなく法人形態でも区切られており、医療法人は形態の段階で対象外です。

従業員数や出資規模にかかわらず、医療法人本体での加入はできません。

「医療法人でも掛金全額損金の節税ができます」という説明を見かけたら、加入資格を確認していない情報だと考えてよいでしょう。

したがって、医療法人の決算対策として経営セーフティ共済を組み込むことはできません。

医療法人で使える掛金型の制度としては、役員向けの小規模企業共済(こちらも加入資格の確認が必要です)や従業員向けの中小企業退職金共済など、別の制度をそれぞれの加入資格に照らして検討することになります。

個人開業医は加入できる——法人成り前の活用と、法人成り時の扱い

一方、法人化する前の個人開業医(個人事業主)は、加入資格を満たせば経営セーフティ共済に加入できます。

個人事業として引き続き1年以上診療を行っていれば、加入を検討する余地があります。

掛金は全額を事業所得の必要経費に算入できるため、利益が出ている個人クリニックにとっては、所得を圧縮しながら手元資金を積み立てる選択肢の一つになります。

注意したいのは、医療法人化(法人成り)するときの扱いです。

医療法人は加入対象外であるため、個人時代に加入していた共済契約を医療法人に引き継ぐことはできず、法人成りの際には解約することになります。

解約手当金は個人の事業収入として課税対象になりますので、法人化のタイミングと解約のタイミングをあわせて設計しておくことが大切です。

法人化を視野に入れている先生は、加入する段階から「出口は法人成り時の解約」という前提で考えておくとよいでしょう。

MS法人・資産管理会社での活用——「関連法人で使う」という整理

医療法人本体は加入できませんが、MS法人(メディカルサービス法人)や資産管理会社などの株式会社・合同会社等は、資本金・従業員数などの加入要件を満たせば加入できます。

経営セーフティ共済の加入資格は、業種ごとに「資本金の額または出資の総額」「常時使用する従業員数」のいずれかの基準を満たす会社・個人事業主とされており、一般的な規模のMS法人であれば該当するケースが多いと考えられます。

つまり、こういうことです

経営セーフティ共済は、医療法人グループにおいては「医療法人本体ではなく、関連法人(MS法人・資産管理会社)側で活用する制度」と整理できます。

MS法人に利益が集まる設計をとっているグループでは、MS法人側の決算対策の選択肢になり得ます。

ただし、MS法人との取引自体に適正性が求められることは言うまでもありませんので、グループ全体の設計とあわせて検討してください。

経営セーフティ共済に加入できる法人形態の図。医療法人は中小機構の加入資格により対象外で加入できない。個人開業医と、要件を満たすMS法人・資産管理会社は加入できる。掛金は月5,000円から20万円、総額800万円まで、40か月以上の納付で全額が戻る。
医療法人本体は加入できません。使えるのは個人開業医と、要件を満たすMS法人・資産管理会社です。

制度の仕組みと出口の注意点——課税の繰り延べと、解約後2年の損金不算入

ここからは、個人開業医やMS法人で加入を検討する場合に押さえておきたい、制度の基本スペックと出口の注意点です。

掛金は月額5,000円から20万円まで、5,000円単位で自由に選ぶことができ、加入後も増額・減額が可能です。

積立ては掛金総額が800万円に達するまでです。

項目内容
運営主体独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)
加入できる者引き続き1年以上事業を行っている中小企業者(会社・個人事業主等)。医療法人・農事組合法人・NPO法人等は対象外
掛金月額5,000円〜200,000円(5,000円単位、加入後も増減額可)
積立上限掛金総額800万円まで
税務上の扱い掛金は全額を損金(法人)または必要経費(個人事業)に算入可能
任意解約時の返戻40か月(3年4か月)以上納付していれば掛金全額が戻る。それより短いと減額される

ポイントは「40か月」という納付期間の目安です。

任意解約の場合、加入から40か月以上掛金を納めていれば、解約手当金として掛金の全額が戻ってきます。それより短い期間で解約すると、戻ってくる金額は掛金総額を下回ります。

長期的に積み立てる前提の制度と考えたほうがよいでしょう。

そして、もっとも誤解されやすいのが出口の扱いです。

加入時に掛金を損金・必要経費にできても、解約して戻ってきたお金(解約手当金)は、法人では益金、個人では事業収入として課税対象になります。

よくある誤解

「掛金が全額経費になる=税金が減る」で話が終わってしまいがちですが、それは加入時点のことです。

解約時に受け取る解約手当金は、その年度の課税対象になります。

つまりこの制度は、税負担をゼロにする制度ではなく、「今の利益にかかる税金を、将来の解約時に先送りする」課税の繰り延べにすぎません。

赤字の年や退職金の支給がある年など、解約のタイミング設計とセットで考える必要があります。

さらに、令和6年度(2024年度)税制改正で、「解約→即再加入」を繰り返す節税手法への対応として再加入時の制限が設けられました。

令和6年10月1日以後に共済契約を解約した場合、その解約日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は、損金(必要経費)に算入できません。

改正前改正後(令和6年10月1日以後の解約)
解約後の再加入 すぐに再加入し、掛金の損金算入を継続できた 再加入は可能だが、解約日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金不算入
想定される利用 「解約→即再加入」を繰り返す節税手法 短期での解約・再加入による節税メリットが実質的に封じられた

この改正により、「解約してすぐ入り直せば節税を繰り返せる」という発想は、今は成り立ちません。

個人開業医やMS法人で活用する場合も、解約するかどうかは再加入のタイミングまで見据えて慎重に判断する必要があります。

加入資格の確認から出口の設計まで、事前に顧問税理士と方針をすり合わせておくことをおすすめします。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。