「マイナンバーと銀行口座がつながると、税務署に預金を全部見られるんですよね」
よくいただく質問です。そして、この心配は順番が逆です。
税務署は、マイナンバーがあってもなくても、銀行に問い合わせできます。昔からです。 「これから見られるようになる」のではなく、もともと見られます。
であれば、考えるべきは「どう隠すか」ではありません。 見られる前提で、説明できる状態にしておくことです。
この記事の結論
- マイナンバーとつなぐと、税務署に見られますか。
- つないでもつながなくても、税務署は必要があれば銀行に問い合わせできます。2024年4月に始まった口座とマイナンバーをつなぐ仕組みは任意で、目的は公的なお金の受け取りと、相続や災害のときの手続きを楽にすることです。
- 相続のとき、どこまで見られますか。
- 相続税の調査になれば、亡くなった方だけでなく、配偶者・お子さん・お孫さんの口座まで見られるのがふつうです。数年分さかのぼります。国税庁の統計でも、見つかる財産でいちばん多いのは現金・預金で、全体の3割ほどです。
- では、何をしておけばいいですか。
- 贈与した記録を残すことです。ご家族名義の預金があるとき、本当にあげたものなのか、名前を借りているだけなのか。贈与契約書・通帳と印鑑を本人が持っている・本人が自由に使える。この3つが揃っていれば説明できます。
「マイナンバーでバレる」は、順番が逆です
税務署には、調査に必要な範囲で銀行に問い合わせる権限があります。 口座番号を知らなくても、名前・住所・生年月日で調べられます。
マイナンバーは、その作業を早くする道具にはなります。 でも権限そのものを新しく作ったわけではありません。
そもそも税務署は、いろいろな情報を持っています。
- 不動産の売り買い、保険金の支払い、株の配当などの記録
- 100万円を超える海外への送金・海外からの入金の記録
- 過去の申告書——所得の積み重ねから、あるはずの財産は逆算できます
開業医の先生は、長年にわたって高い所得を申告してこられました。 その所得から、税金と生活費を引いたら、いくら残っているはずか。税務署はこの計算をします。
申告された相続財産が、その計算より明らかに少なければ、「どこかにあるはず」という前提で調査が始まります。 マイナンバーとは何の関係もない、昔からのやり方です。
つなぐかどうかは任意。目的は相続と災害です
2024年4月に始まった仕組みの中身を、正確に整理します。
| 内容 | |
|---|---|
| つなぐかどうか | 任意です。義務ではありません |
| 何のため | 公的なお金を早く確実に受け取るため。そして相続や災害のときに、口座を早く把握できるようにするため |
| まとめて手続き | 2025年4月から、1回の手続きで複数の銀行の口座をまとめてつなげます |
| 相続のとき | つないでいれば、ご家族が1つの銀行に聞くだけで、故人の口座をまとめて確認できます |
読んでいただくと分かるとおり、この仕組みの主役はご家族です。 「税務署が把握するための仕組み」ではありません。
相続で見つかる財産の1位は、現金・預金
令和6事務年度の相続税の調査は9,512件(前の年より11.2%増)、 あとから払うことになった税金は824億円(同12.2%増)。どちらも増えています。
そして見つかった財産でいちばん多いのは、現金・預金です。全体の3割ほど。 土地でも株でもなく、預金です。
配偶者、お子さん、お孫さんの口座まで見られるのがふつうです。しかも数年分さかのぼります。
亡くなる直前に大きな金額が引き出されていれば、何に使ったか聞かれます。 お子さんやお孫さんの口座に、その方の収入では説明のつかない残高があれば、そこも聞かれます。
本丸は「名義預金」です
預金の申告漏れの多くは、隠していたのではなく名義預金だったというものです。
名義預金とは、口座の名前はご家族だけれど、中身は実質ご本人のものと見られる預金のことです。
「子どもの将来のために」「孫の教育資金に」と、ご家族名義の口座に毎年お金を入れていた。 よくある、そして善意の行動です。
でも「あげたつもり」では、贈与になりません。 贈与が成立していなければ、そのお金はご本人の相続財産に戻されます。
| 見られるところ | 名義預金と言われやすい状態 |
|---|---|
| 通帳・印鑑・カードは誰が持っているか | 親が持っている |
| 本人は口座を知っているか | 知らない |
| 本人は自由に使えるか | 使えない |
| 贈与の記録はあるか | 契約書もなく、贈与税の申告もしていない |
| 入金の出どころ | 本人の収入では説明がつかない |
マイナンバーとつながれば、ご家族名義の口座も把握しやすくなるのは事実です。 ただつながっていなくても、相続の調査では見られます。変わるのは手間だけで、結論は同じです。
名義預金と言われないための3つ
難しいことではありません。3つ揃えるだけです。
- 贈与契約書を作る。毎年、その都度。「あげます」「もらいます」が形として残っていることが大事です。 110万円以下でも作ります。
- もらった本人が管理する。通帳・印鑑・カードは本人が持つ。本人が自由に使える状態にする。 親が管理していると、それだけで「実質は親のもの」と見られます。
- 振込で残す。手渡しではなく振込。お金の流れが通帳に残る形にしてください。
きちんと贈与が成立していても、亡くなる前7年以内の分は相続財産に足し戻されます。 早く始めるほど効くということです。
お子さん・お孫さんへの資産の移し方はこどもNISAと開業医にも書いています。
むしろ、ご家族のための仕組みです
口座とマイナンバーをつなぐ話は、先生ご自身よりも、残されるご家族のための仕組みだと私は思っています。
相続で本当に困るのは、「どこに口座があるか分からない」ことです。 通帳が出てこない、ネット銀行でそもそも紙がない、証券口座の存在を誰も知らない。 これを一つずつ探す作業が、どれだけ大変か。
つないでいれば、1つの銀行に聞くだけでまとめて確認できます。 手続きにかかる時間と手間が、はっきり減ります。
なお海外の口座は、この仕組みの対象外です。 海外に資産をお持ちなら、別に一覧を残しておく必要があります。
隠す前提をやめると、やることは単純になります
「どうすれば分からないようにできますか」というご相談をいただくことがあります。 正直に申し上げると、その方向に使う時間が、いちばんもったいないと思っています。
預金は分かります。所得から財産は推計されます。ご家族名義の口座も見られます。 制度が変わったからではなく、もともとそうです。
見られる前提に立つと、やることは一気に単純になります。
- 贈与するなら、契約書を作って、本人に管理させて、振込で記録を残す
- ご家族名義の口座を、いま一度点検する。名義預金になっていないか
- 財産の一覧を作って、ご家族が分かる場所に置いておく
- 亡くなる前7年以内は戻されるので、早く始める
当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 相続の準備も同じです。説明できる状態を作っておく。それだけで、調査は怖いものではなくなります。
出典:預貯金口座管理制度(口座管理法)は2024年4月施行。付番は任意で、目的は公的給付の受取および相続・災害時の口座情報の把握。 2025年4月から複数の金融機関への一括付番が可能。 相続税の調査状況(実地調査9,512件、追徴税額824億円、申告漏れ相続財産に占める現金・預貯金等の割合)は 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」による。 相続開始前7年以内の贈与の加算は相続税法による。いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。