国税庁が毎年出している統計の中で、いま群を抜いて数字が大きいのが海外の資産です。

海外に投資をしている人への税務調査は、1件あたり1,595万円の税金をあとから払うことになっています。 調査全体の平均は299万円ですから、5.3倍です。

ただ、ここで見つかっているものの多くは、隠していたお金ではないと私は思っています。 留学のときに作った口座をそのままにしていた。相続で受け継いだ。申告が要るとは知らなかった。 だからこそ、一度確かめる価値があります。

この記事の結論

どのくらい見つかっているのですか。
海外に投資をしている富裕層への調査662件で、1件あたり6,680万円の申告漏れ、1,595万円の追加の税金。調査全体(299万円)の5.3倍です。しかも見つかった金額の合計は、前の年の267億円から442億円へ、1.65倍に増えています。
なぜ税務署に分かるのですか。
外国の税務当局から、情報が届くからです。日本に住んでいる人の銀行口座の情報が、101か国から年に約275万件。個人の口座だけで272万件、残高は9.6兆円分です。これと送金の記録を突き合わせれば、申告されていない資産は浮かび上がります。
何をしておけばいいですか。
まず書き出すことです。海外の口座、証券、不動産、保険を全部。12月31日時点で合計5,000万円を超えていたら、翌年6月30日までに国外財産調書を出す義務があります。そして調書を出すことと、収入を申告することは別です。両方要ります。

数字で見ると、追徴は5.3倍です

令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の実績です。

調べられた人1件あたりの申告漏れ1件あたり払うことになった税金
海外に投資をしている富裕層6,680万円1,595万円
富裕層(全体)3,449万円855万円
海外に投資をしている人(全体)3,459万円866万円
税務調査の平均1,486万円299万円

注目していただきたいのは伸びです。 調査の件数は554件から662件に増え、見つかった金額の合計は267億円から442億円へ1.65倍。 1件あたりも4,819万円から6,680万円に。

国税庁がここに人を割いて、実際に成果が出ているということです。

なぜ分かるのか——101か国から、年275万件

「海外の口座なら、日本の税務署には分からないだろう」——これは、もう通りません。

CRSという仕組みがあります。 各国の税務当局が、その国にある「外国人の銀行口座」の情報——名前、住所、残高——を、 持ち主の国に定期的に送る。そういう国際的な取り決めです。

年度外国から届いた口座情報送ってくる国・地域その残高
令和2190万件8712.6兆円
令和4252万件9516.4兆円
令和6274万件10117.7兆円

国税庁は、これを単独で使うわけではありません。突き合わせます。

海外に口座があるはずなのに、調書が出ていない。送金の記録はあるのに、収入の申告がない。 このズレが、そのまま調査の入口になります。

国税庁が公表している実際の例

不動産を売った利益だけを申告していた方。送金の記録を見ると海外からの入金が多く、 CRSの情報から海外の口座を持っていそうだと分かった。

調べたところ、海外に買っていたマンションを管理会社を通じて貸していて、家賃を受け取っていた。 さらに別の国の口座で、投資信託の利益と預金の利息も受け取っていた。

申告漏れ 約2億6千百万円、追加の税金 約1億1千6百万円(3年分)。

注目すべきは、この方がまったく申告していなかったわけではないことです。 不動産を売った分はきちんと申告していました。海外の分だけが抜けていたのです。

5,000万円を超えたら、6月30日までに

日本に住んでいる方で、12月31日に海外の財産が合計5,000万円を超えているなら、 翌年6月30日までに「国外財産調書」を税務署に出さなければいけません。

令和6年分の提出状況は、こうなっています。

 令和6年分前の年から
出した件数14,544件+9.8%
その財産の合計8兆1,945億円+26.3%

全国で1万4千件あまり。出している人は、決して多くありません。 しかも件数の63.7%、金額では80.6%が東京に集中しています。

裏を返せば、地方には、出す義務があるのに出していない方が相当いると見るのが自然です。

出していない人のほうが、多く捕まっています

この調書には、出させるための仕掛けがあります。加算税です。

 どんなとき加算税
減るちゃんと出していて、そこに書いた財産で申告漏れがあったとき▲5%
増える出していない、または書くべき財産を書いていなかったとき+5%
もっと増える関係書類を出すよう言われて、期限までに出さなかったとき+10%

そして、実際に使われた件数が公表されています。

令和6事務年度件数対象になった金額
減った人(ちゃんと出していた)221件57億円
増えた人(出していなかった)366件170億円

出していない人のほうが、件数で1.7倍、金額で3倍です。これが実態です。

こちらには罰則があります

理由なく期限までに出さなかったり、嘘を書いたりすると、 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。

国内の財産を書く財産債務調書には罰則がありませんが、 海外のほうにはあります。ここは大きな違いです。

先生方が海外に資産を持つ、よくある経緯

数字の話をしてきましたが、実際のご相談は、もっと生活に近いところから始まります。

きっかけ持っているもの抜けやすいところ
留学・海外での研究現地の銀行口座、証券口座帰国後もそのまま。利息や配当が毎年ついているのに申告していない
海外の不動産ハワイ、豪州、東南アジアのマンションなど家賃の申告漏れ。売ったときの利益
外貨建て・海外の保険ドル建ての保険など満期や解約のときの税金。そもそも調書に書いていない
海外での勤務・講演海外の病院からの報酬、国際学会の講演料「現地で税金を引かれたから終わり」という思い込み
相続ご両親が海外勤務・海外在住だったそもそも海外に財産があることを知らない
暗号資産海外の取引所の口座国内の取引所と違って分からないだろう、という思い込み

共通しているのは、隠すつもりがなかったということです。 とくに多いのが最初のパターン。留学のときに作った口座を、帰国後もそのままにしているケースです。

日本に住んでいれば、世界中どこで得た収入でも、日本で申告します。 海外の口座に入ってくる利息や配当も同じです。 「向こうで税金を引かれているから」と思っていても、それだけでは終わりません(二重に取られる分は、あとで調整できます)。

調書を出しても、それで終わりではありません

ここは、よく取り違えられます。

 何を出すもの?いつまで
国外財産調書持っている財産の一覧翌年6月30日
確定申告そこから出た収入翌年3月15日

この2つは別です。調書を出したから収入の申告が済んだ、ということにはなりません。 逆に、5,000万円以下で調書が要らなくても、収入が出ていれば申告は必要です。

海外に不動産をお持ちなら、家賃の申告に加えて、経費の計算にも制限があります。 くわしくは医療法人の海外不動産投資をご覧ください。

相続のときに、もっと困ります

海外の資産は、所得税だけの話ではありません。相続のときに、いちばん困ります。

先生ご自身のためだけの話ではありません

いま海外に資産をお持ちなら、その一覧を、ご家族が分かる形で残しておいてください。 どの国の、どの銀行に、何があるか。連絡先と、たどり着く方法。

これがないと、残されたご家族が本当に困ります。 調書を毎年作ること自体が、この一覧を保つ作業にもなります。

2027年から、暗号資産も同じ扱いになります

これから起きることも書いておきます。

銀行口座と同じ仕組みが、暗号資産にも作られました。 各国の取引所から情報を集めて、税務当局どうしで交換する。そういう取り決めです。

日本では2026年から制度が始まり、2027年に2026年分の情報交換がスタートします。

つまり今年の取引が、来年から交換の対象になるということです。 「海外の取引所なら分からない」という前提は、銀行口座が丸見えになったのと同じ道をたどります。

いま、やっておくこと

① 海外の口座・証券・不動産・保険・暗号資産を書き出す
② 12月31日の合計が5,000万円を超えていないか確認する
収入が出ていないか確認する。利息、配当、家賃、売った利益
④ 過去に抜けていた年があれば、指摘される前に直す。加算税の面でも有利です
ご家族に分かる形で残す

当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 海外の資産については、節税より前に「正しく申告できているか」から始まります。

情報は、もう届いています。101か国から、年に275万件。 隠せるかどうかの話ではなく、抜けていないかを確かめる話です。

出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)、 同「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」(令和8年1月公表/CRS情報の交換件数・口座残高、CARFの概要)、 同「令和6年分の国外財産調書の提出状況について」(令和8年1月公表/提出件数・総財産額・加算税の特例措置の適用件数・制度の概要)。 いずれも2026年9月時点。

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当事務所は、医療法人の税務と並んで、資産形成・相続のサポートを専門としています。 調書が要るかどうか、過去の申告に抜けがないか、相続に向けてどう整理しておくか。 「これは申告が要るのだろうか」という段階からご相談いただけます。顧問税理士の切り替えは不要です。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。海外資産の課税関係は、居住形態・所在地国の制度・租税条約によって異なります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。