調査の2日目の夕方に、こう言われることがあります。
「この帳簿、少しお預かりしてもいいですか」
断っていいのか、断ったら心証が悪くなるのか。迷うところです。 ルールははっきり決まっています。知っておけば、冷静に判断できます。
この記事の結論
- 預けなければいけませんか。
- 預けるかどうかは求めに応じるかたちですが、預けたあとの扱いには決まりがあります。必要がなくなったら遅滞なく返す、業務で使うから返してほしいと言えば特段の支障がない限り速やかに返す、と定められています。
- 返してもらえないときは。
- 不服を申し立てられます。税務署の職員が預かっている場合なら、税務署長への再調査の請求か、国税不服審判所長への審査請求ができます。ここは覚えておいてください。
- 医院で気をつけることは。
- 診療に使うものは預けない。カルテ、レセプトの控え、レジのジャーナル。これらは毎日使います。「業務で使う」は、返還を求める正当な理由になります。
預かることを「留置き」といいます
調査官が帳簿や書類を持ち帰ることを、留置きといいます。
理由は単純です。医院で全部を見るには時間がかかるから。 3年分の元帳と通帳と請求書を、2日で見きるのは無理です。
だから持ち帰って、署で確認したい。調査官としては自然な話です。
何を何冊預けたかを書いた書面が交付されます。
必ず受け取って、保管してください。
あとで「返ってきていない」と言うときに、これがないと話になりません。
返してもらうときの決まり
国税庁が公表している質問と回答には、2つのことが書かれています。
| 決まっていること | |
|---|---|
| ① | 留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく返す |
| ② | 業務で使う必要がある等の理由で返還を求められたら、特段の支障がない限り速やかに返す |
②が大事です。「業務で使うので返してください」と言えます。 医院なら、これはいくらでも言える理由です。
預けた書類が大量で、写しを取るのに時間がかかる場合のように、
すぐ返すと調査に支障が出るときは、待たされることがあります。
その場合は、引き続き預かる旨とその理由を説明されることになっています。
説明なしに引き延ばされる、ということはありません。
返してもらえないときは、不服を申し立てられます
説明を受けても納得できないときは、どうするか。
不服を申し立てられます。 預かっている職員が税務署の職員であれば、 税務署長への再調査の請求か、 国税不服審判所長への審査請求ができます。
実際にここまでやることは、めったにありません。 ただ「言えば返る」「言っても返らなければ手がある」と知っているかどうかで、 その場の落ち着きが違います。
医院で、預けてはいけないもの
医院には、毎日使うものがあります。 これを預けてしまうと、診療が止まります。
| 預けたくないもの | 理由 |
|---|---|
| カルテ | 診療に必要。そもそも患者さんの情報です |
| レセプトの請求控え(直近) | 今月の請求業務に使います |
| レジのジャーナル(現在使用中) | 毎日の締めに使います |
| 予約表 | 言うまでもありません |
| 今期の元帳・通帳 | 日々の経理に使います |
こういうものを求められたら、「写しでよろしいですか」と聞いてください。 中身が確認できればよい、というものなら、写しで足りることがあります。
カルテには患者さんの病名や治療内容が書かれています。
自費の件数を確かめる目的なら、その部分だけの写しで足りるはずです。
何のために必要なのかを聞いて、目的に必要な範囲にとどめてもらう。
ここは遠慮せず確認してください。
預けるなら、やっておくこと
| やること | |
|---|---|
| ① | 預かり証を必ずもらう。何を何冊か、書いてあるか確かめる |
| ② | 預ける前に、自分の手元にも写しを取る |
| ③ | いつ返るかの目安を聞く |
| ④ | 顧問税理士に、何を預けたかを伝える |
| ⑤ | 返ってきたら、預かり証と突き合わせて確かめる |
②を飛ばす医院が多いです。 預けている間、こちらは何も確認できなくなります。 調査官から「この処理について説明してください」と聞かれても、手元に資料がない。 これでは反論もできません。
いまはスマホでも撮れます。最低限、写真だけでも残してください。
最後に。 預けること自体は、悪いことではありません。 署でじっくり見てもらったほうが、医院に何度も来られるより楽ということもあります。
大事なのは「何を、何のために、いつまで」をはっきりさせることです。 言われるまま段ボールに詰めて渡す、というのがいちばん良くありません。 当日の対応はやってはいけない3つのこともあわせてご覧ください。
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問11 (留め置いた帳簿書類等は、留め置く必要がなくなったときは遅滞なく返還すべきこととされている。 業務で使用する必要がある等の理由で返還を求められた場合には、特段の支障がない限り速やかに返還する。 写しの作成に時間がかかる等、直ちに返還すると調査の適正な遂行に支障がある場合は、 引き続き留置きをする旨とその理由を説明する。これに納得できないときは、 留置きを行っている職員が税務署に所属する職員である場合には、 税務署長に再調査の請求または国税不服審判所長に審査請求をすることができる)。 留置きの根拠は国税通則法第74条の7。預かり証の交付を含む手続は 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」による。 預けるものの範囲についての記述は、実務上の考え方です。いずれも2026年9月時点。
何を預けるかは、その場で決めなくて結構です。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。