決算の数字がおおむね固まってから、「思ったより利益が出ている。何か手はないか」とご相談をいただくことがあります。

この段階からできることは多くありませんが、そのなかで真っ先に確認したいのが未払金・未払費用の計上漏れです。

決算日の時点でまだ現金が出ていなくても、債務が「確定」していれば、その期の経費として計上できます。新しくお金を使う必要も、契約を結ぶ必要もありません。

すでに発生している費用を、正しい期に落とすだけの話です。ただし、「まだ払っていない」というだけでは経費になりません。

この記事では、どこまでが計上できてどこからができないのか、そして医療法人でとくに漏れやすい項目を整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

払っていない費用を、本当に経費にできるのですか。
できます。法人税では現金の出入りではなく、費用が発生したかどうかで期を区切ります。決算日までに債務が確定していれば、支払いが翌期でもその期の経費(損金)になります。
「債務が確定している」とは、どういう状態ですか。
①決算日までに債務が成立している、②その債務のもとになる給付(納品・役務の提供)がすでに行われている、③金額が合理的に算定できる——この3つがそろった状態です。

3つのうち1つでも欠けると経費にできません。
医療法人で、とくに漏れやすいものは何ですか。
社会保険料の法人負担分と労働保険料です。

医療法人は看護師・事務スタッフを含めて人数が多くなりやすく、計上漏れの金額もそのぶん大きくなります。
ほかに固定資産税、給与の締め後分、水道光熱費、リース料などが挙がります。

なぜ「払っていない費用」が経費になるのか

法人税の計算は、お金が動いた日ではなく、取引が起きた日を基準に区切ります。これを発生主義といいます。

売上を上げるためにすでに使ったコストは、支払いが翌月になっていても、その売上と同じ期の経費として扱う——という考え方です。

たとえば3月決算の医療法人で、3月に検査を委託した外注費の請求書が届き、支払いが4月末だったとします。

検査という役務の提供は3月中に終わっていますから、この外注費は3月期の経費です。

支払日が4月だからといって翌期に回すのは、むしろ誤りということになります。

つまり、こういうことです

未払計上は「特別な節税策」ではありません。本来その期の経費であるものを、正しくその期に落とすという、当たり前の処理です。

それでも節税の話として挙げるのは、実務では通帳やカードの引き落としを追う形で経理が進みがちで、決算月分がまるごと抜け落ちるケースが本当に多いからです。

経費にできる条件——債務確定の3要件

ここがこの記事のいちばん大事なところです。「まだ払っていない費用は全部経費にできる」という理解は誤りです。

法人税で経費(損金)として認められるのは、決算日までに債務が確定しているものに限られます。

判定は次の3つで行います。

要件内容かみ砕くと
①債務の成立 事業年度終了の日までに、その債務が成立していること 契約や発注が済んでいて、支払う義務がすでに生じている
②給付原因の発生 同日までに、その債務にもとづいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること モノが納品済み・サービスが提供済みである
③金額の算定 同日までに、その金額を合理的に算定できること 単価や数量が決まっていて、いくら払うかが計算できる

実務でつまずくのは、ほとんどがです。

契約を結んだだけ、発注しただけ、あるいは前払いしただけでは、まだ給付を受けていません。

この場合は決算日をまたいでも当期の経費にはならず、前払金・前払費用として資産に計上します。

よくある誤解

「決算前に来期分をまとめて発注しておけば経費になる」——なりません。翌期に納品・提供を受けるものは、翌期の経費です。

同じように、翌期分の家賃や保険料を先に払っただけでも、原則として当期の経費にはなりません(一定の要件を満たす短期前払費用など、例外的な取扱いはあります)。

「払ったかどうか」ではなく「受け取ったかどうか」で判断すると覚えておくと、間違えにくくなります。

医療法人で計上漏れが多い項目【一覧】

3要件を満たしていながら、決算で拾い漏れやすい項目を整理しました。すべてが無条件で計上できるわけではなく、右列の条件を満たしているかどうかが判断の分かれ目になります。

項目漏れやすい理由計上できる条件
社会保険料(法人負担分) 当月分を翌月末に納付するため、決算月分が必ず未納付で残る 決算月までの労働の提供が終わっている月分の法人負担額
労働保険料 年度更新・分割納付のサイクルが事業年度とずれる 決算日までに対応する労働の提供が終わっている期間分のうち未納付額
固定資産税・都市計画税 分割納付のため、納期未到来分を落とし忘れる 決算日までに賦課決定があった年度分(納期がまだ来ていない分を含む)
給与(締め後分) 締め日と支払日がずれる給与体系で、決算日までの勤務分が抜ける 決算日までの勤務に対応し、支給額が確定している分(役員報酬は下記の注意参照)
水道光熱費・通信費 決算月の使用分の請求・引き落としが翌月になる 決算日までに使用が済んでいる分で、金額が算定できるもの
医薬品・診療材料の仕入 卸の締め日と決算日がずれる 決算日までに納品を受けている分
外注費・業務委託費 検査委託・清掃・医療廃棄物処理・給食などが月遅れ請求になる 決算日までに役務の提供が完了している分
リース料・賃借料・保守料 口座振替のため、経過期間で区切る発想になりにくい 決算日までの期間に対応する分で未払いのもの
クレジットカード決済分 引き落とし日で経理していると、締め後の利用分が抜ける 決算日までに購入・利用が済んでいる分
修繕費・広告費 工事完了と請求書到着に時間差がある 決算日までに作業・掲載が完了している分
請求書が届いていなくても構いません

3要件は「請求書の到着」を求めていません。

納品や役務の提供が決算日までに済んでいて、金額が合理的に算定できるなら、請求書が翌月に届く費用でも当期の経費にできます。

決算月の分だけは、通帳ではなく納品書・作業報告書・勤務実績から拾うのが確実です。

決算日までに債務の成立、給付原因の発生、金額の算定の3つがそろっていれば支払いが翌期でも今期の経費になる。医療法人では社会保険料の法人負担分と労働保険料の計上漏れが多く、金額も大きい。
3要件がそろえば、支払いが翌期でも今期の経費です。医療法人で漏れやすい項目も並べました。

社会保険料・労働保険料は、医療法人ほど金額が大きい

一覧のなかでも、医療法人でとくに効くのが社会保険料の法人負担分です。理由は単純で、医療機関は人が多いからです。

医師・看護師・医療事務・受付と職種が分かれ、常勤に加えてパート勤務の方も抱えるため、同じ売上規模の他業種と比べて人件費の比率が高くなります。

社会保険料は当月分を翌月末に納付する仕組みですから、決算月の分は、決算日の時点で必ず未納付の状態で残っています。

スタッフ数が多いほど、この1か月分の法人負担額はまとまった金額になります。

労働保険料も、年度更新と分割納付のサイクルが事業年度と一致しないため、期間の経過に対応する部分が未払いのまま残りやすい項目です。

いずれも、すでに提供を受けた労働に対応する法人の負担であり、料率も決まっているため、3要件のうち②と③は満たしやすい性質のものです。

それでいて、納付書ベースで経理していると素通りしてしまう。この記事で最初に確認していただきたいのが、まさにここです。

役員報酬は別の話です

スタッフの給与とは異なり、理事長・理事の役員報酬を未払いのまま計上する処理には注意が必要です。

役員報酬が経費として認められるには定期同額給与などの要件を満たす必要があり、未払いのまま長く放置すると、経費性そのものを疑われかねません。

資金繰りの都合で役員報酬の支払いが滞っている場合は、決算前に必ずご相談ください。

やってはいけない未払計上と、効果の限界

正しく行えば手堅い処理ですが、行き過ぎると単なる利益調整になります。とくに次のようなケースは避けてください。

注意

まだ納品・提供を受けていないものを計上する(発注しただけ、契約しただけ)/金額が確定していない見込み額を、概算で多めに計上する翌期に納品されるものの請求書を、決算月の日付で先に発行してもらう利益が出た期だけ未払計上し、出なかった期はやめる——といった処理です。

とくに最後の点は、経理処理は継続して同じ方法を採ることが原則であり、年ごとに都合よく変えるのは認められません。

もうひとつ、正直にお伝えしておきたいことがあります。

未払計上によるまとまった利益圧縮の効果は、基本的に「始めた年度の一度きり」です。

翌期以降は、前期に計上した未払いを取り崩したうえで当期分を新たに計上するため、効果として残るのは前期からの増加分だけになります。

毎年これで税額を落とせるという性質のものではありません。

とはいえ、それは「一度きりでも、やっていなければ損をし続けている」ということでもあります。

しかも新たな支出をともないません。

決算のたびに慌てて対策を探すより、まずは自院の決算書で、決算月分の社会保険料や労働保険料が未払計上されているかを一度確認してみる

そこが出発点になります。

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決算月分の社会保険料や労働保険料が正しく計上されているか、ほかに拾えていない費用がないかも含めて、気づいた点をお伝えします。

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最終更新:2026年9月1日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。