「今年は思ったより所得が出そうだ。年内に何かできることはないか」。 毎年11月を過ぎると、院長からこのご相談が増えます。
小規模企業共済に入っている先生なら、掛金を増やすのが手っ取り早い方法です。 ただし、今年の控除にしたいなら、手続きは10月中です。 口座振替で増やす場合、11月に手続きしても、増えた分が引き落とされるのは来年です。 来年に払った掛金は、来年の控除になります。
しかも2026年は、11月以降の「抜け道」が使える最後の年です。 来年からは、10月を過ぎると本当に打つ手がなくなります。
この記事は、個人で開業している医科・歯科の院長向けです。 まず、先生が入れる立場かどうか。次に、なぜ10月なのか。最後に、いくらまで増やすべきかを整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- どんな院長が使えますか。
- 正社員のスタッフが5人以下の、個人開業の院長です。パート・アルバイト・家族は数えません。医療法人の理事長・理事は入れません。入ったあとにスタッフが増えても、契約は続けられます。
- なぜ「10月中」なのですか。
- 口座振替の増額は、申込月の翌々月に引き落とされるからです。10月に手続きすれば、12月18日の引落しで10月分からの増額分が払われ、今年の控除になります。11月・12月の手続きは、引落しが来年1月以降になり、来年の控除です。
- 11月を過ぎたら、もう何もできませんか。
- 2026年に限っては、2つ残っています。①金融機関などの窓口で現金を払って増額する方法(2026年12月末で廃止)、②前納(まとめ払い)です。前納の書類は中小機構に11月20日必着です。
- 上限の月7万円まで増やすべきですか。
- 税率の高い年に、手元のお金を残したうえで、です。掛金は経費ではなく所得控除で、減る税金は「掛金×税率」です。入れたお金は、原則として廃業や退任まで動かせません。
まず、先生は入れる立場ですか
小規模企業共済は、小さな事業の経営者が自分の退職金を積み立てる制度です。運営は国の機関の中小企業基盤整備機構(中小機構)です。 医院の場合、常時使用する従業員が5人以下であることが加入の条件です。
| 立場 | 入れるか |
|---|---|
| 個人開業の院長(正社員5人以下) | 入れます |
| 個人開業の院長(正社員6人以上) | 新しくは入れません |
| 入ったあとに正社員が6人以上に増えた院長 | 続けられます(人数は加入した時点で判断) |
| 医療法人の理事長・理事 | 入れません |
数えるのは正社員だけです。 パート・アルバイト・契約社員・派遣・試用期間中の方、家族の従業員、院長本人は数えません。
歯科の例:正社員の歯科衛生士が2人、歯科助手と受付がパートで3人。数えるのは2人なので、入れます。
医科の例:内科で、正社員の看護師が3人、正社員の医療事務が3人。6人なので、いまから新しくは入れません。
ただし、開業当初の4人のときに入っていれば、そのまま続けられます。
医療法人の役員は、「直接営利を目的としない法人の役員」として対象外です。 理事長の先生が使える同じ控除の枠は、iDeCoです(iDeCoは満額やるべきか)。 条件の詳しい数え方は個人のクリニックなら、小規模企業共済を使ってくださいに書きました。
なぜ「10月中」なのか|引落しは2か月後です
小規模企業共済の控除は、その年に実際に払った掛金が対象です。 「何月分の掛金か」ではなく、「いつ口座から落ちたか」で年が決まります。
掛金の引落しは毎月18日です。 そして口座振替で増額すると、申込月と翌月は、増やす前の金額のまま引き落とされます。 増えた分は、申込月の翌々月にまとめて落ちます。
| 増額の手続き(口座振替・オンライン) | 増えた分が引き落とされる月 | 今年の控除になるか |
|---|---|---|
| 10月中 | 12月18日 | なります |
| 11月中 | 翌年1月 | なりません(来年の控除) |
| 12月中 | 翌年2月 | なりません(来年の控除) |
増額は申込月の分から効きます。過去の月にさかのぼっては増やせません。 締切は毎月月末です。オンラインなら月末の24時まで、中小機構への郵送なら月末必着です。
金融機関の窓口を通す場合、実際の締切は10月30日(金)までと考えてください。 窓口から中小機構への取次ぎが遅れて11月扱いになると、引落しは来年1月以降になります。 確実なのは、マイナンバーカードを使ったオンライン手続きです。
まだ入っていない先生も同じです。 口座振替での加入は、10月中に不備なく手続きが終われば、12月に初回の引落しがあり、今年の控除になります。
10月に増やすと、今年いくら控除が増えるか
例えばの試算です。 個人で歯科医院を開いている院長。今年はインプラントと矯正の自費が伸び、課税される所得が1,200万円ほどになりそうです。 税率は所得税33%+住民税10%で43%(復興特別所得税は除く)。 掛金はいま月3万円で、10月に月7万円へ増やします。
| 引落し日 | 10月に増額 | 増額しない |
|---|---|---|
| 1〜9月(各18日) | 3万円×9回=27万円 | 27万円 |
| 10月18日 | 3万円 | 3万円 |
| 11月18日 | 3万円 | 3万円 |
| 12月18日 | 15万円 (10月・11月の差額4万円×2+12月分7万円) | 3万円 |
| 今年払った合計 | 48万円 | 36万円 |
控除が12万円増え、税金は約5万1,600円減ります(12万円×43%)。 同じ手続きを11月にすると、11月・12月の差額8万円は来年1月の引落しになり、今年の控除は1円も増えません。
「それだけか」と思われるかもしれません。年の終わりに増やしても、効くのは残りの数か月分だけです。 今年の控除を大きく動かしたいなら、次の前納です。
前納で「今年の控除」に寄せる
小規模企業共済は、掛金を前払い(前納)できます。 1年以内の前納なら、払った年の控除になります。
例えばの試算です。 個人で内科を開いている院長。掛金は月7万円。今年は課税される所得が2,000万円を超えそうで、税率は所得税40%+住民税10%で50%です。 12月の引落しで、12月分を含めて12か月分(12月〜翌年11月)84万円をまとめて払います。
| 前納する | 前納しない | |
|---|---|---|
| 1〜11月の引落し | 77万円 | 77万円 |
| 12月18日の引落し | 84万円(12か月分) | 7万円 |
| 今年の控除 | 161万円 | 84万円 |
今年の控除が77万円増え、今年の税金は約38万5,000円減ります。
来年の1〜11月分はもう払ってあるので、来年の控除はその分少なくなります。
積み立てる総額は変わりません。税率の高い年に控除を寄せるのが前納の使い方です。
月額を上げるのと違い、来年以降の毎月の負担は増えません。
「今年だけ所得が多い」という年には、増額より前納のほうが合っていることがあります。
すでに口座振替で払っている先生が12月に前納するには、「掛金一括納付申請書」を11月20日(金)までに中小機構に届ける必要があります(オンラインは同日23時59分まで)。 金融機関などの窓口を通すと、締切はそれより早くなります。 前納すると「前納減額金」という割引が数千円つきます。受け取った年は、その分を控除額から差し引いて申告します。
現金で増やせるのは、2026年が最後です
ここまでは口座振替の話です。 実はもう一つ、金融機関・商工会などの窓口で、現金を払って増額する方法(「現金あり」)があります。 申込月の差額を窓口で現金で払うので、11月・12月の手続きでも、その分は年内の支払いになります。 増額と前納を同時にしたい場合も、この方法です。
ただし中小機構は、2026年12月末で現金による掛金の納付を終えると案内しています。
| 時期 | 増額の払い方 |
|---|---|
| 2026年12月の窓口最終営業日まで | 口座振替、または窓口で現金(12月の窓口は混むため、12月初旬までが目安) |
| 2027年1月から | 原則として口座振替だけ |
つまり2027年からは、10月を過ぎたら増額では今年の控除を増やせません。 来年以降は、「10月の時点で今年の所得を読む」ことが前提になります。
増やす前に確かめてほしいこと
①掛金は経費ではなく、所得控除です
掛金は医院の必要経費にはなりません。確定申告で、所得から差し引く「所得控除」です。 84万円払っても、税金が84万円減るわけではありません。減るのは「掛金×税率」です。 税率15%(所得税5%+住民税10%)の年なら84万円で約12.6万円、55%の年なら約46.2万円。同じ84万円で、効き目が3倍以上違います。
②入れたお金は、原則として動かせません
共済金を受け取れるのは、廃業したとき、65歳以上で15年以上かけたときなどです。 途中で自分の都合でやめる(任意解約)と、20年未満では払った合計を下回り、1年未満では戻りません。 しかも増やした分は、増やした月から数え直しです。月額を変えた人は、20年以上かけていても合計を下回ることがあると、中小機構も注意しています。
医療機器の入れ替え、内装の改修、スタッフの賞与、来年3月の所得税。 これらのお金を先に残してから、残りを掛金にまわしてください。 手元資金の考え方は医院の資金繰りを楽にする、最初の一手に書きました。
③来年、医療法人にする予定はありませんか
医療法人の理事長になると、契約は続けられません。個人の医院を廃業して受け取る「A共済金」になり、加入期間を問わず請求できます。 ただ、法人にする直前の増額や前納は、すぐに受け取ることになるお金です。 法人化の予定がある年は、増やす前に受け取り方を確認してください(小規模企業共済と医療法人)。
④利益が少ない年は、減らすのも手です
掛金は月1,000円まで、500円単位で減らせます。 所得が少ない年に月7万円をかけ続けても、税率が低いぶん効き目は小さくなります。 資金が苦しいときは、やめる(任意解約)前に、まず減らすことを考えてください。 ただし、減らせば控除も減ります。減らした部分は、その時点までの月数で受け取り額が計算されます。
院長が今月やること
今日は10月17日です。月末まで2週間あります。次の3つだけ確認してください。
- いまの掛金がいくらか。1万円か、3万円か、すでに7万円か。11月に届く「掛金控除証明書」を待たず、通帳の18日の引落しで確かめられます。
- 今年の所得がいくらになりそうか。9月までの帳簿で十分です。社保・国保の診療報酬は、診療した月の2か月後に入ります。通帳の入金だけで判断せず、8・9月の診療分の未収も足して見てください。
- 年内にいくら追加で払えるか。手元資金を残したうえでの金額を決め、増額なら10月中、前納なら11月20日必着で手続きします。
節税は12月や3月に考えるものではありません。毎月の数字を見ていれば、10月に手を打てます。 年末に向けたほかの確認は年末までに確認したい個人の節税チェックリストにまとめています。
今年いくら増やすか、10月中に一緒に決めませんか。
9月までの試算表があれば、今年の所得と税率の見込み、手元に残すべき資金を出したうえで、 増額するか、前納するか、いくらにするかをお伝えします。 来年以降に法人化を考えている先生は、共済をどう受け取るかまで含めて整理します。
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最終更新:2026年10月17日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・期限・試算は執筆時点(2026年10月)の中小機構の案内と税制にもとづく概算で、手続きの締切は窓口や書類の到着状況によって変わることがあります。実際の増額・前納にあたっては、中小機構または委託機関の窓口と、税理士等の専門家にご確認ください。