2026年12月から、iDeCoで掛けられる金額が大きく上がります。 医療法人の理事長は月2.3万円から月6.2万円、個人でクリニックをやっている先生は月6.8万円から月7.5万円です。

枠が広がると、必ず出てくる質問があります。 「満額まで掛けたほうがいいですか」です。

税金だけを見れば、所得の高い院長ほど満額が有利です。 ただ、答えは個人開業医と理事長で違います。 決め手になるのは、掛けるときより受け取るときです。

この記事では、満額にするかどうかを決める順番と、受け取り方による税金の差を、数字で整理します。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

満額まで掛けるべきですか。
課税所得が高く、60歳まで使わないお金がある先生なら、満額が有利です。所得税40%の先生なら、理事長で年約37.8万円、個人開業医で年約45.8万円、税金が減ります。ただし先に「動かせないお金か」「受け取るときに退職金とぶつからないか」を確認してください。
個人開業医と理事長で、何が違いますか。
個人開業医の7.5万円は、国民年金基金・付加保険料と合わせた枠です。小規模企業共済との順番も考えます。理事長は、理事長退職金をいつ受け取るかで満額の価値が変わります。受け取りの順番だけで、税金が100万円以上違うことがあります。
12月になれば、自動で増えますか。
増えません。手続きが必要です。2026年12月1日から2027年11月30日までは、上限を上げるための増額は「年1回まで」の回数に数えない特例があります。12月に慌てて決める必要はありません。

満額にするかは、4つの質問で決まります

「枠が広がったから、満額にする」。この決め方はおすすめしません。 次の4つに順番に答えて、全部「はい」なら満額です。

 質問「いいえ」なら
①60歳まで使わないお金ですかその分は掛けない。iDeCoは原則60歳まで引き出せません
②課税所得は330万円以上ありますか減る税金が小さいので、満額の意味は薄い
③受け取るとき、退職金とぶつかりませんか受け取りの順番を先に決める(5章)
④ほかの器より先に入れるべきお金ですか個人開業医なら国民年金基金・小規模企業共済、理事長なら退職金の準備と並べて決める

①が一番大事です。 内科なら内視鏡やエコーの更新、歯科ならユニットやCTの入れ替え。 数年内に大きな支出が見えているなら、その分は手元に置いてください。 いつでも引き出せる積立なら、NISAのほうが向いています。

50代から始める先生は、もう1点あります。 60歳の時点で加入期間が10年に満たないと、受け取りを始められる年齢が後ろにずれます。 たとえば加入5年なら63歳からです。

iDeCoをすすめない場面そのものは、理事長におすすめしない3つのケースに書きました。 この記事は「やると決めた先生が、いくら掛けるか」の話です。

満額にすると、税金はいくら減るか

iDeCoの掛金は、全額がその年の所得から引けます(小規模企業共済等掛金控除)。 減る税金は「掛金 × 先生の税率」です。

税率は、所得税(復興特別所得税等を含めて2.1%上乗せ)と住民税10%の合計で計算しました。 12月からの満額を1年続けた場合です。

課税所得の目安所得税率個人開業医
月7.5万円(年90万円)
理事長
月6.2万円(年74.4万円)
195万円未満5%約13.6万円約11.2万円
195万〜330万円10%約18.2万円約15.0万円
330万〜695万円20%約27.4万円約22.6万円
695万〜900万円23%約30.1万円約24.9万円
900万〜1,800万円33%約39.3万円約32.5万円
1,800万〜4,000万円40%約45.8万円約37.8万円
4,000万円超45%約50.4万円約41.6万円

院長の多くは、下の3行のどこかに入ります。 この層では、掛けた額の4〜5割が税金で戻ってくる計算です。 入口の効き目だけで言えば、満額に十分な理由があります。

私自身も、iDeCoは満額で掛けています。 自分で運用先を選べて、増えた分に税金がかからないからです。

この表の読み方

課税所得が税率の境目に近い先生は、掛金を引いた結果、下の税率に落ちる部分があります。その分は表より少し小さくなります。
また、ここで減るのは掛けるときの税金だけです。受け取るときには税金がかかります。差し引きは5章で見ます。

個人開業医:7.5万円は、国民年金基金と同じ枠です

個人でクリニックをやっている先生の7.5万円には、条件があります。 国民年金基金の掛金、または国民年金の付加保険料と合わせて7.5万円です。

いま入っているものiDeCoに回せる上限(12月分から)
iDeCoだけ月75,000円
付加保険料(月400円)を払っている月74,000円(iDeCoは1,000円単位のため)
国民年金基金に入っている月75,000円 − 基金の掛金

歯科の先生は歯科医師国民年金基金、医科の先生は全国国民年金基金の日本医師・従業員支部に、開業のときに入っていることがよくあります。 たとえば歯科医師国民年金基金に月3万円掛けている歯科の院長なら、iDeCoに回せるのは月4.5万円です。 国民年金基金の上限も、同じく12月分から7.5万円(iDeCoと合算)に上がります。

法人にする予定があるなら、iDeCoを厚めに

この枠をどちらに寄せるかで、大事なのは将来、医療法人にするかどうかです。

 法人にすると
国民年金基金厚生年金に入るので加入資格を失います。それまでの分は将来の年金として残ります
小規模企業共済医療法人の理事長は入れないので、続けられません(法人化による廃業は、有利な「A共済金」で受け取り)
iDeCo続けられます。枠は月7.5万円から月6.2万円に変わります

つまり法人にしても持っていけるのは、iDeCoだけです。 数年内の法人化を考えている先生は、7.5万円の枠をiDeCoに厚めに使っておくと、あとで組み直す手間がありません。

小規模企業共済とは、別の枠です

小規模企業共済(月7万円まで)は、iDeCoとは別枠です。 両方満額なら年174万円が所得から引けます。課税所得900万〜1,800万円の先生なら、税金は年約76万円減ります。

ただし、両方満額にすると年174万円が長く動かせなくなります。 どちらを先に厚くするかは、性格の違いで決めてください。

 小規模企業共済iDeCo
掛金の変更いつでも増額・減額できる(500円単位)原則年1回まで
増え方あらかじめ決まった仕組みで、大きくは増えない自分で選んだ商品しだい。増えることも、減ることもある
お金が要るとき掛金の範囲で借りられる制度がある60歳まで引き出せない
医療法人にしたら続けられない続けられる

自費の売上が年によって大きく動く先生は、掛金を調整しやすい小規模企業共済が合います。 法人化を見すえる先生、運用で増やしたい先生は、iDeCoを先に満額にするほうが筋が通ります。

理事長:6.2万円の価値は、退職金で決まります

医療法人の理事長は、厚生年金に入っているので会社員と同じ区分です。 法人に企業年金(企業型DCや確定給付企業年金)がなければ、月6.2万円まで掛けられます。 法人に企業年金がある場合は、その掛金と合わせて6.2万円です。

理事長は役員報酬が高いことが多く、入口の効き目は大きくなります。 たとえば役員報酬が高く所得税40%の内科の理事長なら、満額で年約37.8万円税金が減ります。 いままでの月2.3万円なら年約14.0万円でしたから、2.7倍です。

それでも、理事長に「迷わず満額で」とは言えません。 理由は、理事長には退職金があるからです。

iDeCoを一時金で受け取ると、税金の上では退職金と同じ扱いになります。 退職金の税金を軽くする「退職所得控除」という枠は、 理事長退職金とiDeCoで別々には用意されません。 受け取る年が近いと、片方の枠が削られます。

理事長退職金そのものの仕組みは、医療法人の理事長退職金をご覧ください。

受け取りの順番で、税金はここまで変わります

退職金とiDeCoの一時金を別の年に受け取っても、次の期間内だと枠が調整されます。

受け取る順番枠が調整される期間調整を避けるには
iDeCoが先、退職金があと退職金の年の前年以前9年以内にiDeCoを受け取っている(2026年1月以後の受け取りから。以前は4年以内)10年以上あける
退職金が先、iDeCoがあとiDeCoの年の前年以前19年以内に退職金を受け取っている20年以上あける

以前は「iDeCoを先に受け取って、5年あけて退職金」がよく言われました。 いまは10年あけないと調整されます。 古い記事やセミナー資料の「5年」は、もう使えません。

例えば、こんな理事長で計算すると

次の前提で、4つの受け取り方を比べます。 50歳から60歳まで10年間、月6.2万円を満額で掛けた(合計744万円)。 所得税40%なので、掛けている間に減った税金は約378万円。 理事長としての在任30年、退職金は4,000万円。 運用の増減はないものとします。

受け取り方受け取るときに
増える税金
差し引き
(約378万円から)
① iDeCoを60歳で受け取り、10年以上あけて退職金約26万円約352万円
② 退職金を先に受け取り、翌年以降にiDeCo(19年以内)約70万円約308万円
③ iDeCoを60歳で受け取り、65歳で退職金約113万円約265万円
④ 退職金と同じ年にiDeCoを受け取る約163万円約215万円

読み取れることは2つです。

1つめ。この前提では、どの受け取り方でも差し引きはプラスです。 税率の高い理事長なら、退職金とぶつかっても、満額にした意味はなくなりません。

2つめ。一番いい形と一番悪い形で、約137万円違います。 一番悪いのは、退職金と同じ年にまとめて受け取ることです。 退職金の高い税率が、iDeCoの分にもそのままかかります。

逆に言えば、満額にする前に決めておくべきなのは、退職金を何歳で受け取るかです。 70歳まで診療を続けて退職金を受け取るなら、iDeCoは60歳前後で受け取る①の形が組めます。 70歳まで掛け続けると、この距離が取れなくなります。 70歳まで掛けるときの注意は、改正の中身の記事に書きました。

年金形式で受け取る道もあります

iDeCoは一時金ではなく、5〜20年の年金形式でも受け取れます。年金なら退職所得控除とはぶつかりません。
ただし年金は、ほかの所得と合算して税金を計算します。役員報酬を受け取っているあいだは、高い税率がかかります。理事長を退いて所得が下がってから受け取る形が向いています。

個人から法人にした先生は、出口が3つになります

個人開業のころに小規模企業共済に入っていて、その後に医療法人にした先生は注意が要ります。 法人化のときに受け取る小規模企業共済も、退職金と同じ扱いだからです。

たとえば45歳で法人化して共済金を受け取り、60歳でiDeCoを一時金で受け取ると、19年以内なので調整の対象になります。 そのうえで理事長退職金もあります。 小規模企業共済・iDeCo・理事長退職金。この3つを、何歳でどの順に受け取るか。 1枚の年表に並べてから、iDeCoの金額を決めてください。 法人化したときの小規模企業共済の扱いは、小規模企業共済と医療法人にまとめています。

院長が、12月までにやること

上限が上がっても、掛金は自動では増えません。 増やしたい先生は、ご自身で手続きが要ります。

 中身
いつの掛金から2026年12月分(2027年1月26日の引き落とし)から
手続き口座を開いている証券会社・銀行(運営管理機関)の事前受付か、e-iDeCo(オンライン手続き。2026年12月1日〜24日)。間に合わないと翌月分以降の反映になります
年1回の例外2026年12月1日〜2027年11月30日に、改正前の上限を超える額へ初めて増やす変更は、年1回の回数に数えません
年単位で払っている先生手続きが別になるので、運営管理機関に確認してください
手数料2027年1月の引き落としから、国民年金基金連合会の手数料が掛金を払うたび105円 → 毎月120円に。年1回まとめて払っても、月数分かかります

年1回の例外があるので、12月に満額で始めなくても損はしません。 まず今の掛金のまま年を越して、次の順番で決めても間に合います。

  1. 5年以内の大きな支出を書き出す(医療機器の更新、内装、分院、法人化の準備、自宅)。その分は掛金に回さない
  2. 確定申告書で課税所得を確認する。2章の表で、満額にしたときに減る税金を見る
  3. 受け取りの年表を作る。理事長退職金、小規模企業共済、iDeCoを何歳で受け取るか並べる
  4. 個人開業医は、国民年金基金・付加保険料と合わせて7.5万円を超えないか確認する
  5. 金額を決めて、運営管理機関で掛金変更の手続きをする

当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 iDeCoは節税商品ではなく、老後のお金を置く器です。 動かさなくていいお金が先に決まれば、満額にするかどうかは、自然に決まります。

出典:厚生労働省「2025年の制度改正(確定拠出年金)」、厚生労働省・国民年金基金連合会「2026年12月(2027年1月引き落とし分)からiDeCoの拠出限度額と加入可能年齢が引き上げられます」、 国民年金基金連合会「iDeCoの拠出限度額の引き上げにあわせてiDeCo掛金額変更をご希望の方へ、お手続きのご案内」「iDeCoの拠出限度額の引き上げ(2026年12月施行)による加入者掛金額変更(増額)の特例のご案内」「iDeCo加入者に係る手数料を見直します」、 iDeCo公式サイト「iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等」、全国国民年金基金「令和8年12月分掛金から国民年金基金掛金額の上限が引き上げられます」、歯科医師国民年金基金「Q&A」、 国税庁 タックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」・No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.2260「所得税の税率」・No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」、 総務省「個人住民税」、独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」。 税金の試算は、所得税(復興特別所得税等2.1%を含む)と住民税10%の合計で計算した概算で、運用の増減・端数処理・ほかの所得控除は考慮していません。受け取り方の比較は架空の前提による例示です。いずれも2026年10月時点。

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確定申告書と、理事長退職金・小規模企業共済・iDeCoの加入状況が分かれば、 満額にしたときに減る税金と、受け取るときにかかる税金を、先生の数字で並べます。 法人化を考えている個人開業医の先生は、iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済の配分もあわせて確認します。

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最終更新:2026年10月7日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の加入・掛金額をおすすめするものではありません。記載の制度・金額・税率は執筆時点(2026年10月)のものであり、税金の試算は架空の前提による概算です。実際の掛金額や受け取り方は、運営管理機関の最新の案内をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。