決算のときに、薬や材料の在庫を数えていますか。
「使うものだから、買った年の経費でいい」と思っていませんか。 それは違います。
期末に残っている在庫は、経費になりません。 資産として翌期に持ち越します。 ここを数えていない医院は、税務調査でほぼ確実に指摘されます。
この記事の結論
- 何を数えるのですか。
- 決算日の時点で、まだ使っていないもの全部です。医薬品、注射薬、検査試薬、歯科材料、技工物、そして診療材料。使えば経費、残っていれば資産。これだけです。
- 数えていないと、どうなりますか。
- 残っていた分の税金を払うことになります。在庫300万円を経費にしていたなら、法人税だけで75万円ほどの追徴です。これに加算税と延滞税が乗ります。
- 毎年きちんと数えていれば得しますか。
- 損も得もしません。払う時期がずれるだけです。ただし数えていない医院は、調査のたびに指摘されます。一度仕組みを作れば終わる話です。
使ったものだけが経費です
薬を100万円分買って、決算日に30万円分残っていたとします。
| 金額 | 扱い | |
|---|---|---|
| 買った | 100万円 | — |
| 使った | 70万円 | 経費 |
| 残っている | 30万円 | 資産(翌期の経費) |
100万円全部を経費にしていたら、30万円の経費が多すぎることになります。
翌期になれば経費になるので、最終的に損はしません。 でもその年の税金は、確実に不足しています。
医院で数えるもの
| 医科 | 歯科 |
|---|---|
| 院内処方の医薬品 | 印象材・石膏・レジン |
| 注射薬・ワクチン | 金属(金銀パラジウムなど) |
| 検査試薬・キット | インプラント体・アバットメント |
| 点滴・輸液 | 矯正のワイヤー・ブラケット |
| ガーゼ・注射器などの診療材料 | 技工物(できあがって、まだ入れていないもの) |
| コンタクトレンズなどの物販 | 歯ブラシ・サプリなどの物販 |
よく漏れるのが物販です。 歯ブラシ、サプリ、化粧品、コンタクトレンズ。 売るために持っているものは、当然、在庫です。
インフルエンザのワクチンは、秋にまとめて仕入れます。
12月決算の医院なら、決算日にかなりの量が残っていることがあります。
金額も小さくありません。ここを数えていないと、まとまった指摘になります。
歯科は、技工物が落とし穴です
歯科でいちばん見落とされるのが、技工物です。
技工所から納品されたクラウンやブリッジで、まだ患者さんの口に入れていないもの。 これは在庫です。技工料を払っていても、経費にはなりません。
| 状態 | 決算日の扱い |
|---|---|
| 技工所に依頼したが、まだ納品されていない | まだ何もしない |
| 納品されたが、まだ装着していない | 在庫(資産) |
| 装着した | 経費 |
技工物は1本あたりの単価が高いので、数十本たまれば数十万円になります。 納品済みで未装着のものが何本あるか、決算日に数えてください。
あわせて、金属も忘れないでください。 金銀パラジウム合金は価格が上がっていて、在庫として持っている金額が以前より大きくなっています。
いくらで数えるか
数えた個数に、買ったときの値段をかけます。
同じものを何回も違う値段で買っている場合は、 いちばん最後に買ったときの値段を使う方法(最終仕入原価法)が簡単で、 医院ではこれを使うことが多いです。
期限切れの薬、変質した材料、廃番になった在庫。
こういうものまで資産として残す必要はありません。
ただし「捨てた」という記録が要ります。
品名・数量・金額・廃棄した日を書いたメモと、できれば写真を残してください。
調査官は、ここを見ます
在庫について、調査官が見るのは主に3つです。
| 見られること | |
|---|---|
| ① | 棚卸表があるか。そもそも作っていない医院が、いちばん多い |
| ② | 去年と金額が違いすぎないか。毎年ほぼ同じ額なら、実際に数えていないと見られます |
| ③ | 決算日の直前に、大量の仕入がないか。経費を作るための駆け込みを疑われます |
②が痛いところです。 「毎年だいたい100万円くらい」という決め打ちをしている医院があります。 数えた形跡がないと、金額そのものを否定されます。
③もよくあります。決算前に材料を大量に発注する。 使っていなければ在庫なので、経費にはなりません。 節税になっていないどころか、お金だけ出ていきます。
数える仕組みを、1回だけ作る
正直に申し上げると、棚卸は面倒です。診療を止めて数えるわけにもいきません。
それでも、1回だけ仕組みを作れば、あとは毎年同じことをするだけです。
| やること | |
|---|---|
| ① | 数える場所を決める(薬品庫・診療室の引き出し・技工物の棚・物販の棚) |
| ② | 用紙を作る。品名・数量・単価・金額の4列だけ |
| ③ | 決算日の前後に、スタッフ2人で数える。1人が読み上げ、1人が書く |
| ④ | 用紙に日付と、数えた人の名前を書いて保存する |
④が大事です。「誰がいつ数えたか」が書いてある用紙があるだけで、扱いが変わります。 金額の多少より、実際に数えた証拠があるかどうかを見られます。
最後に。 棚卸は節税にはなりません。払う時期がずれるだけです。 でも、やっていないと調査のたびに指摘され、そのたびに加算税と延滞税を払います。 追徴されたらいくら払うのかも見ておいてください。 数えるのは年に1回、半日です。それで終わる話です。
出典:棚卸資産の評価は、法人は法人税法第29条および同法施行令第28条・第31条、 個人は所得税法第47条および同法施行令第99条による。 評価方法を届け出ていない場合の法定評価方法は最終仕入原価法(法人税法施行令第31条第1項、 所得税法施行令第102条第1項)。 廃棄損の計上には、廃棄の事実を示す記録が必要となります。 加算税・延滞税は国税庁タックスアンサー No.2026、No.9205。 個別の処理は事情によって異なります。いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。