月1万円の事務所と、月6万円の事務所。 同じ仕事をして、6倍の差がつくわけがありません。

安いには、安い理由があります。高いにも、高い理由があります。 どちらも、こちらの側の事情で決まっています。

相手の商売の仕組みを知っておくと、交渉もしやすくなります。 同業として、正直に書きます。

この記事の結論

税理士事務所は、何で儲けているのですか。
毎月の顧問料と、年1回の決算料です。これが売上の大半で、あとは確定申告や相続などの単発の仕事。原価はほぼ人件費なので、金額は「その医院に何時間かけるか」でほぼ決まります。
安い事務所は、なぜ安いのですか。
かける時間を減らしているからです。訪問しない、担当が税理士ではない、入力を医院にやってもらう、業務の範囲を狭くする。どれも悪いことではありません。ただし、それで納得しているかどうかです。
高い事務所は、その分いいのですか。
とは限りません。高いだけの事務所もあります。見るべきは金額ではなく、その金額で何をしてもらっているかです。

売上の中身は、ほぼ2つです

 中身性格
顧問料毎月固定。事務所の土台
決算料年1回固定。顧問料の2〜4か月分が多い
単発の仕事確定申告・相続・法人設立・調査の立ち会い変動

毎月決まった額が入ってくる商売です。 だから事務所は、契約を切られたくない。 これが交渉の余地が生まれるところです。

逆に言えば、新しく1件取るより、いまの1件を守るほうが大事という構造です。 要望を伝えたときに応じてもらいやすいのは、このためです。

原価は、ほぼ人件費です

税理士事務所に、材料費はありません。 かかるのは人の時間だけです。

1件にかかる時間(医療法人の例)目安
毎月の記帳の確認2〜4時間 × 12か月
毎月の訪問(移動込み)2〜3時間 × 12か月
決算と申告15〜30時間
届出・登記の段取り数時間
随時の相談読めません

合計すると、年に50〜100時間くらいになります。 年98万円なら、1時間あたり1万円から2万円。 これが、この商売の中身です。

だから金額は「時間をどれだけ使うか」でほぼ決まります。 売上の規模で決まっているように見えて、実際は作業量で決まっています。

安い事務所が、安くできる4つの理由

 やっていること先生への影響
訪問しない。資料は郵送か、画面越し顔を合わせて相談する機会がなくなります
担当が税理士ではない。スタッフが対応判断が要る話で止まります
入力を医院にやってもらう院内の手間が増えます
業務の範囲を狭くする。申告だけ年末調整も届出も別料金になります

どれも、ずるいことではありません。 減らした分だけ安くしている。筋は通っています。

問題は、それを知らずに契約することです。 「安いと思ったら、何も入っていなかった」となるのは、確かめなかったからです。

医療法人だと、ここが抜けがちです

事業報告書等の届出(会計年度終了後3か月以内)と 資産の総額の変更登記(事業年度末日から3か月以内)。
税務署に出すものではないので、安い事務所ほど範囲から外れています。 やってもらえるのか、別料金か、そもそも知っているのか。必ず確かめてください。

高い事務所が、高くしている理由

 理由納得できるか
税理士本人が担当している納得できます。時間単価が違います
業種を絞っていて、知識が深い納得できます。ただし本当に深いか確かめてください
業務の範囲が広い納得できます。何が入っているか確かめてください
事務所が大きく、経費がかかっている先生には関係のない事情です
紹介会社への手数料が乗っているこれも先生には関係ありません

④と⑤は、払う理由がありません。 立派なビルの家賃も、紹介料も、先生の医院には何も返ってきません。

逆に①〜③なら、高くても納得できます。 「高い」ではなく「何に対して高いのか」を聞いてください。

この仕事は、思ったよりリスクが高い

なぜ相応の金額になるのか。ひとつだけ、こちら側の事情を書かせてください。

税理士は、判断を間違えると賠償することになります。

ありがちな例影響
届出の期限を落としたその年、制度が使えません
消費税の選択を間違えた2〜3年しばられます
有利な計算方法を選ばなかった本来より多く納めることになります

顧問料が年98万円でも、判断を1つ誤れば数百万円の話になります。 税理士が賠償責任の保険に入っているのは、このためです。

これは先生にとっても大事な話です。 安さだけで選ぶと、この責任を引き受ける気のない事務所に当たることがあります。 契約書の損害賠償の条項は、必ず見てください。 顧問契約書のどこを見るかに書きました。

だから、こう交渉できます

仕組みが分かれば、交渉の筋道も見えます。

 言い方効く理由
「訪問を3か月に1回にして、その分下げられますか」事務所の時間が実際に減ります
「入力はこちらでやるので、その分下げられますか」同じく、時間が減ります
「同じ金額で、月次の報告を足してもらえますか」下げるより通りやすいことがあります
「別料金になっているものを、まとめられますか」合計額で交渉できます

①と②は、事務所の稼働が本当に減るので、応じてもらいやすいです。 「安くしてください」だけだと、断られます。 減らす作業とセットで言うのが、通るコツです。

③もお勧めです。金額が同じでも、受け取るものが増えれば実質的に安くなります。

最後に。 同業の商売の中身を書いたのは、先生に得をしてほしいからです。

税理士は敵ではありません。でも黙っていると、こちらの都合のいい形のまま続きます。 仕組みを知って、要望を伝える。それだけで関係は良くなります。 金額の目安は顧問料の相場に書きました。

出典:本文の事務所運営や料金の決まり方に関する記述は、公的な統計に基づくものではなく、 筆者が同業として把握している範囲での実態です。 税理士業務が税理士の独占業務であることは税理士法第2条・第52条。 事業報告書等の届出は医療法第52条第1項、資産の総額の変更登記は組合等登記令第3条第3項。 消費税の簡易課税の2年継続は国税庁タックスアンサー No.6505。いずれも2026年9月時点。

いまの顧問料、何に対して払っているか分かりますか。

顧問契約書と請求書があれば、いくらで何をしてもらっているかを一覧にします。 そのうえで、下げられるところと、足したほうがいいところをお伝えします。 乗り換えの営業はしません。いまの事務所との交渉材料としてお使いください。

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最終更新:2026年9月12日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。