お子さんやお孫さんに、まとまったお金を渡そうと考えている院長へ。 その贈与、いつ渡すかを先に決めてください。
同じ220万円でも、12月に一度に渡すと贈与税がかかります。 12月に110万円、翌年1月に110万円と分けると、贈与税は0円です。 渡す日がたった1週間ずれるだけで、結果が変わります。
院長の家庭では、贈与の出し手が2人いることがよくあります。 院長ご自身と、院長の親(同じく開業医だったことも多い)です。 この記事では、年末と年始に分ける仕組みと、そのときに外してはいけない記録の残し方、 そして相続のときに「足し戻される」贈与のルールまでをまとめます。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 年末と年始に分けると、なぜ得になるのですか。
- 贈与税は1月1日〜12月31日の1年ごとに計算するからです。12月に110万円、1月に110万円なら、どちらの年も非課税の枠(基礎控除110万円)の中に収まります。
- 気をつけることは何ですか。
- 現金で手渡ししないこと。契約書をその都度つくり、銀行振込で日付を残してください。毎年同じ日・同じ額を最初から約束していると、まとめて1回の贈与と見られる余地があります。
- 相続対策として効くのですか。
- 早く始めるほど効きます。亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻されます。その期間は2027年から段階的に延び、2031年以降は7年になります。
贈与税は「12月31日」で締まる
贈与税は、もらった人ごとに、1月1日から12月31日までの1年間で計算します。 この仕組みを「暦年課税」といいます。
1年間にもらった財産の合計から、110万円(基礎控除)を引きます。 110万円以下なら贈与税はかからず、申告もいりません。 超えた分には、もらった人が翌年2月1日〜3月15日に申告して贈与税を払います。
つまり、12月31日と1月1日は、たった1日違いでも別の年です。 例えば院長が、社会人の子ども(18歳以上)に220万円を渡す場合です。
| 渡し方 | その年にもらった額 | 贈与税 |
|---|---|---|
| 12月に220万円をまとめて | 220万円 | (220万円−110万円)×10%=11万円 |
| 12月に110万円、翌年1月に110万円 | 1年目110万円・2年目110万円 | どちらの年も0円 |
渡す総額は同じです。違うのは日付だけです。 贈与は「いくら渡すか」と同じくらい、「いつ渡すか」が大事です。
あげる人ごとに110万円あるわけではありません。 院長から110万円、院長の父から110万円を同じ孫が受け取れば、その孫は1年に220万円もらったことになり、110万円を超えます。 くわしくはこどもNISAと贈与税に書きました。
年末と年始に分けるときの3つの約束
仕組みは単純ですが、証拠が残っていなければ意味がありません。 税務署から見れば、「12月25日に現金で渡しました」「1月5日にも渡しました」は、いくらでも後から言えるからです。
① 現金ではなく、銀行振込で
院長の口座から、子どもや孫の口座へ振り込んでください。 通帳に日付と金額が残ることが、そのまま「この年の贈与」の証拠になります。
② 贈与契約書は、1回ずつ、その日に
12月分と1月分は、別々の契約書を、別々の日につくります。 12月にまとめて「12月に110万円、1月に110万円渡す」と1枚で約束すると、 12月の時点で220万円の贈与を約束したと見られるおそれがあります。 書面による贈与は、契約の効力が生じた時にもらったものとされるからです。
③ 銀行の年末年始の休みに注意
銀行の休日は、法令で12月31日から1月3日までと決まっています。 2026年の年末なら、12月30日(水)までに着金させてください。 12月31日にネットバンキングで手続きしても、他行あての振込は年明けの扱いになることがあります。 年始の分は、2027年1月4日(月)以降です。
子どもの名前の口座でも、通帳と印鑑を院長が持ち、子どもは口座があることも知らない。 こうした預金は「名義預金」として、相続のときに院長の財産と扱われることがあります。 贈与したら、通帳とカードは子ども本人に渡してください。 詳しくは預金はマイナンバーでバレるのかに書きました。
毎年同じ日・同じ額は「定期贈与」と見られる余地
年末年始に分けるのがうまくいくと、「毎年これを続けよう」となります。 そこで知っておいてほしいのが、定期贈与という考え方です。
国税庁は、次のように説明しています。 毎年その年ごとに贈与の契約をして、各年110万円以下なら贈与税はかかりません。 しかし、「10年間、毎年100万円ずつ渡す」と最初から約束している場合は、 約束した年に「10年分を受け取る権利(定期金に関する権利)」をまとめて贈与したものとして、贈与税がかかります。
口約束でも同じです。 ですから、毎年の贈与は、毎年その年に決めて、その年の契約書をつくる。 これが基本です。 金額や時期を毎年まったく同じにそろえ続けると、最初から決まっていたように見えやすくなります。 毎年、その年の事情で金額を決めてください。
分けると、かえって損をする場面
年始に110万円を渡すと、その年の枠はもう使い切っています。 その年にほかの贈与が重なると、超えた分に贈与税がかかります。
| 院長の家庭でありがちな重なり | どうなるか |
|---|---|
| 1月に院長が110万円。春に院長の父が入学祝いとして50万円を口座へ | 孫はその年160万円。50万円に贈与税がかかります |
| 1月に院長が110万円。夏に院長が子どもの車の購入代を出した | 通常の生活費・学費とはいえない支出は贈与です。合計で110万円を超えます |
| 1月に院長が110万円。院長の配偶者も同じ子へ110万円 | 子どもは220万円。110万円に贈与税がかかります |
その年のほかの贈与を見込んでから、年始の額を決めてください。 家族の誰が、誰に、いくら渡すのかを一度紙に書き出すと、重なりはすぐ見えます。
相続のときに足し戻される贈与
贈与は、相続対策としてよく使われます。 ただし、亡くなる前の一定期間の贈与は、相続財産に足し戻されます。 この期間が、2023年度(令和5年度)の税制改正で3年から7年に延びました。 延びるのは段階的で、亡くなった日によって次のように変わります。
| 亡くなった日 | 足し戻される贈与 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 亡くなる前3年以内 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日以後、亡くなった日まで |
| 2031年1月1日以後 | 亡くなる前7年以内 |
延びた部分(亡くなる前3年より前の分)は、合計100万円までは足し戻さなくてよいことになっています。 また、この期間の贈与は、110万円以下で贈与税がかからなかったものも足し戻されます。
足し戻されるのは、相続や遺言で財産をもらう人が受けた贈与です。 ここが院長の家庭では大事です。
医科の例:院長から子どもへ
例えば、福岡市の内科の院長(60歳)が、勤務医の長男に毎年贈与しているとします。 長男は将来の相続人です。院長に相続が起きれば、期間内の贈与は足し戻されます。 ですから院長がお元気なうちに、早く始めるほど効きます。
歯科の例:院長の父から孫へ
例えば、元開業歯科医の院長の父(82歳)が、院長の子ども(大学生)に贈与する場合です。 孫は、通常は祖父の相続人ではありません。 相続や遺言で財産をもらわなければ、孫への贈与は足し戻しの対象外です。 ただし、孫が祖父の生命保険の受取人になっている、遺言で財産をもらうといった場合は対象になります。
110万円以内では、10年続けても1,100万円です。
財産が大きい家庭では、あえて贈与税を払って多めに渡す方法もあります。
例えば、親から18歳以上の子へ1年に500万円なら、贈与税は(500万円−110万円)×15%−10万円=48万5,000円。
渡した額の約10%です。
相続税は財産が大きいほど税率が上がり、法定相続分で分けた額のうち1億円を超える部分は40%です。
どちらが得かは、足し戻しも含めて個別に試算して決めます。
相続時精算課税の110万円と、持分の贈与
もう1つ、「相続時精算課税」という贈与の制度があります。 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与で選べます。 2024年1月から、こちらにも年110万円の基礎控除ができました。
| 暦年課税(ふつうの贈与) | 相続時精算課税 | |
|---|---|---|
| 年110万円 | もらう人1人あたり、1年で110万円 | 選んだ贈与者ごとに、1年で110万円(複数いれば按分) |
| 110万円を超えた分 | 10〜55%の累進税率 | 累計2,500万円までは贈与税なし。超えた分は20% |
| 相続のとき | 期間内の贈与は足し戻し(最長7年) | 110万円の部分は足し戻さない。それを超えた分は、何年前でもすべて足し戻す |
| やめられるか | — | 一度選ぶと、その贈与者からは暦年課税に戻せません |
精算課税の110万円も、1年ごとの枠です。 ですから年末と年始に分ける考え方は、こちらでも同じように使えます。 ただ、選ぶと暦年課税の110万円は使えなくなります。どちらにするかは、親の年齢と財産の大きさで決めます。
2007年(平成19年)の医療法改正より前からある医療法人では、理事長が出資持分を持っていることがあります。 持分を子どもに贈与するときは、出資した額ではなく、法人の利益や純資産から計算した評価額で贈与税がかかります。 長く続いた医院ほど、評価額は大きくなりがちです。 現金の贈与とは別に、評価を出してから考えてください。 持分あり医療法人の相続もあわせてどうぞ。
院長が12月までに確認すること
いまは10月です。年末年始の家族の集まりで話をするなら、確認はいまのうちです。
| 確認すること | |
|---|---|
| ① | 今年すでに渡した額はいくらか(子ども・孫それぞれ) |
| ② | ほかの人からの贈与はないか(院長の親、配偶者、配偶者の親) |
| ③ | 今年中に渡す必要があるか。あるなら12月30日までに着金 |
| ④ | 来年の分と分けるか、今年でまとめるか。来年のほかの贈与も見込んで決める |
最後に1つ。贈与したお金は、もらった人のものです。 渡したあとは、どう使うかに口を出せません。 節税の前に、誰に、いつ、いくら、何のために渡すのかを家族で話してください。 こうした話は子どもの側から切り出しにくいものです。院長から声をかけてください。
相続全体の段取りは、医療法人の出口や 年末までに確認したい個人の節税チェックリストも参考にしてください。
今年と来年、誰にいくら渡すか。一緒に決めませんか
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最終更新:2026年10月17日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・税率は執筆時点(2026年10月)の法令に基づくもので、その後の改正により変わる場合があります。実際の贈与・相続対策にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。