スタッフの慰安旅行、そろそろ企画したいけれど、経費としてどこまで認められるのか迷っている先生も多いのではないでしょうか。
慰安旅行の費用は、条件を満たせば福利厚生費として全額を損金にできます。
ただしその条件は、法人であれば必ず満たせるわけではなく、細かい要件があります。
さらに医療機関には、診療を止められないため、スタッフ全員を同時に旅行へ連れて行きにくいという業種特有の事情があります。
この記事では、福利厚生費として認められるための一般的な条件と、医療法人ならではの注意点を整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 慰安旅行の費用は、経費にできますか。
- 条件を満たせば、福利厚生費として全額を損金にできます。
主な条件は、①旅行期間が4泊5日以内(海外は現地滞在が4泊5日以内)、②全従業員の50%以上が参加、③社会通念上一般的な旅行であることの3つです。 - 条件を満たさないとどうなりますか。
- 参加した従業員への給与として課税されるリスクがあります。所得税・住民税に加え、社会保険料の対象になる可能性もあり、法人側にも源泉徴収漏れの指摘が及びます。
- スタッフ全員を一度に連れて行けない場合はどうすればよいですか。
- 診療を止められない医療機関では珍しくない状況です。シフトを分けて複数回に分けて実施する場合の参加率の考え方は、判断が分かれやすい論点です。実施前に必ず顧問税理士にご相談ください。
福利厚生費として認められる3つの条件
国税庁の取扱いでは、従業員の慰安旅行にかかる費用は、次の3つの条件をすべて満たす場合に、社会通念上一般的なものとして福利厚生費(全額損金)にできるとされています。
①旅行の期間が4泊5日以内であること
国内旅行であれば4泊5日以内、海外旅行の場合は現地での滞在日数が4泊5日以内であることが基準です。移動のための機内泊などは、この日数に含めずに判断します。
②参加人数が全従業員数の50%以上であること
旅行に参加した人数が、その法人の全従業員数の50%以上である必要があります。
工場や支店ごとに複数のグループに分けて実施する場合は、それぞれのグループごとに人数の50%以上が参加していることが求められます。
③実態を伴う、社会通念上一般的な旅行であること
旅行の目的・規模・行程・費用の負担割合などから見て、一般的な社員旅行として妥当な内容であることも条件です。
実質的に私的な旅行や、特定の役員・従業員のためだけの旅行とみなされるものは対象になりません。
「4泊5日以内」「参加率50%以上」「実態を伴う一般的な旅行」の3条件をすべて満たして初めて、全額が福利厚生費になります。
どれか1つでも欠けると、税務上は給与として扱われるリスクが生じます。
1人あたりいくらまでか——国税庁が示した3つの例
「1人あたりいくらまでなら大丈夫か」は、必ず聞かれる質問です。
先にお答えすると、法令に金額の基準はありません。4泊5日以内・参加率50%以上という条件はありますが、金額の上限は決まっていないのです。
ただし国税庁は、実際の金額を挙げた3つの例を公表しています。ここが実務上の目安になります。
| 日数 | 旅行費用 (1人あたり) | 法人の負担 (1人あたり) | 参加率 | 扱い |
|---|---|---|---|---|
| 3泊4日 | 15万円 | 7万円 | 100% | 課税されない |
| 4泊5日 | 25万円 | 10万円 | 100% | 課税されない |
| 5泊6日 | 30万円 | 15万円 | 50% | 課税される |
出典:国税庁タックスアンサー No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行
3つ目が課税されるのは、金額が高いからではありません。5泊6日で、4泊5日を超えているからです。日数の条件を外した時点で、金額を問わず給与になります。
国税庁が「課税されない」とした2つの例は、法人の負担が1人あたり7万円と10万円でした。
法令の基準ではありませんが、実務ではこの10万円が一つの目安になっています。これを大きく超えると、「少額の現物給与だから課税しない」という前提から外れていく、という考え方です。
なお、この例では旅行費用の一部を従業員も負担しています(15万円のうち法人7万円、4泊5日の例では25万円のうち法人10万円)。全額を法人が持つ必要はありません。
現金支給に代えると、課税されるリスクがある
旅行に参加できなかった従業員に対して、旅行に代えて現金を支給するケースがありますが、これは避けるべき対応です。
不参加者に金銭を支給すると、その現金はもちろん給与として課税対象になります。
それだけでなく、旅行に参加した従業員側についても、旅行の費用自体が給与として課税されるリスクが生じるとされています。
「参加者は旅行、不参加者は現金」という選択制にした時点で、旅行の実費相当額もあわせて経済的利益とみなされかねないためです。
不参加者への配慮のつもりでも、現金支給は参加者・不参加者の両方を課税対象にしてしまう典型的な失敗パターンです。
旅行に参加できない事情があるスタッフへの対応は、現金支給以外の方法(休暇の付与など)で検討することをおすすめします。
医療法人特有の悩み——診療を止められない中での実施
一般の会社であれば、全社員で一斉に休業して旅行に出るという選択肢もありますが、医療機関はそうはいきません。外来・入院患者の対応があり、診療を完全に止めるわけにはいかないためです。
そのため、医療法人の慰安旅行では、スタッフをシフトに分け、複数回に分けて実施するケースが少なくありません。
たとえば、看護師とクラークで日程を分けたり、同じ行き先・同じ内容の旅行を2回に分けて実施したりといった形です。
複数回に分けて実施する場合、「全体の参加率50%以上」をどう見るかは、法令上の明確な基準がなく、判断が分かれやすい論点です。
各回をまとめて1つの旅行として参加率を判定できるのか、回ごとに独立した旅行として扱うべきかは、旅行の内容・期間・費用の設計によって結論が変わり得ます。
実施を検討する段階で、必ず顧問税理士にご相談ください。
シフトを分けること自体が問題になるわけではありません。
「診療を止められない」という事情に応じた合理的な分け方であり、実態を伴っていることを前提に、条件をどう満たすかを事前に設計しておくことが重要です。
条件を満たさない場合、どう課税されるか
3条件のいずれかを満たさない場合、旅行費用は参加した従業員への給与として扱われます。具体的には次のような影響が生じます。
| 対象 | 影響 |
|---|---|
| 参加した従業員 | 旅行費用相当額が給与とみなされ、所得税・住民税の対象になる |
| 法人 | 源泉徴収漏れを指摘され、追徴課税(不納付加算税等)の対象になり得る |
| 理事長・役員が参加した場合 | 役員分は原則として役員賞与とされ、法人側で損金算入できない |
特に役員(理事長を含む)の旅行費用は、一般の従業員と同じ基準では判断されず、役員賞与として損金不算入になるケースがある点にも注意が必要です。
節税額よりも大きい、スタッフ定着への効果
慰安旅行を福利厚生費にできたとしても、正直なところ、節税額そのものはそれほど大きなものではありません。
旅行費用が全額損金になることによる法人税等の圧縮効果は、旅行にかかる支出額次第です。
それでも慰安旅行を検討する価値があるとすれば、スタッフの満足度・定着率の向上という、節税とは別の効果があるためです。
看護師・医療スタッフの採用が難しい中、日頃の労をねぎらう機会を用意できることは、金額換算しにくい形で法人の力になります。
節税を主目的にするのではなく、福利厚生を税務上も無理のない形で実施する、という順序で考えるのが実務的です。
スタッフへの還元には、ほかの方法もあります。→ 医療法人の決算賞与/医療法人の中小企業退職金共済
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。