金利が上がりはじめました。政策金利は1.0%になり、変動金利も動いています。
それを受けて、こんな相談が増えました。 「金利が上がるなら、自宅のローンを繰り上げて返したほうがいいですよね」
私の答えは「ちょっと待ってください」です。
繰り上げて返すと、消えるのは利息だけではありません。 住宅ローン控除、団信、そして手元のお金。この3つを失ってでも返すべきか、先に計算してください。
この記事の結論
- なぜ繰上返済を勧めないのですか。
- 失うものが3つあるからです。①住宅ローン控除——年末のローン残高で決まるので、残高を減らせば控除も減ります。②団信(団体信用生命保険)——ローンは生命保険とセットです。返すことは、保障を減らすことです。③手元のお金——一度返したお金は、二度と同じ条件では借りられません。
- 金利が上がっても、ですか。
- 金利しだいです。住宅ローン控除は年末残高の0.7%。金利が0.7%より低かったころは「借りているほうが得」でしたが、変動が上がればこの関係は逆転します。ただし逆転しても、すぐ返すのが正解にはなりません。失う団信と手元のお金を差し引いて考えてください。
- では、いつ返すのですか。
- ①控除の期間が終わった、②ほかの生命保険で保障が足りている、③医院でお金が要る予定がない、④手元のお金が厚い。この4つが揃ってからです。順番でいえば、自宅より先に医院の借入を見直してください。
消えるもの① 住宅ローン控除
住宅ローン控除は、その年の年末に残っているローンの額に0.7%をかけて計算します。
つまり繰り上げて返して残高を減らせば、そのぶん控除も減ります。 「利息を減らそうとしたら、税金が増えた」ということが起こります。
住宅ローン控除は、返済期間が10年以上のローンでないと使えません。
期間を縮める型の繰上返済を繰り返して、借りたときから数えた返済期間が10年より短くなると、 その時点で控除が使えなくなります。
控除の期間がまだ何年も残っている段階で期間を詰めると、 減らせた利息より、失う控除のほうが大きくなることがあります。
住宅ローン控除には所得の上限があります。その年の所得が2,000万円を超えると、そもそも使えません。
役員報酬が高い理事長は、すでに対象から外れていることがあります。 その場合、この章の話は当てはまりません。制度のことは医療法人の理事長と住宅ローン控除に書いています。
消えるもの② 団信という生命保険
ここは見落とされがちです。住宅ローンには、団信という生命保険がついています。 借りている人に万一のことがあれば、残りのローンはゼロになって、ご家族に家が残ります。
つまりローンの残高=生命保険の保障額です。 5,000万円の残高があるなら、5,000万円の死亡保障がついているのと同じ。 しかも保険料は金利に含まれていて、別に払っているわけではありません。
繰り上げて返すとは、この保障を自分から減らすということです。
| 返す前 | 3,000万円を繰り上げて返したあと | |
|---|---|---|
| ローンの残高 | 5,000万円 | 2,000万円 |
| 団信の保障 | 5,000万円 | 2,000万円 |
| 手元の現金 | 3,000万円 | 0円 |
万一のことがあったとき、前者ならご家族にローンのない家と、現金3,000万円が残ります。 後者はローンのない家だけ。同じところから出発して、結果はこれだけ違います。
消えるもの③ 手元のお金=打ち手の数
3つめが、いちばん大事だと思っています。
当事務所は「金を借りろ」という考え方でご案内しています。 手元のお金の厚さが、そのまま打ち手の数になるからです。 機器が壊れても、いい物件が出ても、いい人が来ても、現金がなければ動けません。
繰り上げて返すとは、手元の現金を、動かせない資産(自宅)に変えることです。 そして一度返したお金は、二度と同じ条件では借りられません。
住宅ローンより低い金利で、35年という長さで、しかも生命保険つきで借りられるお金は、ほかにありません。
繰り上げて返したあとで、お金が必要になって自宅を担保に借りようとしても、 事業のお金として借りる金利は、住宅ローンとはまったく別です。
住宅ローンは「家を買うため」のお金だから、あの条件で借りられます。 返してしまえば、その枠は戻ってきません。
金利が上がると、計算はどう変わるか
とはいえ、金利が上がれば前提は変わります。正直に整理します。
| ローンの金利 | 控除0.7%との関係 | 考え方 |
|---|---|---|
| 0.5%前後(これまで) | 金利<控除 | 借りているほうが得。返す理由がありませんでした |
| 0.7%前後 | ほぼ同じ | 利息と控除が相殺。団信と手元のお金のぶん、借りているほうが得 |
| 1.0〜1.5% | 金利>控除 | 利息のほうが大きい。ただし差は0.3〜0.8%ほど |
| 2%以上 | 金利≫控除 | 差がはっきりします。ここまで来たら、真剣に考える場面 |
残高3,000万円で、金利と控除の差が0.5%なら、1年の差は15万円です。 小さくはありません。でも、3,000万円の死亡保障と3,000万円の現金を手放してまで、取りに行く金額でしょうか。
控除の期間は有限です。終われば、この計算から控除の側が消えます。 「控除が終わる年」が、最初に考えるタイミングだとお考えください。
それでも返していい場面
返すな、とだけ書くのはフェアではありません。次が揃えば、考える意味があります。
- 住宅ローン控除の期間が終わっている。あるいは所得が2,000万円を超えていて、そもそも使えていない
- 生命保険で保障が足りている。団信が減っても、ご家族に残せる額が変わらない
- 医院でお金が要る予定が、当面ない。機器の入れ替え、法人化、建て替えの予定がない
- 手元のお金が厚い。返しても、なお年商の数か月分の現預金が残る
- 金利がはっきり高い。変動が2%を超えるような水準
逆にいえば、1つでも欠けているなら、いまは待つということです。 とくに3番。医療機器の入れ替え時期は読み切れません。故障や制度の変更で、急に前倒しになることもあります。
返すなら「期間を縮める型」に注意
繰上返済には2つのやり方があります。効果と副作用が違います。
| 期間を縮める型 | 毎月の額を減らす型 | |
|---|---|---|
| 何が変わるか | 毎月の返済額はそのまま、終わりが早くなる | 終わりはそのまま、毎月が軽くなる |
| 利息が減る効果 | 大きい | 小さい |
| 住宅ローン控除への影響 | 期間が10年より短くなると控除が消える | 期間は変わらないので、その心配はない |
| 毎月の資金繰り | 変わらない | 楽になる |
一般には「利息が多く減るから期間を縮める型」と言われます。数字だけ見ればそのとおりです。 でも控除の期間が残っているなら、期間を詰めるリスクを必ず確認してください。
毎月の額を減らす型は、手元の資金繰りを楽にする効果があります。 利息の減り方は小さくても、安定という意味では悪くない選択です。
順番でいえば、自宅より医院が先です
最後に、順番の話です。
金利上昇で本当に効いてくるのは、自宅のローンではなく医院の借入です。
医院の設備資金や運転資金は、変動金利で借りているものが多く、 世の中の金利が上がれば、いま借りている分もそのまま上がります。 金額も自宅ローンより大きいことが珍しくありません。
やることの順番は、こうです。
- 医院の借入を一覧にする。何を、いくら、何%で、固定か変動か
- 変動の残高をつかんで、固定にできないか考える。公庫のように「借りた時点の金利で固定される」窓口の価値が上がっています
- いつでも借りられる枠を、信用があるうちに作る
- そのうえで、自宅のローンをどうするか考える
くわしくは医院の借入は、10月に上がりますに書いています。
当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 繰上返済も同じで、「金利がもったいない」という気持ちだけで動くものではありません。 利息、控除、団信、手元のお金。この4つを並べて、それでも返すかを決めてください。
出典:住宅ローン控除の控除率0.7%および償還期間10年以上の要件は租税特別措置法による。 政策金利および変動金利の動向は日本銀行の公表および各種報道による。 借入限度額・控除期間・所得要件は、入居した年や住宅の性能によって異なります。いずれも2026年9月時点。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断や返済計画の適否を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。住宅ローン控除の適用要件は入居した年によって異なります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家および金融機関にご相談ください。