先生方のところには、生命保険の営業がよく来ます。 医局にいたころも、開業してからも、法人にしてからも。担当者がついて、定期的に連絡が来る。

理由ははっきりしています。収入が多くて、法人があって、そして忙しい。 売る側から見て、これ以上の条件はありません。

保険そのものを否定するつもりはありません。必要な保障は必要です。 ただ「節税になります」という入口から入るのは、順番が逆です。

そしてその「節税」の中身は、ここ数年で大きく変わりました。

この記事の結論

「保険料が全額経費になる」は本当ですか。
いまは、ほとんど当てはまりません。2019年に国税庁のルールが変わり、法人で入る保険は「途中でやめたときに戻ってくるお金の割合」に応じて、保険料の一部を経費にできなくなりました。昔の「全額経費」型の節税保険は、事実上なくなっています。
いまの法人保険に、節税効果はないのですか。
「税金が減る」のではなく「あとまわしになる」と考えてください。解約して戻ってきたお金は、その年の利益に加わります。払うときに経費にした分は、戻ってくるときに課税されます。出口をどう作るかで、得にも損にもなります。
では、どう考えればいいですか。
順番を逆にしてください。①ご家族と医院にいくら必要かを先に出す。②すでにある保障を引く。③足りない分だけ、いちばん安い方法で埋める。この順で考えれば、勧められた商品が要るかどうかは、自然に分かります。

なぜ、医師のところに営業が集まるのか

悪意の話ではありません。条件が揃っているだけです。

条件売る側から見ると
収入が多い保険料を払える。節税の効果も大きく見せられる
法人がある法人契約という、金額の大きい提案ができる
忙しいじっくり比べる時間がない。「お任せします」になりやすい
お金の専門家ではない提案書の中身を細かく見られにくい
紹介が効く医局・同窓・医師会と、横のつながりで広がる

そして保険は、契約が取れたときの手数料が大きい商品です。 保険料の高い商品ほど、売る側の収入も大きくなります。 「先生におすすめです」という言葉の裏に、この仕組みがあることは知っておいてください。

担当者を疑ってください、という話ではありません

誠実な担当者はたくさんいます。私も、必要な保障は保険で備えるべきだと思っています。

申し上げたいのは、先生の側に判断のものさしがないと、比べようがないということです。 そのものさしを、この記事で作ってください。

「全額経費」の保険は、もうありません

昔は、法人で入る保険の保険料を全額経費にできる商品がありました。 利益が出た年に入って所得を圧縮し、数年後に解約してお金を受け取る。いわゆる「節税保険」です。

これが2019年に、国税庁のルール変更で大きく制限されました。

いまは、その保険の「途中でやめたときに戻ってくるお金の割合」がいちばん高くなるときの数字を見て、 保険料のうち一定の割合を経費にせず、資産として帳簿に残すことになっています。 戻ってくる割合が高い商品ほど、経費にできる部分が小さくなります。

「全額経費です」と言われたら

いまでも全額経費になる保険はあります。ただしそれは解約してもほとんどお金が戻ってこない(掛け捨てに近い)商品です。

つまり「全額経費」と「お金が戻ってくる」は、原則として両立しません。

「全額経費で、しかも解約すればほぼ全額戻ります」——この2つを同時に言われたら、 提案書の「解約したらいくら戻るか」の一覧表を見せてもらってください。そして顧問税理士に確認を。

「あとまわしになるだけ」の意味

仮に一部が経費になったとしても、話はそこで終わりません。 解約して戻ってきたお金は、その年の利益に加わります。

 払っている間解約したとき
利益への影響経費になった分だけ減る戻ってきた分だけ増える
タイミング何年かに分かれる1年に集中する

つまり税金が消えるのではなく、払う時期が後ろにずれるだけ。 しかも払うときは何年かに分かれ、戻すときは1年に集中します。税率が上がる方向に働きます。

この形は経営セーフティ共済とまったく同じです。

では、どうするか。解約する年に、大きな経費をぶつけるのが定石です。 医療法人でいえば、理事長退職金がその代表です。

「退職金の原資にする」という説明は、正しい

法人保険の本来の使い方は、これです。 戻ってくるお金がいちばん多くなる時期と、理事長を退いて退職金を出す時期を合わせる。 利益と経費が相殺されて、法人にはほとんど税金が出ません。

ただしこれは「何年後に退くか」を決めていて、はじめて成り立つ話です。 時期が読めていないのに「退職金の原資に」と言われて入るのは、順番が違います。 退職金そのものは医療法人の理事長退職金をご覧ください。

契約者を個人に移す方法も、封じられました

もうひとつ、かつてよく提案されていた方法があります。

解約したときに戻ってくるお金が、一時期だけ低くなる保険。 これを法人で契約して、戻ってくる金額が低い時期に、その安い値段で理事長個人に契約者を移す。 そのあと金額が跳ね上がったところで、個人が受け取る——という形です。

これも2021年に国税庁のルールが変わって、この方法の効果はなくなりました。

いま「法人から個人に移せば安く受け取れます」と言われたら、 その説明がルール変更後のものかどうか、必ず確認してください。

「増えます」と言われたときの見方

節税とは別に、「貯まる保険」として勧められるものがあります。 ドル建ての終身保険、運用成績で変わる保険、まとめて払うタイプなどです。

見るときの視点はひとつ。「保険」と「運用」を分けて考えることです。

確かめることなぜ
1年あたり何%か「戻り率130%」は、何年かけたかを無視した数字です。20年で1.3倍なら、1年あたり1.5%ほど
手数料はいくらか払った保険料の全額が運用に回るわけではありません。保障の費用と販売の手数料が引かれます
為替の損は誰が負うかドル建ては、円に戻すときのレートで結果が変わります。「ドルでは増えている」は、円での結果とは別です
途中でやめたらどうなるか早くやめると、多くの商品で払った額を大きく下回ります
保険以外で同じことができないか掛け捨ての保険+iDeCoやNISAで、もっと安く同じ目的を果たせないか

この5つを聞いて、すべて即答できる担当者なら、信頼していい相手だと思います。

順番が逆です——いくら必要かを先に

正しい順番は、こうです。商品の話は、いちばん最後に来ます。

  1. いくら必要かを出す。 先生に万一のことがあったとき、ご家族の生活費、お子さんの学費 (私立の医学部なら6年で2,000万〜4,000万円超)、 医院を畳む費用、そして借入の返済。これを足します。
  2. すでにある保障を引く。ここを飛ばす方が、本当に多いです。
    • 団信——住宅ローンの残高分は、そのまま保障です(繰り上げて返すと減ります
    • 遺族年金
    • 医師会や医師協同組合の保障
    • すでに入っている保険
    • 医療法人に残っているお金
  3. 足りない分だけ、いちばん安い方法で埋める。 保障だけなら、掛け捨ての保険がいちばん安く済みます。
たいていの場合、必要額は思っているより小さくなります

2の作業をすると、すでにかなりの保障を持っていることに気づく先生がほとんどです。 団信、遺族年金、法人に残っているお金。足すと、追加で要る額はかなり小さくなります。

私は「保険に入るな」とは言いません。ただ多くの方が入りすぎているとは思っています。

断り方

最後に、断るのが苦手な先生のために。

  1. その場で決めない。これがすべてです。 「顧問税理士に確認します」——この一言で十分。断る理由を自分で作る必要はありません。
  2. 提案書を置いていってもらう。 口で聞くのではなく、年ごとに「払った合計」と「解約したら戻る額」が並んだ表をもらってください。 これがないと比べようがありません。
  3. 「これは全額経費になりますか」と聞く。 2019年のルール変更を踏まえた答えが返ってくるかどうかで、相手の力量が分かります。
  4. 「解約したら、そのお金は利益になりますよね」と確認する。 ここをあいまいにする説明なら、その提案は保留にしてください。
  5. 複数の会社で見積もりを取る。同じ保障を、いくらで買えるか。比べれば分かります。

当事務所では、行き過ぎた節税はしないという考え方でご案内しています。 保険も同じです。保険は、保障を買うための商品です。 節税は、結果としてついてくるかどうかの話であって、目的にするものではありません。

提案を受けて迷ったら、契約する前にご相談ください。 入ってしまってからより、その前のほうが、はるかに選べます。

出典:法人契約の定期保険等に係る保険料の取扱いは、令和元年(2019年)の法人税基本通達の改正により、 最高解約返戻率の区分に応じて一定割合を資産計上することとされた。 低解約返戻金型保険等を法人から個人へ名義変更する場合の評価は、令和3年(2021年)の所得税基本通達の改正による。 解約返戻金は法人の益金となる。 個別の商品の税務上の取扱いは、契約内容・契約時期によって異なります。いずれも2026年9月時点。

提案された書類、契約する前に見せてください。

すでに医療法人の先生には「決算書ワンポイント診断」を無料で行っています。 いま入っている保険の中身、勧められた商品の経費の扱いと出口、 そもそも保障が足りているのかまで、先生の数字で整理してお伝えします。顧問税理士の切り替えは不要です。

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最終更新:2026年9月11日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品・保険会社について評価するものではありません。また個別の税務判断や保険加入の適否を保証するものでもありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、契約の内容・時期によって税務上の取扱いは異なります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家および保険会社にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。